ショックレーはチームのリーダーとしては不適任者だった
成功したチームは、情熱的であればあるほど、やがて分裂してしまうことが多い。そういうチームをひとつにまとめておくには、特殊なタイプのリーダーが必要だ。
○人を刺激するが、指導力もある○競争心を持っているが、協力も惜しまない
○上下関係を超えた団結心を育てる力がある。
ショックレーは、こうしたリーダーとは言いがたかった。部下や同僚に対して競争心をあらわにし、秘密主義になったりするタイプなのだ。
上下関係を超えた団結心を育てるという点でも、ショックレーは失格だった。専制的で、部下の独創的なアイデアを押さえつけては意欲をそぐことも少なくなかった。
ブラッテンとバーディーンが大成功を収めたのは、ショックレーがいくつか案を出すだけで、こと細かに管理したり監督しなかったころのことだ。その後、ショックレーはどんどん威圧的になっていった。
バーディーンとブラッテンばかりか経営陣とも衝突したショックレーは、ベル研究所を退職。自分の会社を興すべく、さまざまな資本家、経営者、研究者を訪ねる。
「結局のところ、私ほど賢く情熱的で、人を理解している者は、訪問したなかにもほとんどいないんだ」
部下の忠誠心を駆り立てられる人こそがカリスマ
リーダーのなかには、強情で要求が厳しいにもかかわらず、忠誠心を駆り立てるタイプもいる。そうしたリーダーは大胆な考え方を称賛し、その姿勢がカリスマ性を生む。たとえばスティーブ・ジョブズは、テレビ広告の形をとった自身のマニフェストをこう始めた。
「クレージーな人たちに乾杯。はみ出し者。逆らう者。厄介者。変わり者。ものごとが世間と違って見える者」
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスも、同じように、人を駆りたてる力を持っている。肝心なのは、意欲をあおって使命感を共有し、届かないだろうと思われている目標まで人を引っ張っていくことだ。
ショックレーにはその資質がなかった。身にまとったオーラのおかげで優秀な人材を集めるまではできたが、管理能力がなく、いっしょに働きはじめたとたん、反感を抱かれてしまうのだ。ブラッテンとバーディーンがかつて抱いたように。
彼は「ショックレー半導体研究所」を興し、ほぼ全員が30歳以下という若く優秀な人材を全国から集めた。人望がないのでかつての部下は誰もついてこなかったが、名声があったので、片っ端からリクルートすることに成功したのだ。
新会社でのショックレーは、研究者たちが米国物理学会に提出する論文を書いたときも、特許を出願するときも、自分の名を共同執筆者として掲載するように求めた。にもかかわらず、「どんな装置にも真の発明者はただひとりしかいない」と、矛盾としか思えないことを主張した。
さらに、オーナーでもあるアーノルド・ベックマンとも対立した。コスト削減のミーティングにベックマンが駆け付けた時、ショックレーは幹部陣の前でこう言い放ったのだ。
「アーノルド、我々のやり方が気に入らないんだったら、グループごとほかの会社に移ったっていいんだぞ」
だが、ショックレーより先に去っていったのは、彼の部下たちだった。
「良い人柄+優れた能力=良いリーダー」というウソ
1950年代のアメリカにおいて、安定した会社を飛び出してライバル会社を起業するということはあまりなく、相当な覚悟が必要だった。若い社員ばかりなだけに、「ノーベル賞受賞者にしてカリスマであるリーダーに逆らうのは恐れ多い」という声もあった。
だが、控えめで温和な言動の裏に精緻な頭脳を隠し持った化学者、ゴードン・ムーアは、反乱軍を集める決意をする。そして集まった“8人の反逆者”はショックレー研究所を去り、フェアチャイルドセミコンダクター社を起業する。
“8人の反逆者”の中心となったゴードン・ムーアとロバート・ノイスは、成功を経てフェアチャイルドセミコンダクター社を去り、自分たちの会社を作ろうと再び起業。のちのインテルである。
だが、経営者となったこの二人は、優秀な好人物にもかかわらず、理想的なリーダーとは言えなかった。
ノイスはMITで博士号を取った半導体技術者。学園のヒーローがそのまま成長したような好人物で、人に刺激を与えるカリスマ性があったが、親切で協調性が高いぶん、強い指示ができなかった。
ムーアも似たようなもので、権威を振りかざそうとも人の上に立とうとも思わなかった。
○上下関係や階級を嫌う○人に嫌われたくないという気持ちが強い
○怒らない、怒れない
○部下を指導しても、せきたてない
○意見の不一致があっても、対立を避ける
これでは理想のリーダーにはなれない。
インテル流「外向きの人・内向きの人・実行する人」
理想のリーダー不在のインテルに登場するのが、アンディ・グローブだ。
ウォルター・アイザックソン『イノベーターズI』(講談社)
グローブはハンガリー・ブダペスト生まれのユダヤ人で、第二次大戦後に亡命。渡米後に独学で英語を身につけ、ニューヨーク市立大学シティーカレッジを経てバークレーで化学工学博士となった苦労人だ。新卒としてフェアチャイルドに入ったが、ムーアを慕って退職。押しかけに近い形でインテルに参加した。やがて彼は実務的な経営者として、会社を動かしていくことになる。
インテルの起業を実現させた元祖ベンチャーキャピタリスト、アーサー・ロックによると、ノイスは「人を感化する力と創業期に会社を売り込む方法を知るビジョナリー」だ。
そしてムーアは新しいテクノロジーが次々と押し寄せるなかで、インテルをパイオニアに仕立てられる人物。ロック曰く「彼は聡明な科学者で、テクノロジーを推し進める術を知っていた」。
最後にたくさんの企業が競合するようになったとき、「ビジネスとして会社をしっかり引っ張っていく現実的な経営者」が必要となり、それがグローブというわけだ。
「外向きの人・内向きの人・実行する人」
グローブはピーター・ドラッカーの『現代の経営』(ダイヤモンド社)を読み、これを自分たちに当てはめた。つまり、3人で理想のリーダーを実現したのだ。
チームを飛躍させるリーダーは「ひとり」とは限らない
ひとりの強力なリーダーという形でなければ、効果的な経営ができないわけではない。異なる才能が正しい組み合わせでトップに立ってもいい。合金のように、元素をうまく組み合わせれば強力になるのだ。
リーダーもまた、チームワークである。インテルの文化はやがて、シリコンバレー一帯に広がっていく。
自分一人で完璧なリーダーになる必要はない。異なる才能の組み合わせが、成功の鍵なのだ。
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ウォルター・アイザックソン
ジャーナリスト
1952年生まれ。ハーバード大学で歴史と文学の学位を取得後、オックスフォード大学に進んで哲学、政治学、経済学の修士号を取得。英国『サンデー・タイムズ』紙、米国『TIME』誌編集長を経て、2001年にCNNのCEOに就任。ジャーナリストであるとともに伝記作家でもある。2003年よりアスペン研究所特別研究員。テュレーン大学歴史学教授。
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(ジャーナリスト ウォルター・アイザックソン)