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- 2019年11月10日 07:46
【年金をめぐる“故意”の空騒ぎ③】「グリーンピアで4000億円損失」という空騒ぎ(海老原嗣生)
2/2実損失は報道額の4分の1以下
だが、これも間違っている。減価償却に480億円を計上すると、建物自体の簿価が下がるので、その分、①の売却損が480億円減る。だからトータルでは、損失額は増えない。こうした読み間違いが多重に入り込んだ試算が、損失額3000~4000億円という数字なのだ。ちなみに、レジャー施設の運営自体は4億円のプラスという発表を政府はしている。といっても会社経営で考えれば、①の維持管理費も③の減価償却費も運営収益内で賄うべきなので、そういう意味で収支を作り直すと、
①設備関連
簿価(元値648億円―減価償却480億円)
売値48億円
売却の差額 120億円の損失
②資金繰り(財務損益)
1153億円の損失(利払い)
③事業運営面(営業損益)
4億円の黒字
480億円の減価償却
116億円の設備維持管理費
592億円の損失
これらトータルで1865億円の損失となる。いわれている損失額の半分程度にまで数字は小さくなる。ただし、この中で一番大きいのは金利負担で1153億円の損失だが、これは実際には損失とはなっていない(後述)。それを除くと、損失額は712億円となる。
この金額でも決して小さくはないが、ただ、その責を厚労省のみが追うべきことか。グリーンピアが建設される頃は、地元は大いに歓び、それは大いに報道され、地元誘致のために政治家は大いに動いていた。対して厚労省は、年金積立金のそうした使われ方に抵抗していたのだ。
支払い利子は、けっきょく年金基金に還元されている!
続いて貸付事業を見てみよう。こちらは年金加入者に低利で住宅購入費や子供の教育費の融資を行った財形年金融資がそれにあたる。当時の民間住宅ローンは、変動金利制が主流でバブル期にはその貸付レートは8%を超えていた。そんな中、公的金融の住宅金融公庫と財形年金融資が5%台の低利かつ固定で多いに庶民を安堵させたものだ。この事業が90年台に入ると、大きな赤字を出すようになる。バブル崩壊の不況により市場金利は低下し、それに釣られて民間ローンが低利となる中で、財形年金融資は固定金利のため逆に高利となり、中途解約が相次いだのだ。
事業を行っていた年金福祉事業財団(以下「年福」)は、その原資を財務省(当時は大蔵省)からの借り入れ(財政投融資、以下「財投」)で賄っていた。この財投借り入れが、曲者だ。こちらは、年福が資金調達時に借り入れた金利で固定され、しかも、中途で返却ができない取り決めとなっている。貸し出した先の個人はどんどん中途解約をする一方、年福は、バブル期の高金利で借り続けなければならない。結果、年福が高い利息を大蔵省に払い続けることになる。それが、5617億円の損失となっていったのだ。
つまり、年福の赤字とはその分が大蔵省の黒字となっており、政府トータルで損失は生まれていない。
いや、ことはもっと複雑だ。
そもそも年福は、年金積立金をそのまま住宅ローンや教育融資の原資に回せば、大蔵省にバカ高い金利を支払わなくて済んだ。が、当時はそれが法律で禁じられていた。だから、積立金は一度、大蔵省に預託し、それを財投として再借り入れする、という資金の往復が必要だったのだ。

これは貸付事業だけでなく、グリーンピア事業で支払った利息についても全く同じことがいえる。ここまでの構造を理解すれば、年金問題でやり玉にあがった損失とは、いわれるほど大きくなく、年金財政を破たんさせるほどのことではないとわかるだろう。
最後に蛇足となる一文を記しておく。
身内の大臣がミスリークした理由は?
実は、グリーンピアや貸付事業の損失額の規模については、その大本が、2004年当時の厚労大臣である坂口力(公明党)氏の以下の発言に端を発している。「厚生労働省の試算によると、グリーンピア事業は、今後必要となる費用も含め建設費と利子などで最大約3800億円、住宅融資事業は、個人や法人への 貸付金の利子補給などで約9300億円の損失が生じる」
内情を知る厚労省のトップからこのようなリークがなされたのは、なぜか。私はそこに政治的意図を感じざるを得ない。当時、郵貯・財投改革を叫び、また旧来利権にメスを入れることに血道をあげていた小泉政権下では、その改革の波を広めるために、年金損失問題を人身御供に差し出したのではないか。
もともと、厚労省に強い影響力を持つ小泉氏だけに、彼らに腹のうちを伝えて、肉を切らせて骨を断つ戦略に出た。巨大な公的金融である郵貯と、チェック機能が甘く政治的利権に結び付きやすい財投を破壊するために、子飼いの厚労省を使ったと考えるとつじつまが合う。
ただ、取材した限り、この推測には全く裏はとれていない。
続きは「年金不安の正体」にて
プロフィール
海老原嗣生(えびはら つぐお)中央大学戦略経営研究科客員教授、雇用ジャーナリスト・株式会社ニッチモ代表取締役。株式会社リクルートキャリアフェロー(特別研究員)、株式会社リクルートワークス研究所特別編集委員。「Works 」(リクルートワークス研究所)編集長、「HRmics 」(リクルートエージェント)編集長を歴任。



