記事

虹の国の勝利をもっとかみしめよう。

[画像をブログで見る]

 20か国が参加し44日に渡って開催されたラグビーワールドカップ大会は、3回目となる南アフリカの優勝で幕引きとなった。日本、桜の戦士の史上初となるベスト8進出という大活躍もあり、にわかファンも一気に増え、日本中が大いに盛り上がる結果となった。

 日本ラグビー、指を見ないで、月を見よう!

 しかし人間は、熱しやすく冷めやすいということなのか、メディアのもつ一種の性質によって牽引されているのか、それともその両方なのか、世の中の話題はラグビーを離れて先に先に進んでいる。もっと噛み締めるべきではないか、そんな思いにも駆られる。

 私などは大学で「共生社会論」という科目を担当しているが、今回の南アフリカの活躍を好機に映画「インビクタス~負けざる者たち~」を学生と話し合い鑑賞することにした。

 「インビクタス」。時代は今から29年前の1990年で、舞台は未だアパルトヘイトが続く南アフリカである。娑婆に出てくる1人の老人の姿から映画が始まる。理不尽な人種差別と戦ったことを理由に国家反逆罪に問われ終身刑の判決を受け、27年間後に投獄から解放された「マディバ」こと「ネルソン・マンデラ」その人である。

 1994年に南アフリカ初の全人種参加選挙を経て大統領に就任したマディバは、ただただ国の未来を見つめ、過去の負の遺産を受け止め、憎しみの連鎖を断ち、国家としての多様性の豊かさを謳い、分断された国を一つにまとめる使命を「ラグビー」に、それこそかつての敵人からもたらされたこの球技に求める実話が生き生きと描かれている。

内外に対して平和で持続可能で発展可能な人類社会のあるべき姿をラグビー通して示そうという壮大な挑戦でもあろう。大会において決勝に進んだ南アフリカは、延長戦の末、絶対王者オールブラックスに勝利を収め、1995年の自国開催かつ初優勝を果すのであった。マディバの有名な言葉に「何事も成功するまでは不可能に思えるものである(It seems impossible until it’s done)」がある。ここでも崇高な志は叶い、奇跡は起こせることを証明した。 

 あれから24年後のアジアとして初の開催となるラグビーワールドカップが日本で開催。マディバが今から6年前の2013年に他界したが、「インビクタス」の中でももちろん登場する初回の南アフリカの優勝チームキャプテンだったフランソワ・ピナール(52歳)も来日し、スタジアムで南アフリカ戦を観戦した。

もう一人、今回の大会に出席を楽しみにしていたのは、チェスター・ウィリアムス。ネルソン・マンデラ大統領の下で、人種融合を掲げる国家の象徴的な選手となったチームの唯一の非白人選手であった。しかし、日本大会の一ヶ月前に彼が他界した。享年49歳と聞いて南アフリカがアパルトヘイトから解放されたのはつい最近のことであったことを改めて自覚させられる。

 今大会の南アフリカの決勝戦の相手はかつての南アフリカにとっての宗主国であるイングランド。試合が始まり、南アフリカチームの白人選手がペラルティーを決め、黒人選手と有色人種がそれぞれトライを決めた。相手に一回もリードを許すことなく、見事に優勝の美を飾った。絵に描いたような「多様性と包摂(Diversity and Inclusion)」による勝利となった。3回目となる優勝の指揮をとったシヤ・コリシはスプリングボクス歴史初の黒人主将として歴史に名を刻んだ。優勝インタビューで印象に残る言葉を紡いだ。

 「 僕たちの国には、いろいろな問題がある。いろいろなバックグラウンドや民族から選手が集まり、一つの目標にむかって一丸となった。国のために戦った。何かを成し遂げたいと思ったら一つになれるんだということを見せたかった。」

 今から6年前の2013年に他界した、今なきマディバの魂が今だに国内で生きていることを示し、国外に向けても大事な託けを披露した。コリシは、試合後に我が子を抱っこしている姿がテレビ画面に映し出された。白人女性との間で生まれた美しい子で、アパルトヘイト時代に禁じられていた人種間の結婚はもはや過去であるということを語らずして伝えていた。

 自国開催の日本は今回の大会でベスト8という歴史に残る大きな快挙を成し遂げた。桜の戦士の姿を通して感動とともに日本のあるべき姿についてのメッセージも示された。中でも「多様性と包摂」の大切さを大いに学ぶ有難い機会となった。

 南アフリカは長い間、植民支配にアパルトヘイトという、差別、分離、隔離、理不尽という辛い歴史を経て「多様性と包摂」の尊さにたどり着いた。その点、日本は本格的な多人種含めた「多様性と包摂」のスタートラインに立っていると言えるのではないか。経済発展論の中で、「後進性の優位」という言葉が出てくる。

後進国は先進国から先進技術を取り入れることによって本来ならば経験しなくてはならなかった幾つかの段階をスキップすることができるという意味である。日本も大いに学びたい。一部と言えども日本社会で今更始まっている立場の違う者への心無い言葉、ヘイトスピーチや分断を誘う言動。速やかに正し「後進性と優位」を発揮する必要性に気づく必要があるのではないか。

 ラグビーボールは、元は豚の膀胱で作られたということもあり、歪な形になっている。そのため、ボールはどう転がるか予測することは不可能である。予測不可能という点、我々が生きていくこれからの世の中とも重なる。そんな未来だからこそ「多様性と包摂」を肝に銘じる必要があるのではないか。

 そんなラグビーボールも、地面に落ちた時にバウンドされ、偶然に願い通りに手元に届くことがある。そんな幸運を「ラッキーバウンド」や「勝利の女神の気まぐれ」と呼ばれる。その偶然の幸運はまさに「多様性と包摂」の弛まない追求の先にこそ現れると、それこそマディバが教えではないだろうか。

※Yahoo!ニュースからの転載

あわせて読みたい

「ラグビー」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    日本へ謝罪求め続ける韓国に疑問

    諌山裕

  2. 2

    日韓対立 両国は主張の棚上げを

    舛添要一

  3. 3

    222万部減 新聞はもう要らないか

    PRESIDENT Online

  4. 4

    首相「夕食会費はホテルが設定」

    ロイター

  5. 5

    米国が繰り返し韓国のウソを指摘

    高英起

  6. 6

    反日の嘘暴く韓国書籍が日本上陸

    高英起

  7. 7

    中国が圧力? 英大学で高まる警戒

    木村正人

  8. 8

    「夫婦の3組に1組が離婚」は嘘

    石川奈津美

  9. 9

    佐野史郎 病室では寝たきり状態

    女性自身

  10. 10

    桜見る会の前夜祭費 菅長官が嘘?

    中谷 一馬(Kazuma Nakatani)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。