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佐藤 健「自分の娯楽のためだけじゃなく、そこに本気を捧げて勝負することを繰り返したい」

普段の佐藤 健は、筆者が知る限り、安定して低めのテンションが印象的な人だ。あまり感情の起伏を見せることはなく、だからといって決して自分本位にクールをキメているわけではなくて、そのぶん周囲や他者をよく観察し、その場における自分の役割を客観視しようとしているのだろう。言うなら、皆が気づいていない事柄を「あの時、本当はこうだったじゃん」とあとになって何気なく言い当て、意図せず誰かや何かを決定的に救ってくれるようなキャラクター。そんな気質に垣間見るのは説明するまでもなく、その着実なキャリアによって培われた了見の広さといえる。

「自分の家にも客観性を失いたくない」

少々前置きが長くなったが、撮影当日スタジオに入ってきた佐藤もいつものテンションで、こちらに気を遣わせる隙を与えずカメラの前に進むと、用意されていたチェアを少しだけ眺めて、ゆっくり腰かけた。

「自分の家に関しても客観性を失って、『自分が好きだからいい』『他の人が見たら引く』みたいにならないようにはしています。家具はヨーロッパのシンプルで上質な素材のものが好きなんですけど、自分にヒットするものを見つけない限りは買わない。結果的にプロジェクターのスクリーンサイズに合わせたテレビボードとか、オーダーも多いですね。身の回りに物が多いのがいやで、極力家に何も持ちこまないのがここ10年くらいのテーマなんです……。建築も安藤忠雄さんとか無機質系が好きで、今はまだ早いけど、いつかは家とか別荘を建ててみたいです」

ちなみに今の家では「ジムだけでなく自宅にもあったほうがいろいろと効率的」と思って買ったマシンでトレーニングを30分程度、一方で「この仕事をしていることで、結果的に増えてしまった」と話すピアノなどの楽器を触る以外、外出しない日は、テレビボードの前のソファに座って1日映画を観て過ごすことも多いという。佐藤が主演を務めた映画『ひとよ』でメガホンを取り、名だたる役者たちが今もっとも出演を熱望する白石和彌監督作品も「ほぼ観ていたし、人の感情を操って裏切ったりしていくのがものすごく上手くてご一緒したかったので、嬉しかった」と話す。

『ひとよ』で佐藤が演じたのは、母が起こした"ひとよ(一夜)"の出来事により、運命を狂わされる3兄妹の次男。大人になり、兄妹とも距離を置き、東京でうだつの上がらぬフリーライターとして悶々と働く彼は、15年ぶりに会う母を受け入れられない。

これまでのいわゆるイケメンやヒーローとは一線を画す、無精髭を生やした暗く無口なやさぐれ役も、本人曰く「自分と遠くない人間だと思っていて、意外と普通に演じたのと、力の抜けた感じは今までで一番かもしれない」。ただ、脚本を読んだ段階では、家族との距離感を思い描くことは難しかったようだ。

「僕は自分の家族しか知らないし、家族の数だけその形があるので、自分の感覚で演じると他の人の感覚とズレたりする。だから、すべて監督に任せました。兄妹との距離感も自分はあくまで"無"で、彼らの芝居ですべてが決まっていきました」

そうして作り上げた今作は、まさに受けに徹した佐藤の機微に富んだ芝居が続くなか、家族に対して感情の沸点を迎えるクライマックスに放たれた言葉に、私たちも、いつの間にか本音を言えなくなった家族に対して抱いていたバリアを解かれる。30歳となった佐藤 健にとってもその芝居の包容力を強く印象づけた節目の作品になるに違いないが、本人は高揚を見せることもなく冷静に前を見据えている。

「やりたい仕事をやることができて幸せだなと思いますし、できれば今後もそうありたい。自分の娯楽のためだけじゃなく、そこに本気を捧げて勝負することを繰り返していけたら。今回の『ひとよ』みたいな作品も、めちゃめちゃ面白いドラマも、日本で作って世界で見てもらえるような作品も作りたい。自分として何がやりたいかが明快に見えてきて、実現するために動いていくことも積極的にやっていきたいです」

Takeru Sato
1989年埼玉県生まれ。近年の映画出演作に『バクマン』『世界から猫が消えたなら』『何者』『亜人』『いぬやしき』『億男』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(声の出演)、テレビドラマに『半分、青い。』『義母と娘のブルース』など。受賞歴も多数。公開待機作に大ヒットシリーズ『るろうに剣心 最終章』(2020年夏2作連続公開予定)がある。

『ひとよ』
原作:桑原裕子「ひとよ」
監督:白石和彌
脚本:髙橋 泉
製作幹事・配給:日活
出演:佐藤 健、 鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介・田中裕子
企画・制作プロダクション:ROBOT
11月8日(金)全国ロードショー
『孤狼の血』(2018)で数々の各賞に輝いた白石和彌監督が主演に佐藤 健を指名。3兄妹を守るため罪を犯した母親と、彼女の決断で人生を狂わされた家族の葛藤を描く。

Direction=島田 明 Text=岡田有加(edit81) Photograph=レスリー・キー(SIGNO) Styling=中兼英朗(S-14) Hair & Make-up=MIZUHO(vitamins)

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