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これからの季節に注意したい「保湿クリーム」使うと手が荒れる

 冬になると、医者は手荒れ患者にこぞって保湿クリームを処方し、病院に行けない患者は薬局でハンドクリームを買い求めるが、ところがどっこい、保湿クリームに保湿力はないのである。保湿クリームもハンドクリームも「皮膚の乾燥剤」であって、手荒れをさらに悪化させるだけなのだ。

 これは次のような簡単な実験で証明できる。

1.皮膚に油性マジックで落書きする。
2.落書きの半分に保湿クリームやハンドクリームを塗る。
3.5秒後にティッシュペーパーで拭き取る。

 最もよく処方され愛好者も多い保湿クリームで実験したところ、ものの見事に油性マジックが拭き取れていることがわかる。同じ実験を他の数種類のハンドクリームでも行なってみたが、同様の結果が得られている。

 比較のために、台所用の食器洗い用合成洗剤を通常使用の濃度に希釈したものと、希釈なしの原液でも実験してみた。

 結果は、通常使用濃度に薄めた合成洗剤では油性マジックはほとんど落ちないが、原液ではきれいに落とせた。つまり、保湿クリームの洗浄力(乳化作用)は原液の合成洗剤と同程度ということになる。

 ちなみに、この実験結果を見た知人は、台所のガスレンジ周りや換気扇周りの油汚れを保湿クリームで落としてみたが、市販の専用洗剤よりピカピカになったそうだ。つまり、保湿クリームは人体にではなく、年末の大掃除に使うのが化学的に正しい使い方だ。

 また、別の知人によると、「ハンドクリームで油汚れがきれいに落ちる」ことは車の整備工場では広く知られていて、手が機械油(潤滑油)で汚れたらハンドクリームできれいにしているそうだ。同様に、サイクリングを趣味とする人たちは、外れたチェーンを戻す際に手が潤滑油で汚れたらハンドクリームで汚れを落としているという。

 ではなぜ、保湿クリームやハンドクリームで油汚れがきれいサッパリと落とせるのか。それは、クリームとはそもそも水溶性物質と疎水性物質を界面活性剤で乳化させて作る物質だからだ。

 つまり、医薬品であれ化粧品であれ、クリームと名前のついている製品は合成界面活性剤の塊であり、保湿クリームもハンドクリームも例外ではないのだ。

 日本で最初に登場した液体状の台所用洗剤には、「食器野菜専用洗剤」と書かれている。なぜ野菜専用かというと、当時はまだ畑の肥料に人糞や人尿を使っていたため、寄生虫の卵が野菜表面に付着していることが多く、また農薬の使用量も多かったために野菜に農薬が残留していたからだ。

 そのため、洗剤で野菜を洗うことが推奨され、厚生省もその旨の通達を出している(1956年)。そして、1958年に[液体ワンダフルK」、翌年に[液体ライポンF]、1965年に[ファミリー]、その翌年に[ママレモン]などの台所用合成洗剤が相次いで発売された。  

 しかし、それらは寄生虫卵や残留農薬を洗い流すために強力な洗浄力が求められた商品であり、当然のごとく主婦に深刻な手荒れが発生し始める。

 合成洗剤業界はその事態を受けて、1970年代初め頃から、手荒れの少ない合成界面活性剤を開発したり、保湿成分を入れることで対応した。現在販売されている合成洗剤が低刺激性を謳っているのはその名残であろう。

 では、低刺激性の合成洗剤で手荒れが発生しなくなったかというとそうではない。外傷や熱傷で受診した患者本人や、子どもの患者を連れてきた母親の手を観察すると、多くの女性は手荒れしているし、「手荒れしていませんか?」と尋ねると、大多数の人が「手荒れで困っている」と答え、「手荒れしてません」と答える人は少数だ。

 要するに、病院に行くほどひどい手荒れは減ったのかもしれないが、わざわざ病院に行くほどではない軽症の手荒れは減っていない、という印象だ。

 保湿クリームが原液の合成洗剤と同程度の「油汚れ落とし機能」を持っているということは、原液の合成洗剤と同等の乳化力(洗浄力)を持つ合成界面活性剤が含まれているのだろう。

 つまり、保湿クリームを皮膚に塗るのは原液の合成洗剤を皮膚に塗るのと同じで、おしなべてクリーム外用薬は皮膚の皮脂を洗い落とし、皮膚を乾燥させる「乾燥剤」となるのである。

 以上、夏井睦氏の新刊『患者よ、医者から逃げろ~その手術、本当に必要ですか?』(光文社新書)をもとに再構成しました。湿潤療法の本質や院内感染、合成界面活性剤の闇に深く切り込みます。

●『患者よ、医者から逃げろ』詳細はこちら

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