記事

映画監督「北野武」はいかにして生まれたか 映画監督・北野武の誕生。そして傑作『ソナチネ』はどのようにして生まれたのか。 - 「ノンフィクション」出版部

1/2

 映画監督・北野武の誕生。監督デビュー作となった『その男、凶暴につき』、そして傑作『ソナチネ』はどのようにして生まれたのか。

【写真】刊行記念イベントの写真を見る(全8枚)

 去る10月26日、八重洲ブックセンターにて『黙示録——映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』の刊行を記念して、奥山和由氏、著者である映画史研究家の春日太一氏、奥山とともに邦画界を盛り上げ続けてきた鍋島壽夫氏をスペシャルゲストに迎えた鼎談イベントが開催された。『ハチ公物語』など15作品を共にプロデュースし、「運命共同体だった」と語る奥山と鍋島。イベントでは2人が製作に携わった北野武監督『その男、凶暴につき』について振り返る一幕も。

『その男、凶暴につき』はそもそも深作欣二が監督をする予定であった(この降板劇の詳細は『黙示録』に詳しく書かれている)。深作が降板した後、主演である北野武はなぜ監督を務めることになったのか——。


左から春日太一氏、奥山和由氏、鍋島壽夫氏

「映画監督・北野武」誕生

奥山 和由(以下、奥山) 深作さんはとにかく降りるっていう決心をしちゃっているなかで、「武さんが監督ってのはあるかなぁ」と思いながら「とにかく一発勝負で訊いてみるしかない」と。だけど、もし「やる」ってことになったときにFRIDAY事件の直後ですから、謹慎が解けて、じゃあ武さん監督でいこうってなったときにテレビの収録が山ほど積もっていたんです。撮影を1週間おきにしかやれないよと。でも、とにかくそれでしか前に進めないのであったら進むしかないよねっていうことで。

鍋島 壽夫(以下、鍋島) 奥山さんはそういうところの決断は早いんですよ。深作さんがないっていうときは、武さん監督しかないだろうという。今でも忘れない四ツ谷の寿司屋の2階に呼んで、当時森さんもいて。奥山さんが「鍋ちゃん、どうする?」と言うから、こっちはもう腹も決まっていて「いきましょう」と。それで、奥山さんが「武さん、どうですか?」と訊いたら、武さん、躊躇なく「はい」って言ってました。

奥山 本人(北野武)がやるつもりだという確認をした上で、じゃあ実際にやれるのかどうかというところの話し合いになったんですよ。それでも俺は武さんが1回やると言った後に何回か翻ると思っていたんですよ。そうしたら、全然翻らない。で、どんどんもう待ってましたみたいな感じで、コンテから何から全部できてる。それから、もともと決まっていたキャスティングが全部変わってくるわけですよね。だから現場が本当に無事に済むのかなぁというふうな危機感を持ちながら、あのときは「やっちゃうしかない」って(笑)。

春日 太一(以下、春日) 最初、奥山さんから武さんを監督でいくって訊いたときは鍋島さんとしてはどういうふうに思いましたか。

鍋島 大賛成でした。それはもう反対するより、面白いと思いましたね。さすがそういうとこに目をつけるかと思いましたよ。

『その男、凶暴につき』では、タイトルやあの印象深いポスターも奥山が考案したものだという。

奥山 予感も記憶も全部ビジュアルが先に自分の中で浮かんじゃうんで。で、この武さんの映画のときも、武さんがちょっと首を傾げるような感じで、ボソッと立ってるだけっていうポスターのビジュアルが最初にポンと浮かんだ。それで、武さんの体に「凶暴」って入っているのが一番いいと思ったってとこから、『その男、凶暴につき』ってタイトルに決めたんです。

 混乱の中クランク・インした一方で北野武の現場は、各スタッフの守備範囲がしっかり決まった効率の良いもので、彼の知性を垣間見せるものであったという。奥山と鍋島は『その男』以降も、北野武監督作品『3-4x10月』『ソナチネ』と仕事をともにすることになる。

なぜ『ソナチネ』というタイトルになったのか

奥山 武さんが大事なことを相談する時って、みんながいるところでは絶対に話さない。サシじゃないと話さない。で、これはカンヌで勝負しましょうっていう話が途中から出たんですよね。もともとは娯楽アクション映画にしようってところから、ラッシュみると全然違うアートムービーになっている。時代劇以外で日本映画が海外に出たことってないから、海外に行こうよと。

 この映画をカンヌに行かせたい。だけどそのときに実は題名が決まっていなかったんですよね。カンヌにもうプレゼンテーションしなきゃいけない、だから題名つけなきゃいけない。その時に沖縄でロケ中だったんですけど、もう題名だけとにかく決めて書類を送らないと(いけなかった)。だから「武さん、決めましょうよ」と。「うーん」ってリアクションが微妙なんですよね。じゃあ「こっちに任してくんない?」「いやー、うーん、ちょっと考えがある」「考えがあるなら教えてください」と。そうしたらロケバスからちょっとみんな出てくれないかと。で、まずロケバスを空にして。「奥山さん、2人だけで話したい」。で、2人でロケバス入ったら「どんな題名ですか早く言ってくださいよ」と。武さん、「ソナチネ」ってぼそっと言ったんですよ。

