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著作権法改正について

ようやく改正法の条文が衆議院のサイトで見られるようになったのでひと通り見てみた。国立国会図書館と国立公文書館に関する部分はほとんど議論もなかろうと思うので、それ以外の内容について多少。

(1) 第一はいわゆるフェアユース規定であるが、これがごく限定した特定の場合にのみ適用されるような「がっかり」フェアユースであるというのはまったくその通り。具体的に言うと被写体の背景に映り込んでしまった場合とか、利用に関する検討過程・技術開発・実用化試験の場合に限定されたもので、つまりあくまで利用方法の列挙にとどまっており「公正」のような利用形態・目的を規定に盛り込もうというものではない。

他方、そもそも私はフェアユースの考え方自体をあまり高く評価していないので(「透明化と事前統制/事後評価」『ジュリスト』1394号)、あまり「がっかり」でもない。つまり日本でもアメリカでもまず著作権を前提として許諾を得ない複製・翻案などを軒並み違法とするのであるが、日本ではその後私的使用や試験・授業における使用など個別の利用方法を列挙して例外的に合法と確定させていくのに対し、アメリカではフェアユース規定によって「公正な利用方法」なら許されると概括している。しかし問題はどのような利用方法がフェアかは条文上明らかではないということであって、現実には訴訟を通じて確定させるしかない。いわば日本の制度が限定列挙的なホワイトリストであるのに対し、アメリカのものはグレーの網を広い範囲にかけましたという体裁のものなのである。

そうなると、googleが典型だろうが、新規ビジネスのためにフェアユース規定を利用しようという場合には訴訟による時間的・費用的負担にも耐えられるだろうし、そのコストも含めてビジネスをデザインすればいいということになるから、とりあえず計画を先に進められるフェアユースのほうが望ましいということになる。他方、教育現場のように利益目的でなく、個々の教員・学校では訴訟負担に耐えられない場合にはフェアユースの活用など到底考えられず、日本型列挙主義のほうがありがたいということになる。実際、アメリカの教育現場における著作物利用のガイドラインを見た限り日本に比べて非常に萎縮したもので、たとえば事前に許諾を受ける時間的余裕がある場合には無許諾利用が許されないとか、文章なら●頁・詩なら◯段落を超える分量の配布はできないというレベルのものである。グレー領域がないだけ日本のほうがブラックの幅が広いというのも嘘ではないが、ホワイト部分がきちんと保障されていることを無視した議論かなとは思う。

(2) その上で、今回のフェアユースが「がっかり」レベルで決着したのは何故かといえば率直に言って権利者団体との合意が成立したからであろう。つまり内容的に「がっかり」であるだけに、これなら問題は出ないだろうという説得を権利者の側も受け入れたということ。日本では一般的な立法過程になっている内閣提出法案の場合、実際のプロセスを握っているのはご存知の通り各省の官僚である。ミスをすれば非常に目立って将来に差し支える一方、「業績」とか「成功」とかいうものが観念しにくいのでどうにも減点主義とかリスク回避的態度が生じると指摘されている。

そういう人々を動かすためには、関係者間のコンセンサスが形成されて誰からも表立っては批判されない状況を作るか、明確な被害者・損害が現に生じていてそれを放置することが「ミス」と指摘される状況であることを理解させるかが常道ということになろう。フェアユースの場合、当該規定がないことによって人命財産の明確かつ直接的な損害が生じることは考えにくいので官僚ルートに頼る限りコンセンサス形成を目指すしかなく、その結果が「がっかり」になったということではないか。

逆に言うと、一定の間接被害や利益減少が生じる可能性はあるが大きな利益拡大を目指して撃って出ましょうというような話は議員立法ルートの方が向いていたのではないかと、無責任な立場からは言える。そちらを担っている国会議員というのは、社会の多数からどれだけ強く批判されようが一定数の支持者を強固に固めていれば勝ちというルールで働いているわけだからね。フェアユースとダウンロード犯罪化でずいぶん内容の固め方が違うじゃないかというのはいい着眼点だが、このような立法プロセスと担当者の行動基準の違いによって説明することができる。

(3) 気を付けなくてはならないのは、しかし数とか重要性の観点で内閣提出法案ルートが一般的であり・議員立法ルートが珍しいとか少ないとか重要でないと言うことは正しいのだが、前者が正常で後者が異常だとは言えないということ。むしろ比較政治の観点からは行政府が法律形成にここまで積極的に関与している日本のシステムが異常だともしばしば評価されているし、議院に提出された法案の修正が少ないことも異常だと批判されている。フェアユースの場合とダウンロード犯罪化の場合が違うという指摘からだから後者が間違っているという意見に飛びつく前にもう少し準備しておこうねと、そういうこと。

(4) さて第二はリッピング禁止と言われているものであるが、これは30条で私的使用のための複製が例外的に認められているところ、そのさらに例外として「技術的保護手段の回避」を行なった場合が定められていたわけである。ここで「技術的保護手段」はいわゆるアクセスコントロールを指し、内容の暗号化は含まれていない規定だったために、DVDに使われていたCSSの解除などは例外の例外に該当しないと考えられてきた。今回の改正はこの点を改めて暗号化を「技術的保護手段」に含めるものということになる。

従って技術的保護手段を回避しない私的使用のための複製については引き続き合法であり、具体的に言えばCDやCSS等により暗号化されていないDVDのリッピングに影響を与えるものではないということになる。このあたりでどういう騒ぎ方をしているかで情報ソースとしての信頼性評価ができるよねという話。

(5) 最後にダウンロード犯罪化についてはすでに書いた通りであるが、条文を見て明確になったのは相変わらず対象が録音・録画であり有償で公衆に提供されたものに限られているということ。つまり、元から無償で提供されている著作物や、録音・録画以外の著作物には適用されていない。なぜこの二種類に限定されているかというと担当審議会における小委員会の区切りが違うからという経緯だったらしく馬鹿じゃねえのという評価は私も共有するところではあるが、とにかくそういうこと。

まあ結局権利者団体がどういう考えを持っているか・どのような対価回収のビジネスモデルを考えているかという点で差が出てきたというのがおそらく事実であり、当事者がそれでいいと思ってるならそれでやらせるしかないんじゃないかと余所者としては思うわけである。その結果当該産業が滅亡ないし衰退するとして、音楽業界にいる人やそこに思い入れのある人が怒るのはよくわかるんだけど、そうでなければ「それで音楽から離れていくなら仕方がない、正規品も欲しくない、CDも欲しくないという音楽しか作ってないのなら仕方ないだろう」(参議院参考人質疑における久保利英明弁護士発言)ということになるよなあと、そう思ったことであった。

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