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森羅万象をインターネットで調べようとする俺たちだが、病気のことだけはネットで調べてはいけない - カレー沢薫

無職の「無」が表すのは、職だけではない。
社会保障、信用、未来、ありとあらゆるものが無なのである。

その数ある「無」の中でも、見落とされがちだが、ある意味一番厄介なものがある。

無職には「健康診断」がないのだ。
会社員であれば、大体会社で定期健康診断がある、費用も会社持ちだ。
さらに、期限までに行かないと地獄のように怒ってくれる係もいる、まさに至れり尽くせりである。

 

これが無職になると一切なくなる。
一応健診のお知らせみたいなのは来るのだが、行くかどうかは完全に自由意志だ。

無職なのだから、いつでも行けるだろう、と思うだろうが、いつでも行ける、というのは「ここではないどこか」と同じなのだ、つまり一生到達できない。

さらに、無職の「無」には当然金も入っている。
無職の健康診断というのは当然自腹なのなのだ。
よって健康診断のお知らせを見ても「7500円」という数字を見た瞬間「ガチャ70連」と一瞬で換算してしまうため、ますます腰が遅くなる。

そんなわけで去年無職になってから、丸一年以上健康診断には行っていなかったのだが、先月やっと行った。

正直、思ったより早く行った方だと思う。

漫画家というのは仕事がハードで生活が不規則、当然不健康、そして突然死ぬ職業と思われていると思う。

別に、漫画家はランダムで体が爆発四散する職業というわけではない。
それに、最近では会社員なのに全盛期の手塚治虫みたいな生活をしている人はいくらでもいるだろう。

ただ、上記の通り健康診断が完全自由意志なため、病気が初期で発見されづらく、不調を感じて病院に行った時は手遅れということがあるのだ。
確かに会社の定期健診は簡易な物であり、時々尿の代わりにリアルゴールドをスルーされるんじゃないかというぐらい適当なところもあるが、それでも年一で健診するのとしないのでは大きな差がある。

しかし、逆に言えば、漫画家は会社員と違って行こうと思えばいつでも病院に行けるし、スケジュールを全部自分で決められるので、健康に気を遣おうと思えばいくらでも遣える。

つまり、漫画家は突然爆発四散する奴と、健康を越えて筋肉ゴリラになっている奴の二極化する。

私は明らかに爆発側であり、結論から言うと、血便で要精密検査になった。
森羅万象をインターネットで調べようとする俺たちだが、病気のことだけはネットで調べてはいけない。
悪い情報だけ集めて、病院に行くのが怖くなるか、良い情報だけ集めて、病院に行くほどではないと思いこもうとするかの二択であり、どっちにしても病院が遠のく。
こればかりは「ググるな、カス」なのだ。

よって、要検査の通知が来た次の日に検査の予約をしに行き「誕生日に大腸カメラ」が大決定した。

大腸カメラとは、前日から絶食、当日は下剤を2リットルぐらい飲んで全てを出した後、尻にカメラを入れられるアレだ。

ケツの新たな幕開け、ある意味「再誕」と言える日になりそうだが、何も誕生日に、という気もする。
さらにそれで命に関わる病気が発見される可能性もあるのだ。

暗澹たる気分だが、すぐに思い直した。
何度も書いているが誕生日、というのは、今まで金で買ってきた「JPEGのイケメン」たちが、祝いの言葉を言いに私の前に列を作る日なのだ。

検査を誕生日にしたことにより、検査の前にこれが聞けるのだ、これ以上の励みはない。
むしろ、大腸カメラや痔の手術は誕生日にこそすべき、と言えるだろう。

このように、推しというのは、様々な人生の窮地を救ってくれる。
オーバーではなく、仕事や、恋愛、家庭など、様々なクライシスを推しとの出会いで乗り越えられたという人間はたくさんいる。

現実は厳しくままならぬ、だからこそ文字通り別次元からの癒しが有用なのだ。

よって、北方謙三御大が若人の悩みに「ソープに行け」と答えたように、私は大体の相談に「推しを作れ」と言っている。

だがもちろん、そう簡単に作れない、元々、漫画やアニメ、アイドル何かに興味がない、と言われることもある。
しかし、推しとはそういうものだけではないのだ。

別の連載の担当の話だが、病院の待合室で診察を待っていると、老婆が受付の人に「私は先生に見ていただけるのだけが楽しみなのに、何故先生は3か月に1回しか診てくださらないのか」と熱弁していたという。

そして、その先生に呼ばれた時、老婆の顔はプリズムの輝きを放ったという。

痛いBBAと思う人もいるかもしれないが、個人的には何て良い話だと思った。

老婆にとって先生は「推し」なのだ、また3か月後先生に会えると思えば、老婆は3か月希望を持って生きられるのだ。
むしろ先生より長生きしてしまうかもしれない。

年を取ると、新しい物へ挑戦する意欲が低くなるし、ライブやイベントへ行く体力もなくなってくるだろう、それこそ病気で動くこともままならなくなるかもしれない。

しかし、病院にだって推しはいるのだ。

つまり、推しは、ありとあらゆる場所にいて、いくつになっても見つけられる、ということである。
あとは、自分が見つけようとするかどうかの姿勢の問題だ、どんだけ推し候補がいても自分が目をつぶっていたら絶対に見つからない。

推しを見つけようとする目は常に時計じかけのオレンジ状態であるべきだ。

よって、もちろん何事もないにこしたことはないが、もし検査で何か見つかって入院することになったとしても「ここにも推しがいるかもしれない」という気持ちだけは忘れずにいたい。

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