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波瑠vs高畑充希 秋ドラマ「女性の葛藤物語」の勝者は?

番組公式HPより

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 女性の生き方について考察するドラマはトレンドの一翼を担っている。もちろん、多様性が叫ばれる時代の空気と不可分ではない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

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 今期のドラマにおいて注目の2作品。よい意味でライバル同士とも言えるのが『G線上のあなたと私』(TBS系火曜午後10時)と『同期のサクラ』(日本テレビ系水曜午後10時)でしょう。テーマ性やメイン視聴者層も共通するものがあります。描かれているのはいずれも「自分らしく生きていくにはどうしたらよいのか」ということ。こうした時代だけに、多くの人々の関心に届きそうです。

『G線上のあなたと私』はバイオリン教室で出会った稽古仲間の、人間関係や恋愛をからめつつ、主人公・也映子が生き方を探っていく物語。也映子に波瑠、主婦・幸恵に松下由樹、そして朝ドラで一久さんとして登場した新進気鋭の中川大志の三人組。

 中でも、見所の一つが中川さんの演技でしょう。朝ドラ『なつぞら』ではヒロインの夫役でしたが、あまりに良い人すぎてちょっと物足りなかった。しかし、それも一久さんという役柄の話。今回中川さんが演じている理人は、不器用で内向的で思いを胸一杯に抱えている大学生。そんな理人を、中川さんは的確に演じています。

 ご本人もまだ21才ながら、甘すぎない。チャラくない。腰が据わっていて落ち着きも感じさせる。役者としてのこれからに、期待を抱かせてくれています。第3話で見せた「シャッタードン」シーンに胸キュン視聴者が大騒ぎとなりましたが、それもこれも理人の内向的で抑え目の演技を、まずはしっかり演じ切ったことが、効いています。

 それに対して相手役・波瑠は、役者としてちょっともの足りないかも。也映子のキャラクター設定自体が宙ぶらりんということでもありますが。

 婚約を破棄されたアラサーで「私前に進めてる?」「本気の好きって何?」といつも自信の足りない也映子。居酒屋では酔って大泣きし、無職から職探しを始め、何とか自分の居場を手に入れたい、と願うモラトリアム。シリアスでもラブコメでもなくまさしく宙に浮いている感覚を、波瑠さんにはぜひ新しい魅力的演技として見せ切って欲しいものです。

 ドラマの撮影場所にはバイオリン教室、カラオケ、居間……と室内セットが多用されているのもやや単調。経費削減策なのか変化に乏しい印象です。物語のテンポも今一つ、主人公たちの話題も狭い人間関係に終始しがち。

 それもそのはずで、原作者・いくえみ綾さんは「劇的なことはおこらない」と言っています。ドラマ化ついて「日常生活の一コマにチクッとキラッと心に引っかかることがあれば幸いです」とコメントしている。そう、「キラッと心にひっかかる」シーンをもっともっと見せて欲しい。今後の展開を見守りましょう。

 一方、『同期のサクラ』はそれとは対照的に、セリフも人物設定も激しい。脳挫傷で意識が戻らないサクラ(高畑充希)が病院のベッドに横たわる姿から毎回始まり、1話で1年、10年間を振り返るという仕掛け。遊川和彦脚本によるオリジナル作だけに構成的です。

 10年間というスパンを描くけれど、サクラだけほぼ変わらない。他の人たちはどんどん変わっていく。つまり「サクラ」を定点とした人間観測ドラマと言えるのかもしれません。

 サクラは“私には夢があります”が決めセリフ。ふるさとの離島と本土を結ぶ橋を架ける、という夢のために大手ゼネコンに入社。しかし、企業に入った割には空気を読まず。過激なコトバをバシバシ言ってくれる。その弾丸トークに視聴者は胸すっきりという、いわば常識という枠をぶち破っていくトリックスター役なのでしょう。

 直球で本音を出しすぎて失敗してしまったり、反対にうまくコトバで伝えることができないという、コミュニケーションが苦手な人がたくさんいる時代です。そのあたりで視聴者の共感を呼ぶ設定が、実に秀逸。そのためか第4話の視聴率は、初の二桁11.5%に伸びてきました。

 しかし。毎回一つだけ浮かぶ素朴な疑問。なぜそこまで違和感があり嫌な思いをしながらも、みんな会社を辞めないのか。辞めてはいけないのか。結局、組織に守られながら正義を吐き、組織に順応していく過程を見せられているような気がしないでもない。

 まあそんな固いこと言わず、ドラマが視聴者のストレスのガス抜きになればいい、ということかもしれません。いや、遊川氏の脚本ですからまだ序の口、これから破壊的展開が用意されている? 今後も目が離せません。

 と、2つの作品を見ていて、つい思い出されてしまうドラマがあります。前クールの『凪のお暇』。こちらもやはり会社や組織の中で人間関係に悩み、自分の居場所を探しとうとう外へ羽ばたいていく、という一人の女性の葛藤物語でした。

凪やまわりの人々が見せてくれた、繊細で柔らかくて微妙な心の揺れと迷い、そして壁を乗り越えていく勇気を、また新しい形でドラマの中で味わってみたい。そのあたり今期のドラマにまだ物足りなさを感じているのは私だけでしょうか? 今後におおいに期待しましょう。

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