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【年金をめぐる“故意”の空騒ぎ②】~一元化、税方式、最低保障年金…~ 旧民主党は空騒ぎしてから、手のひら返しで元の道(海老原嗣生)

さて、直近の空騒ぎっぷりを書き連ねてきたが、年金に関してはこんな状態がもう15年近く繰り広げられている。

まず15年前から数年にわたり再三騒がれたのが
■基礎年金を全額税方式にする。
■賦課方式をやめて積立方式にする。
■国民年金を厚生年金に統合して一元化する。
この3つの話だ。

概ね、旧民主党はこの3つ(積立方式については明言していない)をマニフェストに掲げて政権をとった。そして、政権奪取後、3つとも現実には全くうまくいかないと気づき、180度態度を変える。うまくいかない理由は後述することにして、まずは、その手のひら返しの状況をたどっておこう。

野党時代「壊れている」「簡単に直せる」と主張していた民主党

BLOGOS編集部

現在立憲民主党で、旧民主党政権では官房長官などの要職を歴任した枝野幸男氏は、2004年4月に、「(現行の公的年金制度は)間違いなく破綻して、5年以内に変えなければならない」と発現。同様に旧民主党政権時代、幹事長などの要職を歴任した岡田克也氏は、同党代表の座にあった05年当時に、「国民年金制度は壊れている」とも言っている。

こうした流れの中で05年、「年金制度をはじめとする社会保障制度に関する両院合同会議」が開かれることになった。そこで枝野氏は、「私たちは、新しい制度をある意味で白地に書きたいと思っています」と語った。

その新しい制度とは、基礎年金の全額を消費税でまかなう最低保障年金のことだ。

当然、その税財源をどうするかという課題に直面することになる。両院合同会議で、自民党の丹羽雄哉氏が、枝野氏にこの件について以下のように質問をした。

「民主党さんのマニフェストによりますと、足下で2兆7千億円に上る巨額な費用が必要になるわけでございます。これを、具体的にどのような財源を削減することによって2分の1を捻出するのか、これについてお答えいただきたいと思っております」

対して枝野氏は、以下のように答えている。

難しいことではありません。政権をかえていただければ、やる気があるかどうかという問題であって、予算の組立方の枠組みで、今のように各役所の積み上げ方式で予算編成している限りは大胆な予算配分の変更は不可能です。枠組みをしっかりと決めて、その枠の中でやれということで上からおろすというやり方をすれば簡単にできることだというふうに思っています。一度任せていただければ実現をいたします」。

何も具体策は示さず、大枠を決めてやれと役人に押し付ければそれでどうにかなる、と語るのみだった。今読み返せばその不誠実さに憤りを感じるばかりだ。

正直に負けを認めた人が悪人に…

BLOGOS編集部

まやかしは、政権奪取後もさらに続く。2010年10月、NHK日曜討論に出演した海江田万里経済財政担当大臣(当時)は、「基礎年金の国庫負担を引上げに要する2.5兆円をどうするのか」の質問に、「その話は今の年金のことでして、我々は全く新しい年金を作るわけですから」と答える。枝野発言から5年、政権交代して1年を経た後であっても、言っていることはまるで変わりない。

当時の旧民主党で要職にあって唯一、こうした姿勢に疑問を呈していた前原誠司氏は、政権奪取前の08年7月に雑誌『中央公論』誌上にて、以下のように危惧している。

仮にこのまま民主党が政権をとっても大変です。私は『君子豹変』しないかぎり、まともな政権運営はできないと思いますよ。今、民主党が最もしてはならないことは、国民に耳触りのいいことばかりを言っておいて、仮に政権をとった時に、『やっぱりできません』という事態を招くこと

さて、民主党の政権奪取から9年余りを経た現在、彼らの話は全く現実にはならず、2004年改正時のシナリオが堅持されている。その間、3年3か月も政権の座にあった民主党は、あれだけ「間違いなく破綻する」「壊れている」と言っていたにも拘らず、前原議員の予言通り「やっぱりできません」と白旗を上げ、以下のように修正もしくは謝罪発言をしている。

現行制度が破綻している、あるいは将来破綻するということはない」(2012年3月、野田佳彦総理)
年金制度破綻というのは私もそれに近いことをかつて申しあげたことがあり、それは大変申し訳ない」(2012年5月、岡田克也副総理)

2017年9月の解散総選挙では、当初よりマニフェストに疑問を抱いた正直者の前原誠司氏が敵役に転落し、遅きに失した感はあるが非を認めた野田佳彦氏と岡田克也議員は無所属で不遇をかこつことになった。対照的に、終始一貫いい加減なことを言い放ち、その発言を訂正も謝罪もしなかった枝野幸夫氏が、「アンチ安倍の主柱」「リベラルの騎手」とやけにもてはやされている。日本のマスコミは過去に寛容すぎるといえるだろう。

