記事

国会の質問通告と官僚の疲弊

1/2

このところ、官僚の長時間労働の実態について大分知られるところとなったように思います。また、官僚が疲弊して健康や家庭を壊したり、若手官僚の離職が増えたりといったことを背景に霞が関の政策立案機能の低下についても徐々に危惧されてきたのではないかと思います。

そうした中で、台風の日に質問者の議員の質問内容の通告が遅くなったために、多くの官僚が帰宅できなくなったことについて官僚を酷使しすぎだという見解や、政府の国会関係の内部文書が漏洩するのは質問権の侵害だという主張を目にします。

この問題については、先日まで現役の官僚だった自分としても、大変関心を持って見ています。見解を聞かれることも多いので、自分の考えを書いておきます。

1.国会質問は何のためにあるのか。

 国会質問は何のためにあるのでしょうか。それは、国民の生活に関係する政策をしっかりと議論して、よりよい政策決定をするためにあるわけです。

政府が作っている政策というのは法律にせよ予算事業にせよ、日本で一つしかない商品を全国民に強制的に押し売りしているようなものなのです。そして、その費用も必ずしも恩恵を受けた人が払うわけでなく、広く国民から税金として、これも強制的に徴収されます。

例えば、政府の作った法律案が国会の決定により、ひとたび商品化されると「私はその法律は嫌いだから、私には適用しないで。」とか、「僕は、図書館を利用しないので、その分税金を負けてくれ」なんてことは言えないわけです。

昨今、話題になっている大学入試の英語民間試験の導入の問題にしても同じ構造です。大学入試において。指定されたいずれかの試験を受けておかないといけない、つまりそれを強制されるからこそ、様々な立場から色々な意見や批判が出てきます。これが大学入試と何の関係もない単純な民間の試験にとどまるのであれば、ここまで話題になりません。その試験を受けるかどうかは、受けたい人が決めればよいからです。

 よく考えると、すごい商売ですよね。これが、政府の仕事と民間の仕事の一番の違いです。

 全国民が強制的に商品を買わされてしまうわけですから、民間企業が販売する製品やサービスを自社の判断で決めるのと同じように、勝手に政府に決められては困りますよね。

 だから、民間の製品やサービスのように、買うときや使うときには選べないけども、商品開発の段階で、色々な立場の人のことをよく考えて皆で話し合って決める必要があるのです。これを「社会的合意」と言いますが、そのために国会の議論というのはあるのです。これは単純な多数決とは違います。議論の過程であぶり出された課題について政府は対応を考えますし、商品化(採決)する前に法案を修正することもあります。

 だから、国民のためによりよい政策を作るために、政策の内容について充実した議論をすることがとても大事なのです。

 官僚はそのことを理解しています。また、自分達の開発商品が販売できるかどうかの決定権を握っているのが国会議員(※)ですから、どんなに遅く質問内容が届いても、質問者の問題意識を踏まえた答弁や資料を準備するのです。

※ 国会議員と官僚の関係は、大企業と下請け企業の構造に似ています。例えば、製造業の下請け向上が部品を作っても、納入先の大企業が使ってくれなければ販売先がないですよね。

 問題は、この大事な仕事について、

○ 何月何日に発生するのか事前に分からない(国会はだいたい年間の2/3くらい開いている)

○ その日何時になったら発生するのか分からない

○ 発生したら他の仕事をストップして大至急対応しないといけない

ということなのです。

緊急かつ重要な仕事がいつ発生するか分からない状況というのは、その仕事をする官僚の立場に立つと、どうしてもブラックな働き方にならざるを得ません。もちろん、いつ発生するかしないか分からないからといって、消防署のようにシフト制を組むわけにもいきません。二交代代、三交代の体制を組むためには国家公務員の数を相当増員しなければなりません。

そんなことはできませんから、官僚の長時間労働で何とか対応しているのです。

2.官僚の働き方改革は何のために必要なのか。

 官僚の働き方は、確かにあまりにひどいと僕も思いますし、健康や家庭を壊す人も少なくありません。そういう僕も(仕事がすべて悪いわけではないですが)、あまりにも仕事が大好きだったこともあり、若い頃に離婚を一度経験していますし、体調を崩したこともあります。

 また、社会全体の働き方改革が進む中で、旧態依然とした長時間労働が前提となる職業には、相対的に魅力が下がりますので、学生が集まりにくくなります。官僚以外にも例えばマスコミ業界にも同じ事が言えるようです。

 では、官僚の生活をよくするために、官僚の働き方改革を進める必要があるのでしょうか。

確かに、どんな仕事でも過労死や過労自殺が起こるような働き方は止めないといけませんが、僕の感覚では霞が関でひどい働き方をしているような官僚は、すごく仕事ができる体力、胆力のある人なので、職種を問わず、その気になれば必ず転職できると思います。

そうです。官僚の生活を守りたいなら、僕は同僚たちに「無理して役所で頑張ってないで、民間に転職した方がいいよ。」と伝えれば済む話なのです。

でも、僕はかつての同僚達に、そんな言葉をかけたくはありません。なぜなら、「政策を作る」という仕事がいかに大事かを僕も知っているし、かつての同僚達も知っているからです。

僕が守りたいのは、「官僚の生活」ではなく、「政策を作るという機能」なのです。官僚が疲弊したり、優秀な人材が来なくなると、その機能が落ちる。それを防ぎたいのです。

あわせて読みたい

「国会改革」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    N国が退潮か 我孫子市議選で落選

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  2. 2

    女子大生が教える最新ラブホ事情

    BLOGOS編集部

  3. 3

    自宅ビール用 究極の節約つまみ

    中川 淳一郎

  4. 4

    秋篠宮さま「即位辞退」の現実味

    NEWSポストセブン

  5. 5

    宗男氏 枝野代表に「お門違い」

    鈴木宗男

  6. 6

    新エンジン投入へ マツダの知恵

    片山 修

  7. 7

    GSOMIA破棄目前 韓国に奇策も

    文春オンライン

  8. 8

    前夜祭 安倍首相は会費払ったか

    郷原信郎

  9. 9

    過去作否定? ターミネーター新作

    いいんちょ

  10. 10

    水害補償に山本太郎氏「お粗末」

    鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。