 暴力団の話で『ソナチネ』ってなんですかと訊いたんですよ。「いや、ピアノを最近俺やってるんだけど、ソナチネあたりでみんな辞めたくなるんだよ。それでヤクザもいいなぁと思って入ったけど辞めたくなったって話だし、ソナチネ、どう?」って言って。「いいじゃないですか」って言ったら、相好崩してすごい喜んだんですよ。それで「だけどなんでこれを2人っきりで話さなきゃいけないんですか」って言ったら、「いや、みんなの前でさ、題名言ってさ、なにそれって顔されるのがすごく怖かったから」って(笑)。そういうデリケートなところのある人だった。

鍋島 その後に『あの夏、いちばん静かな海。』っていうのやったんですけど、これは東宝でやったんですけどね。そのときも題名がね、色々と揉めたんですよ。で、武さんが僕に言ったのは——あれ、サーフィンの話でしょう——『水蜘蛛』って言ったんですよ。それは流石にあきまへんと。そして最後に武さんが出してきたのが『あの夏、いちばん静かな海。』だった。だから非常に題名に対するこだわり、センスがある方だと思います。

春日 奥山さんの『その男、凶暴につき』と、武さんの『あの夏、いちばん静かな海』って、センスも雰囲気も似てるところっていうのがあったんですかね。

奥山 まぁ、いろんなところでぶつかるところはありましたけど、内容についての話とか、作るっていうことについての話、2人っきりで話すときはすごく紳士な方だったし、話もしてて楽しかったですよね。最後は事務所とギクシャクしたときもありましたけども、本当に何やったって怒られなかったですよ。『その男、凶暴につき』のときだって、執行猶予期間が終わったときで、その日が完成披露試写の日だった。だからくす玉と一緒に「執行猶予期間終了」っていう垂れ幕をかけた。そういうことをいきなりやっても笑ってくれたし、それから、ヒットのパーティーやりましょうって、プレゼントに武さんの奥さんの銅像作ってプレゼントしても許されてたし(笑)。

 しかし、金銭面でプロデューサーとしての苦労はあった。

鍋島  『ソナチネ』の制作費がかなり高かったんですよ。それで見たら「どこに金使ってんの」って怒られましたよね。沖縄の家って独特じゃないですか。あれを何棟も建てたんですよ。でも撮ったのは入口だけ。で、奥山さんも松竹から怒られて。後で沖縄の家の建築中の証拠写真を見せたりしたんですよ。それから松竹、奥山さんのところ、オフィス北野とバトルが始まったんですよ。

奥山 松竹の役員会で報告する時に、この金額、この予算に対してどうなんだって報告するっていう立場と、現場でいいものを作りたいっていう「つんのめり方」というのは、つねに二律背反なんですよね。そこで現実的にどこをどの程度選んでいくかという判断というのは、自分でせざるを得ない。まぁそれは武さんの映画に限らず全部の映画に関わってくることでしたね。

松竹追放——映画界に激震が走った日

 話は、ついに松竹追放の「あの日」におよぶ。当時、専務だった奥山和由の松竹解任劇の詳細については『黙示録』に詳しいが、同時代を併走していた鍋島壽夫の目にはどう映っていたのか。

春日 この話は触れざるをえないと思うんですけど、奥山さんが松竹を追放されてしまったということについて、言える範囲でかまわないので、鍋島さんのなかではどのようにそのときは受け止められたんでしょうか。

鍋島 日本の映画界は東宝・東映・松竹という3大があって、どちらかというと松竹は山田監督を中心に『寅さん』(シリーズ)など伝統ある映画を作っていた。奥山さんの存在は、当時、角川春樹という人が出て世の中を席捲していたのと同じように、映画界全体を見れば今振り返ってみてもすごくいいことだったと思います。

 ただ、一言でいえば当時の奥山さんは松竹の路線よりも飛び出てしまった。そういうところで、ああいう解任劇になってしまったのかなと。でも、これは松竹にとって大変な損失だったと思います。もし、奥山さんが今でも松竹にいたら、また違った展開になり、映画界全体も(変わったものに)なってると外で見て思いますね。

あわせて読みたい

「北野武」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    維新が森ゆうこ議員の懲罰を要求

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  2. 2

    中年男性とJK密会描く漫画が物議

    BLOGOS しらべる部

  3. 3

    元セガ社長の暴露に「ムカつく」

    fujipon

  4. 4

    現金にこだわるサイゼ社長に呆れ

    永江一石

  5. 5

    安倍首相だけを批判する朝日の罪

    木走正水(きばしりまさみず)

  6. 6

    韓国国民はGSOMIAを理解せず?

    AbemaTIMES

  7. 7

    昭和女性描く漫画 閉塞感に愕然

    紙屋高雪

  8. 8

    現代人にADHD的なミスが多い理由

    BLOGOS しらべる部

  9. 9

    ヤフーLINE統合 Pay事業続けるか

    AbemaTIMES

  10. 10

    スタバのモバイル注文は「残念」

    内藤忍

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。