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【中村俊輔インタビュー】日本代表監督に興味はあるか?

数々の称号を得て、今も現役を続ける天才レフティ中村俊輔。現在、J2の横浜FCに所属する彼に、何を想い、何を求めて、ボールを蹴り続けるのか、独占インタビューを行った。短期連載最終回。

J3でも、カスカスになるまでやりたい

シーズンが終盤になると、全国様々なクラブから、「現役引退」を発表する選手のニュースが聞こえてくる。「引退」を考えたことがあるのか? 今回のインタビューで、繰り返し中村に問うた。すると、「引退させたいの?」と破顔させながら答えた。中村には、「引退」という選択肢は今はまだないようだ。

「カテゴリーがJ2になった時点で、『落ちている』というふうに思う人がいても、それは間違いじゃない。僕自身でそれを実感することも確かにある。まだまだうまくなりたいし、環境が変われば、新しいものを身に着けなくちゃいけない。自分の身体も確実に変わっているからそれに応じたプレー選択も必要になってくる。そういう意味での進化を求めているし、進化しなくちゃいけないと考えている。

同時に、たとえば、若いときにできていたプレーが、今は少なくなっているとも感じる。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、若いころはスタスタ歩けていたのに、高齢になると同じようには歩けない、そういうことが起きている。だから、若いころの自分をおっかけているような感じもある。昔の映像を見て、自分のプレーを脳に植え付けるし。そうしないと身体は動かないから。やりたいことはたくさん増えてきているのに、できないということがあるから」

経験を積めば、選択肢や思考は増える。この場面なら、こういうプレーをすれば効果的だと思っても、身体は思うように反応しない。人間に起きる衰えは、プロアスリートでも生じる現象なのだろう。そういう自分の変化を「衰え」と思い、諦めるのもひとつの選択だ。他人が感じる以上にそれを体感しているのが、選手本人なのだから、悔しさや落胆は大きいに違いない。

「かつての自分と同じようにプレーできなくなったこと」を現役引退の理由に挙げる選手も少なくないだろう。そういう現実を「みじめ」だと思い、周囲に悟られる前に退く決断を下す選手を誰も責めはしない。

また、戦力として、第一線で活躍できなくなったという現実が、現役の終わりだと判断するきっかけになることもある。カテゴリーを下げて試合出場機会を求めるケースもあるが、カテゴリーが下がれば、当然サラリーも下がる。それは選手としての価値が降下したことの証明だと考えることもできる。

J1リーグでのプロデビュー、欧州への移籍、欧州チャンピオンズリーグ出場。U-20代表、五輪代表、A代表、そしてワールドカップ……誰もが歩めるものではない輝かしい階段を上ってきたからこそ、無様な姿を見せたくはないという思考が働いてもおかしくはいだろう。

はたして、中村はどう考えているのだろうか?

「ここまで長くやったら、いろんなことをまだまだ体験したいなと思っている。J3まで行ってもいい。カスカスになるまでやりたいと思っているんです。なかには、自分のプレーが落ちているのを周囲に見られたくないと思う人もいるだろうし、いい印象のままで引退するほうが、キレイだし、引退後の仕事にもいい影響があるかもしれないし、実際そういうふうに言ってもらったこともある。でも、とことん見てみたいというふうに今は考えている。現役選手でしか味わえないことだから。そういう時間を過ごすことが、選手をやめたあとにプラスになるんじゃないかなと思うから。それと、やっぱりうまくなりたいんです。僕はもっとできる、もっとできるという想いはあるし、自分にしかできないプレーというのをまだまだ発見したいから」

正当な競争のなかに身を置き、自身の衰えと向き合いながら、レギュラー争いを戦う。カテゴリーや大会の大小にかかわらず、サッカーはサッカーだし、試合は試合だ。容易なわけじゃない。そのときの自分自身と置かれた環境によって課題や壁はさまざま存在する。それに気づき、挑めるならば、「もっとうまくなれる」という向上心を刺激できるだろう。

20代の頃のように、今でも逆算の発想をしているか?

20代の中村がよく話していたのが、短期、中期、長期と目標を掲げ、そこから逆算し、今何をすべきかを考えるという逆算の発想だった。41歳になった今もそれを続けているのか?

「逆算はもうできない。だから、今は毎週毎週という感じです。週末の試合へ向けての準備。週半ばくらいになれば、1週間後のことを考える。試合が終わったら、どこでどんな治療をしようか、リカバリーするためには治療院へ行かなくちゃいけないこともあるし。だったら、予約も必要だし(笑)。1日1日をっていうんじゃ、間に合わなくなることもあるから。遠くの目標からの逆算はできない。いつ、負傷するか、身体が悲鳴を上げるかわからないから。

だから、足元をずっと見ることしかできない。太いロープの上を走っていたら、余裕で、あそこまで走ってやるぜって、先を見通せるけど、今はそういう感じじゃない。細いロープの上を歩いているような感じでしょう? 足元を見ながら、しっかりと歩く。バランスを崩してこけたら、それで終わりになるかもしれないから。でも、その細いロープの途中で、活躍して、頑張れたら、ロープも少し太くなるかもしれないし、余裕が生まれて、また始まる……そういう毎日ですね、今は。本当にサッカーに集中できているから」

現役引退後に監督になりたいというイメージを抱きながらも、余力を残すことなく、選手としての人生をまっとうしたいと中村は考えている。横浜FCで三浦知良とチームメイトになれたことも、中村に勇気を与えてくれたに違いない。

最後に、選手に限らず、サッカーに携わる人間としての目標を聞いた。「日本代表監督に興味はあるか?」と。

「それはもちろんやってみたい仕事ですよね。だけど、やりたいからってできるものじゃない仕事だという認識は強く持っている。運や巡り合わせもあるし、なにより、指導者として結果を残さないと就けない仕事だから。自分がワールドカップで輝けなかったぶん、もっとできたんじゃないかと思うぶん、選手としては1勝もできなかったから。監督じゃないにしてもあのチームに関われたり、自分が関わった選手にはワールドカップで勝利を味わってもらいたい。

代表、ワールドカップというのがひとつのモチベーションになるとは思う。だけど、指導者としては、チームのカテゴリーに関係なく、『あの監督のもとでプレーしたから成長できた』とか『あの監督とやったから、考え方がこんなふうに変わった』とか、そんなふうに言ってもらえるようになりたい。指導した選手にはうまくなってほしいし、たくさん勝たせたいという想いが一番です」

横浜Fマリノスを離れることも、そして、これほど長く現役を続けている……それすら20代の中村にとっては想像できなかったという。だから、これからの未来も彼の想定外になるかもしれない。しかし、中村はきっと、これから先もサッカーと向き合い続ける人生を追い続けるはずだ。選手であれ、指導者であれ、どんな場所であっても。

Shunsuke Nakamura
1978年神奈川生まれ。横浜F・マリノス、レッジーナ、セルティックFC、RCDエスパニョール、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田を経て、現在横浜FC所属。日本代表98試合出場/24得点。

Text=寺野典子 Photograph=杉田裕一

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