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中学受験に「熱心すぎるお父さん」が子どもの成績を下げてしまうワケ - 菅隆美


(DmitriMaruta / iStock / Getty Images Plus)

「この問題を間違えたら、お父さんに怒られる」

その答案用紙を見た瞬間、これは相当マズイことになっているのではないかと、事態を深刻に受け止めました。6年生の夏休みの終わりに受けたショウタくんの算数模試の答案が、下半分真っ白だったのです。

菅:「ショウタくん、下の問題は全部分からなかったのかな?」 ショウタ:「ううん(首を振る)。問2の問題で時間がかかっちゃって、残りの問題を解く時間がなくなっちゃったの」

見ると、その問2はごく普通の問題で、取り立てて難問というわけでもない。

菅:「どうしてこの問題に時間がかかっちゃったのだろう? どこが難しかったのかな?」 ショウタ:「前にお父さんとやった問題とすごく似ていた。これを間違えたら、お父さんは『この問題は前に一緒にやっただろ!』と絶対に怒る。だから、何度も見直したら時間がかかっちゃって……」

ショウタくんの努力の形跡は確かにありました。答えは正解。それが何よりの救いでした。でも、その後はすべて白紙なので、結果は散々なものでした。

そして、私は大きな不安を感じました。このままでは本当に取り返しのつかないことになるぞ、と。

どう考えても実行不可能な無理難題を突きつける

ショウタくんの家庭教師に就いたのは、5年生の夏のことです。ショウタくんは国立難関中学を第一志望校にしていました。4年生のうちは順調だったショウタくん。しかし、5年生になると、徐々に成績が下がり始めます。それを知ったお父さんは、これまでショウタくんの受験勉強にはノータッチだったのに、突然介入し始めます。そこから、ショウタくんの成績はみるみるうちに急降下していきます。そして、5年生の夏に家庭教師にお声がかかったわけです。

実はショウタくんの成績低迷の原因は、お父さんの存在にありました。ショウタくんのお父さんはマジメで几帳面なサラリーマン。家庭教師である私と話をする時は、とても物腰が柔らかく特に気難しいタイプの人には見えません。ショウタくんのことをとても思っていて、端から見れば“いいお父さん”です。

ただ、ショウタくんが少し幼いタイプの子なので、「ショウタは自分一人では何もできない。私が引っ張っていかなければ!」と思い込んでいる節があります。それを表すのが、お父さんが作成する「学習スケジュール」です。

自宅にあるホワイトボードには、毎日の予定がぎっしりと書かれています。塾のある日、ない日にかかわらず、国算理社の4教科はまんべんなく。復習、宿題、それ以外のテキストに載っている応用問題、計算や漢字などのルーティンワーク、テスト直しも全部網羅しているのです。

でも、これは明らかに詰め込みすぎです。普通なら塾のある日はその日の授業内容の復習だけで手一杯です。塾のない日も宿題を終わらせるだけで大変です。そこにお父さんが指示する学習量を付け加えるのは、どう考えても無理です。お父さんが立てたスケジュールの3分の1がこなせるだけでもたいしたものです。

ところが、お父さんはそのことに気づいていません。そして、予定通りにできないショウタくんを叱るのです。できなかったものは土日にやらせ、ショウタくんは息抜きをすることができません。

一時は反抗的な態度を見せたショウタくんですが、お父さんの理屈に論破され、反抗するのをやめてしまいました。今はすっかり受け身モードで、その顔には精気がありません。

スマホの待ち受け画面は息子
こんなに愛しているのに……

「もっと早く解け」 「あんなにやったのに、またミスをしている」 「こんなんじゃ受からないぞ」

お父さんは毎日、ショウタくんにげきを飛ばします。冒頭でショウタくんが「お父さんに怒られる」と怯えていたのは、お父さんと一緒に似たような問題を解いたのに、もし間違えてしまったら、また怒られると思ったからでしょう。そこで必要以上に間違っていないか見直しをしているうちに、時間が足りなくなってしまったのです。

ここまで子どもを追い詰めてしまうお父さん……。でも、お父さんはショウタくんが嫌いなわけではありません。いいえ、ショウタくんのことが大好きなのです。ショウタくんの写真をスマホの待ち受け画面にしているくらいなのですから。

