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裁判長が「2度と来るな」と諭す被告人の条件

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▼忘れられない法廷のプロの技【裁判長・検察編】

傍聴席を号泣させる、巻き込む話術・演技力

裁判長の人柄が現れるのは、判決言い渡し後の説諭(悪事をしないよう被告人に諭すこと)にあると思っている。説諭をするかどうかは裁判長にゆだねられ、まったくしない人もいれば、必ずする人、事件によってしたりしなかったりの人といろいろだが、個人的にはするほうがいいと思っている。説諭には再犯防止の意味合いが強いからだ。

※写真はイメージです 写真=iStock.com/Chris Ryan

かける言葉は以下のようなものが代表的である。

「あなたには待っている人がいるのですから、刑務所でしっかり反省し、罪を滅ぼし社会復帰したら、二度と犯罪を犯してここに戻ってくることのないようにしてください」

実刑判決を受けた直後、気落ちしている被告人に、自分には親や家族がいるんだと希望の光を与えることばだろう。孤独な被告人にはこうだ。

「刑務所を出てからも人生は続きます。あなたには先があるのですから、大変なこともあるでしょうが、ヤケにならず、自分を大切に生きなければだめですよ」

■「奥さんの墓を守っていくこと。それは、あなたにしかできません」

僕はかつて、裁判長の名調子にもらい泣きしてしまったことがある。妻の自殺をほう助した罪で逮捕された初老の男性に執行猶予付き判決を下した後、ぐっと身を乗り出し、次のように語りかけたのだ。

「執行猶予を付けたのは、あなたには外の世界でするべきことがあると考えたからです。奥さんの墓を守っていくこと。それは、あなたにしかできません」

温かいことばをもらい、涙を流して礼を述べる被告人。この人が悪事を働くことは二度とないだろうと確信できた。

■一流のキレ芸「こんな事件起こして恥ずかしくないんですか!」

検察官は証拠が整っていていればほぼ確実に有罪判決を得ることができるので、弁護人のように熱弁をふるったりする必要はない。だが、執行猶予も絶対に与えたくないと意気込むのか、再犯防止意識が高いゆえなのか、性犯罪や覚せい剤使用事件などでは、被告人質問で暴走気味の追い込み方をするときがある。

典型的なのは、性犯罪を担当する女性検察官が、全女性を代表するかのような口ぶりで、被告人の犯罪行為を責め立てる場合。見学(傍聴席)の女子高生たちまで利用するのを聴いたときは、目的のためには手段を選ばぬオフェンス力に舌を巻いたものだ。

※写真はイメージです 写真=iStock.com/Chris Ryan

「あなたね、さっきから『もうしません』と繰り返しているけど、前回捕まったときも同じこと言ってるでしょう。ふー(タメ息)。今日は傍聴席に学生の方がたくさんきています。みんな、あなたをにらんでいますよ。こんな事件起こして恥ずかしくないんですか! もういいです、終わります」

反論できない相手をいたぶり、恥をかかせるわけだが、同じ検察官が別の事件では上品な口調で被告人に接しているのを見るとプロだなと言いたくなる。検察官の狙いは、被告人をカッとさせて本音を引き出すこと、また、矢継ぎ早の質問で被告人の言い分が矛盾していることを明らかにすることだ。傍聴を続けていると、しょっちゅう見かける検察官がいるけれど、いったい本人がどんな人なのか、僕には想像もつかない。

▼忘れられない法廷のプロの技【法曹三者編】

裁判長・検察・弁護人が「おにぎり35個万引き」の犯人を励ます

プロ意識の高い法曹三者はそれぞれ立場も役割も異なる。よって彼らが足並みを揃えて被告人を励ますことはまずない。弁護人と裁判長はともかく、厳しい刑を求めるのが常の検察がそんなことするなんてありえない。

ところが、それに近いことが起きたのである。

拙書『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)に収録した、本のタイトルになった事件。被告人は43歳の無職男性。3つの大学を卒業した元公務員で手話通訳のプロだったが、ワケあって路上生活を強いられ、逮捕時の所持金はたった147円だった。

「絶対に、いいですか、絶対に、二度と罪を犯してなりませんよ」

被告人の人生や犯行に至る経緯が法廷内で明らかになってくると、あろうことか検察が被告人に同情したのか、どこか戦意喪失したような口調で「意見・求刑」を行ったのだ。

北尾トロ『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)

「重大な罪を犯した被告人には罰則を与えるべきである」という“演技力”を求められるのが検察官だ。熱く訴えるべきところを実にあっさりとすませてしまった。何の意図もなくこんなことをするはずがなく、「なるべく軽い刑でいいですよ」というメッセージとしか思えなかった。

それを察知したのか、弁護人は最終弁論をくどくど述べず、裁判長に花を持たせる粋な計らいをする(ように思えた)。傍聴歴19年目で初体験した法曹三者の連係プレー。裁判長が満を持して熱い説諭を口にしたのは言うまでもない。

「あなたは絶対に、いいですか、絶対に、二度と罪を犯してはなりませんよ(中略)まだ十分、人生を立て直せるはずです。わかりましたね」

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北尾 トロ(きたお・とろ)
ノンフィクション作家
1958(昭和33)年、福岡県生まれ。法政大学卒。フリーターなどを経て、ライターとなる。主な著書に『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』『裁判長! おもいっきり悩んでもいいすか』などの「裁判長!」シリーズ(文春文庫)、『ブラ男の気持ちがわかるかい?』(文春文庫)、『怪しいお仕事!』(新潮文庫)、『もいちど修学旅行をしてみたいと思ったのだ』(小学館)など。最新刊は『町中華探検隊がゆく!』(共著・交通新聞社)。公式ブログ「全力でスローボールを投げる」。
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(ノンフィクション作家 北尾 トロ)

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