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- 2019年11月10日 07:46
【年金をめぐる“故意”の空騒ぎ③】「グリーンピアで4000億円損失」という空騒ぎ(海老原嗣生)
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高知県須崎市にかつてあった年金保養施設「グリーンピア土佐横浪」(共同通信社)
巨額の積立金が失われたというが・・・
年金破たん論者の中には、その原因の一つとして、積立金を政府(外郭団体も含む)が不正に流用したことを上げる人が少なからずいる。一例をあげれば、鈴木亘氏の著書では、以下のように書かれている。
「その他の積立金の無駄遣いとしては、厚生労働省や旧社会保険庁の官僚たちが、天下り先の特殊法人や公益法人を通じて浪費した人件費やプロジェクト、旧社会保険庁自体が行った福利厚生費への流用、グリーンピアやサンピアといった巨大保養施設の建設費が挙げられます。こうした大盤振る舞いと無駄遣いの結果、巨額の積立金が失われました」(「年金は本当にもらえるのか」37P)
鈴木氏のいう無駄遣いは、厚労省より以下のように発表されている。
①職員宿舎の整備費用
②社会保険庁長官の交際費
③社会保険庁の公用車購入費
④社会保険庁職員の福利厚生にかかる費用(社会保険大学校のゴルフ道具、社会保険事務所のマッサージ機器、職員のミュージカル鑑賞やプロ野球観戦の福利厚生経費など)
⑤社会保険事務局の家賃
⑥年金福祉施設等の運営費
これら支出の規模や年金財政に与えた影響について、以下、考えていくことにしよう。
問題は規律の乱れであり、財政悪化には影響は少
まず、民間の保険会社でも、保険料を様々な支出に充当している。営業マージンや広告費などの拡販に不可欠な支出のみならず、社員の福利厚生や交際接待などへも当然、充てられる。こうした費用を「付加保険料」と呼ぶが、民間保険の場合、その額はバカにならない。が比較的経費が少ないネット保険会社のライフネット生命でも、集めた保険料のうち36%をこうした付加保険料に使っている(ダイヤモンドオンライン2008年12月8日)。公的機関でも度を越した額でない限り、保険料からの諸支出は責めるべきではないのだが、綱紀粛正という意味で、政府は以下のような対応を決めた。
①宿舎費は、保険料ではなく国庫負担としたうえで、当面の整備費用は凍結
②交際接待は、職務関連性を精査の上、使用
③公用車は、買い替え数を計画比4割削減(105→63台)
④ゴルフ練習場は廃止、マッサージ器は購入取りやめ、ミュージカル・プロ野球観戦などの娯楽は禁止
⑤事務所家賃は再交渉のうえ、10.5%削減(約5億円捻出)
⑥施設については、今後、運営には保険料を投入せず、5年以内に廃止、その後売却
確かに、国民が支払った保険料が闇に消えたこと自体は問題かもしれない。が、それが果たして「年金財政を破たん」させるほどの額なのか。この中で比較的大きな支出である③の公用車にしても、計画通り105台全部を買い替えていた場合、支出は3億円(新規購入と下取りの差額を1台300万円として)程度だろう。⑤の家賃過払いにしても、発表された減額分から割り返した家賃総額が50億円弱となる。金額としては大きいが、これらのベースになる積立金は150兆円規模だ。これで年金が破たんするというのは全くのお門違いだ。とすると、①~⑤までについての問題は、あくまでも「規律の乱れ」であり、財務悪化の決定打とはいえない。
グリーンピアの損失は3000億円を超えるというが
大きな損失を招いたのは、⑥および年金積立金を原資とした財形住宅ローンなどの「貸付事業」の二つとなるが、こちら(少なくとも貸付事業)は不正流用とはいえない。この2事業は、高齢者ばかりへのサービスではなく、年金を積み立てている現役世代に対しても利益還元をすべき、という意図から運営された。中でも日本全国13か所に作られた総合レジャー施設「グリーンピア」問題は記憶に残っているだろう。この施設は合計で、3000億~4000億円の損失を発生させた、と報道された。


これは、648億円かけて作り、それに1129億円の利子が乗っかり、さらに、維持管理費として116億円がかさんだ結果、1893億円という計算になる。
②1246億円の交付金が支払われた。
単純に①と②を合わせると、確かにこれだけで3000億円を超える。ただし、この交付金1246億円は、①の利払いと維持管理費にあてられたものであり、新たに追加で発生したわけではないから、①②を加算するのはおかしい。
加えて、③480億円の減価償却が未計上。
会計に詳しくない人はこの数字も損失に加えてしまいがちだ。そうすると①②③の合計で3500億円以上の損失とみえてしまう。