そして、ショウタくんもお父さんのことが好き。だから、お父さんの期待に応えようと頑張っているのです。しかし、中学受験の勉強は、小学生の子どもの体力と精神力に応じたやり方で進めていかなければ、成績は伸びていかないのです。

頭では理解できるが、自分には置きかえられない

頑張っているのに、お父さんに認めてもらえない。ショウタくんの表情は次第に暗くなっていきました。こうなってしまうと、なかなか成績は上がっていきません。

まず、対策として勉強量を減らさなければなりません。子どもが自信を失っているときは、あと少し頑張ればできそうなところを中心に学習をし、それができたら誉めて自信を持たせてあげることが大事です。そのためには、まずお父さんを説得し、理解してもらう必要がありました。

努力をすれば結果を出すことができる。たくさん勉強をすれば合格できる。ショウタくんのお父さんはそう信じて、ショウタくんにたくさんの課題を与えました。でも、それで結果を出せるのは、精神的に成長している高校生や大人の話であって、まだ発達段階にいる小学生の子どもに同じことを求めるのはあまりにも酷です。やらせすぎは子どもを潰してしまう。そんな話をショウタくんのお父さんにしてみました。

ショウタくんのお父さんは、私の話を熱心に聞き、「そうですね。その通りですね」と理解した様子を見せます。あぁ、よかった、分かってもらえたのだな。ところが、その後も変わらずショウタくんに無理難題を突きつけます。家庭教師のアドバイスには耳を傾けるけれど、それを“自分事”として捉えることができないのです。

こうしたやりとりが続き、さすがに私もお父さんを受験指導から外さなければいけないと思うようになりました。そこで、こちらから無理を言って授業曜日を変えてもらうことにしたのです。それまでショウタくんのお父さんは、授業のある日は必ず同席していました。ショウタくんがミスをしたり、問題を解くのに時間がかかったりするたびに、「この問題はこの間やったじゃないか」「もっと早く解かないと時間がたりなくなるぞ」と横からダメ出しを入れ、それがショウタくんを萎縮させていたのです。そこで、まずはお父さんをショウタくんから離すことが先決だと考えました。

それから、お父さんが同席できないように、授業の開始時間を早めることにしました。私の授業は通常2時間ですが、そこでじっくりショウタくんの指導にあたり、自信を持たせることが狙いです。ところが、お父さんは何が何でも関わりたい一心で、終了時刻ギリギリに汗をびっしょりかきながら帰宅してきます。その姿を見ると、「なぜお父さんは、ショウタくんの心の叫びに気づいてあげられないのだろう」とせつない気持ちになります。

帰宅に間に合わないときには、お母さんに質問事項を託します。その中身もこと細かい質問がぎっしり。どうやら、このお父さんを変えるのは難しそうです。唯一の救いは、お母さんが冷静で、気になることを随時私に相談してくれることでした。

中学入試、最後は子どもが一人で戦うしかない

10月に入り、6年生はいよいよラストスパートにかかる時期になりました。ショウタくんの成績は、お父さんが介入すれば下がり、介入しなければ上がっていくという状態をくり返していました。実に分かりやすいのです。近ごろ、お父さんは仕事に忙しいようで、ショウタくんの勉強にあまり関われていないようです。それが幸いに、ショウタくんの成績は徐々に伸びてきています。しかし、またいつお父さんが介入してくるか分からないので、油断は禁物です。

できることなら、お父さん自身にそのことに気づいて欲しい。ショウタくんはお父さんから見ればまだ幼く、自分が引っ張っていかなければいけないと思っているのかもしれませんが、ショウタくんは今、自分の力で頑張ろうとしています。

中学受験は子どもがまだ幼いため、どうしても親が引っ張っていかなければならないことがあります。でも、どんなに親が引っ張っても、入試に親が同席するわけにはいきません。最後の最後は自分の力で戦うしかない。そのときに最大限の力を発揮できる子どもは、「僕ならできる」という自信を持っている子どもです。

その自信を与えるのは、塾の先生でも家庭教師でもありません。子どもが誰よりも大好きなお父さんとお母さんの他にはいないのです。ですから、親はわが子のためを思って「たくさんの課題」を与えるのではなく、「たくさんの自信」をわが子に与えてあげてください。その自信が何よりも大きな力になるのです。

(構成=石渡真由美)

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