税方式は財源と公平性で実現不可能

ではなぜ、年金制度は大変更できなかったのか。

まず、基礎年金の税方式は財源規模があまりに大きい。そして、「過去払っていた人」と「未納だった人」の公平化の問題が残る。まず、財源規模だが、全員に無料で基礎年金を支払うにはその額は19兆円にもなる。消費税換算で7%にもなる数字だ。さらに「過去払っていた人」へのインセンティブとして加算をすることになると、その額は29兆円にまで膨れる。こうした試算を目の前にして、民主党は前言撤回していったのだ。このことは、野党で財政が見えなかったという言い訳はできない。受給者×基礎年金(年約80万円)という計算は素人でもできることだからだ。

積立方式にはいくつもの弱点があった

続いて積立方式だが、これについては基礎的な説明からしておこう。年金の財政方式には、自分の積立た保険料を自分で使う(積立方式)と、現役世代の支払った年金料が高齢者世代の年金給付に充てられる(賦課方式)の2つがある。日本は後者の賦課方式をとっており、少子高齢化で高齢者が増え、現役世代が減ったために、年々、現役一人当たりの負担が重くなっている。一方、積立方式ならば、積立てたものを自分で使うのだから、少子化など関係ない。そこから「積立方式が正しい」という論陣が一時張られた。

ただし、積立方式には多々弱点がある。まずこの制度を始めた時にすでに高齢だった人はどうするか?彼らは積立をしていないから年金ゼロとなってしまう。熟年世代の人にも同様の問題が起きる。40~50歳で積立を開始しても大した金額にならないからだ。こうした問題を取り除くためには、現役世代が二重の負担(自分の分と高齢者の分)をしなければならない。これが一つ目の無理。

二つ目は、長寿化に極めて弱いこと。想定した寿命に対して積立を行うわけであり、その年齢を超えたら「積立金はゼロ」となってしまう。自助が基本となるこの仕組みは、この問題を解決するのが難しい。

そして三つ目は、積立てたお金を40年以上にもわたって運用しなければならないこと。そのための手数料も大きいし、しかも経済変動リスクもある。

こうしたことから、多くの先進国が賦課方式をとっているのだ。

一元化は曲折あり2013年に棚上げ

三つ目の「一元化」も以下のようなプロセスで潰えた。

国民年金は今でも自営業者が多くを占める。彼らは事業用の資産を持ち、そして、加齢とともに緩やかに仕事を退いていく。雇用終了でリタイヤとなるサラリーマン主体の厚生年金とは異なる。一元化に取り組むとなれば、そうした違いについての議論が巻き起こるだろう。また、国民年金に厚生年金と同様な所得比例の2階部分を設けるとしたら、自営業者の所得の捕捉は難しいし、この部分は新たに事業者負担が必要になる。

だから、喧々諤々で議論は進まなくなる。それが最初に起きた問題。

二つ目には、一元化するしない関係なく、いずれにしてもやり遂げなければならない問題があるということ。

まず、国民年金には自営業者以外に、実は短時間・低所得で厚生年金に入れないサラリーマンの比率が4割も占めている。彼らヘは2階部分にあたる厚生年金が支払われず基礎年金のみだ。一元化してもこの状態は残る。

同様に、65歳まで雇用は延長されたが、年金支払いは過去のままの60歳まで、といいびつな状態も起きている。この払い込みを65歳まで延長すると、年金底上げ効果は、一元化よりもはるかに大きい。

こうした「やらねばならない重要課題」が残っているならば、そちらを優先し、その後、一元化についても議論する、という形で決着してしまう。「二段階論」としてそれは社会保障制度改革国民会議の2013年8月の例の報告書に以下の文言で、盛り込まれている。

「年金制度については、どのような制度体系を目指そうとも必要となる課題の解決を進め、将来の制度体系については引き続き議論するという二段階のアプローチを採ることが必要である」

こうして、民主党は一周回って元のさやに収まることになる。

気になるのは鳩山由紀夫元首相のこんな発言だ。

BLOGOS編集部

「年金がこのままではボロボロになって、年を取ってももらえなくなるという語りかけは、非常に政権交代に貢献してくれた」(2012年4月7日 朝日新聞)

やっぱり?! 故意の空騒ぎか?

続きは「年金不安の正体」にて

プロフィール

海老原嗣生(えびはら つぐお)
中央大学戦略経営研究科客員教授、雇用ジャーナリスト・株式会社ニッチモ代表取締役。株式会社リクルートキャリアフェロー(特別研究員)、株式会社リクルートワークス研究所特別編集委員。「Works 」(リクルートワークス研究所)編集長、「HRmics 」(リクルートエージェント)編集長を歴任。

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