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服役後5年“不屈の闘志”で司法試験合格した佐藤真言氏を阻む「不条理の壁」

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2011年、東京地検特捜部に「震災復興融資詐欺事件」で逮捕・起訴され、実刑判決を受けて服役した経営コンサルタントの佐藤真言氏が、今年の司法試験に合格した。5年前には、服役していた佐藤氏が、予備試験を経て司法試験合格まで5年という「超短期合格」を果たすまでの経緯が、産経新聞の記事【元受刑者のコンサルが司法試験合格 「負け犬」から奮起】で紹介されている。

産経新聞記事では、「『負け犬』からの奮起」という言葉が使われているが、決して、佐藤氏は、「負け犬」などではない。経営コンサルタントとしての役割を果たし、社会に貢献していたのに、特捜部の全くの見立て違いの捜査によって逮捕され、引き返すことをしない検察によって、起訴された、まさに“被害者”だった。

佐藤氏を「悪質経営コンサル」と誤認した特捜部

きっかけとなったのは、2010年に、元銀行員の経営コンサルタントAが国税局の査察で摘発されたことだった。Aは、銀行に在職時に、大口の融資話をまとめてはリベートを吸い上げて巨額の利益を得、しかも、その融資先会社は殆ど営業実体がないにもかかわらず虚偽の決算報告書で優良企業のように見せかけていた。東京地検特捜部がAを詐欺で逮捕し、立件された事件だけでも被害額は15億円に上った。

この巨額詐欺事件の元銀行員Aと、「元銀行員の中小企業向け経営コンサルタント」というところだけ共通していた佐藤氏を、特捜部は「粉飾決算の指南役」として捜査の対象とした。佐藤氏を、Aと同様の「悪質コンサル」と見た特捜部は、佐藤氏の自宅を捜索、捜索に赴いた係官は、佐藤氏の住まいのあまりの質素さに驚く。札束も、隠し財産も全くない。佐藤氏への取調べが始まり、その説明から、特捜部の見立てが完全に誤っていたことが明らかになっていくが、特捜部は、引き返そうとはしなかった。

佐藤氏の顧客の会社のほとんどは、リーマンショックによる不況で経営が悪化し、倒産の危険にさらされている状況で、佐藤氏の経営再建に向けての助言・指導を受けていた。売上や在庫を若干水増しして、決算内容を債務超過に至らない最低限のレベルに維持しながら、銀行融資の返済を続けている会社ばかりだった。融資する金融機関の側も、厳しい経営状況を把握しており、決算書の内容を厳密に突き詰めることなく融資継続の是非を判断しているという状況だった。

検察改革で追い込まれた特捜部の「起死回生」のための事件

特捜部は、その顧客会社のうちの一社が「東日本大震災復興緊急保証制度」に基づく保証融資を受けていたことをとらえ、「悪徳コンサルタント会社が実質破綻の中小企業を利用して震災復興の保証制度を食い物にした」という構図で組み立てて、佐藤氏とその会社の社長を逮捕した。

この事件の立件には、当時、検察不祥事を受けた検察改革で縮小されようとしていた特捜部の組織としての思惑があった。2011年4月に「検察の再生に向けての取組み」が公表され、取調べの可視化の試行など様々な施策が打ち出され、その一環として、特捜部の特殊直告班(主として政界汚職事件など特捜部の独自捜査を担当する部門)が縮小し、一班体制とされることになっていた。それに伴い、廃止されることになった「特捜部特殊直告2班」が、「起死回生の一打」を狙って手掛けたのがこの事件であった。

顧客会社は、社長の突然の逮捕で、銀行融資がストップ、会社は破産に追い込まれ、取引先の零細業者も連鎖倒産した。詐欺に問われた信用協会の保証付き融資も、結果的に、返済不能となった。

会社の倒産は、検察の強制捜査のためだった。しかし、会社が倒産し、銀行融資が結果的に返済不能となってしまったため、融資した銀行は、検察官から「粉飾決算を見過ごしたのか」と言われ被害届を出すよう求められれば、出さざるを得ない。被害弁償ができない1億円を超える詐欺事件となれば、執行猶予はつかない。佐藤氏は、懲役2年4月の実刑判決を受けて、服役した。

佐藤氏は、「貸し渋り」「貸し剥がし」が横行する中小企業金融の実態に幻滅して大手銀行を退職、経営コンサルタントとして中小企業経営者に寄り添い、経営改善の支援に懸命の努力をしていた。

普通に聞けば、「銀行から融資名目で1億円を騙し取って実刑判決を受けた」というと、「詐欺師」であったかのように思うだろう。しかし、佐藤氏が詐欺罪に問われた事実は、それとは全く異なる。

佐藤氏は、経営コンサルタントとして苦しい経営状況の中小企業が、金融機関からの融資の継続によって経営を立て直すことに尽力してきた。「粉飾」も佐藤氏が指導して始めさせたわけではなく、決して「粉飾」を指南したわけではない。

金融機関から融資を騙し取る「融資詐欺」の「詐欺師」の典型は、美濃加茂市長事件の贈賄供述者だ。会社の実体もなく、売上も全くないのに、関係機関の代表者印等を偽造、受注証明書・契約書等の公文書・私文書を偽造して、多くの地方自治体・医療機関等から浄水装置を受注しているかのように装ったり、送金元の名義を偽って代金が入金されたように見せかけたりして、事業の実体がないのにあるように偽装して、金融機関から融資金を騙し取っていた。それが、典型的な犯罪としての「融資詐欺」であり、佐藤氏の事件の発端となった経営コンサルタントAの詐欺も同様だ。

佐藤氏の行為は、融資を受けた会社の会計の「紛飾」が否定できるわけではないので、関与が否定できなければ、形式的には詐欺罪が成立することになる。しかし、検察が中小企業の金融取引の実情をわきまえていれば、凡そ、詐欺罪で立件して起訴するようなことではないことはわかったはずだ。

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