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【読書感想】老人の美学

老人の美学 (新潮新書)
作者:筒井康隆
出版社/メーカー:新潮社
発売日:2019/10/16
メディア:新書
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内容(「BOOK」データベースより)
青年、中年からやがて老年へ。人生百年時代にあっても、「老い」は誰にとっても最初にして最後の道行きなのだ。自分の居場所を見定めながら、社会の中でどう自らを律すればいいのか。周囲との付き合い方から、孤独との向き合い方、いつか訪れる最期を意識しての心の構えまで―85歳を迎えた巨匠・筒井康隆が書き下ろす、斬新にして痛快、リアルな知恵にあふれた最強の老年論!

 良くも悪くも「筒井康隆さんだからな……」と思いながら読みました。
 筒井さんのような人は、あくまでも「特例」であって、僕が生きていればなるであろう「正規分布内の老人」にはあてはまりそうもない。
 でも、「どこにでもいる老人」の話なんて、誰も聞きたいとは思わないですよね。
 もちろん、長年の筒井ファンである僕にとっては大変興味深い本ではあるのですが、そうではない人にとっては、あまり親しみがわかない本ではないか、という気もします。

 筒井さんは、自らを研究対象としているかのごとく、年齢を重ねるとともに、「老い」や「高齢者」を題材とした作品を発表し続けておられます。

 この新書は、その作品に沿って、「老人として生きるうえで気をつけるべきこと」が述べられているのです。

 六十三歳の時に書いた「敵」の中で、老人の孤独に関してだが、小生比較的、的を得たことを書いている。儀助とグラフィック・デザイナー湯島定一との関係である。二人は年とともに疎遠になりつつあるのだが、ここでの儀助の述懐をもう一度再録しよう。

「今でも時おり人恋しくなって電話に手をのばしそうになる。だが儀助はこれ以上湯島に甘えてはならないと思いとどまる。もしかすると湯島の過剰な奉仕は儀助の遠慮恐縮負い目による疎遠を望んでいるためかもしれないではないか。まさかそうではあるまいと思うものの逆に湯島が自分からの電話を待ち侘びていたとしてさえむしろ待ち侘びて貰っていた方がうんざりされるより望ましいのだと儀助は断じるのだ。そう思うことによって寂しさが喜びの感情に転じたりもする」

 そしてこの本書の第二章では、好ましい友人だからといって自分からすり寄って行かないのが儀助の美学だと言える、と書いている。例えば自分と境遇の似た老人であり、親しいからと言って、毎日のように逢い続けているうちには、何しろ気難しい老人同士のことであり、やはり何かしらの齟齬が生まれ、気まずくなることがある、ということである。親しくしはじめる以前よりも仲が悪くなった、というのもよく聞く話だ。

必ずしもそうなると決まったわけではないが、そうなって絶交に至った時の寂しさ、侘しさを考えると、まだ孤独であった方がいいということになる。そしてこれは儀助の美学、というだけではなく、一般の老人にも当て嵌まる美学ではないだろうか。

 ああ、これは今の僕にもわかるような気がする……
 ベタベタしすぎて嫌われるよりも、いい関係の記憶を残したまま、深入りしないほうがいい。
 ……そう思っているうちに、いつのまにか疎遠になってしまう、ということばかり、ではあるんですけどね。
 僕の場合、もともと、ひとりがあまり苦にならない、というのはあるのかもしれませんが……
 年を重ねてからの「孤独」というのは、今の「ひとりだけの時間」とは、違うものになるのだろうか。

 長年、筒井康隆という作家とその作品を追ってきて思うのは、筒井さんは、何歳になっても筒井さんだ、ということなんですよ。

 増加し過ぎた老人人口を抑制するため、七十歳を過ぎた老人が互いに殺しあうという制度ができた社会を、「銀齢の果て」という長篇にしようなどと、なぜ考えついたのかさっぱりわからない。藤原竜也主演の「バトル・ロワイヤル」という映画があり、それを見て「シルバー・バトル」というものを思いついたのかもしれなかった。とにかくそんなアイディア、今なら思いついたとしても書こうなどとは思わなかったに違いない。「愛のひだりがわ」を書いて三年後、2005年のことだ。小生はまだ七十一歳、老年の心理や生理など知るべくもなかったのである。

 この『銀齢の果て』、僕も読んだのですが、その設定とドタバタっぷりに、筒井さんはいくつになっても筒井さんだなあ!と嬉しくなったものでした。
 しかし、若い頃は、60歳も80歳も100歳も、みんな「老人」だろう、たいして違いはない、と思っていたけれど、自分が年を重ねてみると、60歳と80歳は全然違っていて(それ以上に「個人差」が大きい、とも言えますが)、筒井さんの「まだ七十一歳」という言葉の重みを感じます。

 小生は曲がりなりにも作家だから、当然、作家としての老年の美学に触れておくべきであろうとは思う。しかし小生は、過去の履歴も、考え方も、何よりもその本質が、誰が見ても作家というよりはコメディアンに近い作家なのである。だからこそ星新一が極めて真面目に「筒井君は死をどう思うか」と聞いてきた時に「死なんて記号に過ぎません」などと嘯いて失笑させたり、「自分が死ぬなんて時は、気持ちが悪いからその場にはいない」などというギャグを飛ばしたりもしている。

ここはむしろ他の文豪たちの老年の生き方や死生観を参考にされた方がよろしい。そういう書物はいくらでもある。だから本書で書いたのは、作家としての老年の美学ではなく、あくまで一老人としての美学なのである。

 正直、筒井ファン以外には、薄いし小難しいし……という新書ではないか、とも思うのですが、ファンにはおすすめです。というか、ツツイストなら、薦められなくても読むよね……



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