記事

どのタイミングで老親とお金の話をするべきか

2/2

冷蔵庫からもわかることがある

話に乗ってこない場合は、「氷、ある?」「麦茶が飲みたいな」などと言って、冷蔵庫や冷凍庫を開け、買いだめしてある食材の量や種類などが以前と変化していないかどうかを確認してみましょう。ガランとしていたり、「○○円引き」というシールが貼ってある食材ばかり目立ったら、家計が苦しいのかもしれません。ただし、高齢になると食が細りますし、「好きで倹約している」という人もいるので、これだけで判断するのは尚早ですが、最近の経済状態や健康状態を知るヒントになることはたしかです。

また、家をバリアフリーにリフォームをしたいと考えているシニアは多いため、これを「話の入り口」にする方法もあります。「久しぶりに見たら、お風呂場の段差がけっこうあるね。歳をとると小さな段差でも転ぶことがあるそうだから、バリアフリーにリフォームした方がいいんじゃない?」といった感じです。

すると、「実はもう工務店に予約してあるんだ」とか「やりたいのは山々なんだが、けっこう金額がかかるらしいんだ」のような返事が返ってくるはずです。ここからもお金の話に発展できる可能性があります。

このように、さり気ない話題から親の気持ちをお金の問題に向けさせ、親の方から「今、これだけの蓄えがあるから、大丈夫だよ」とか「そろそろ資産を整理して、お前にも把握しておいてもらうべきかな」と口にしてもらえればベストでしょう。

ただし、たとえお金の話になったとしても、子どもの方から「資産」や「相続」という単語は使わないこと。これらの単語はシニアには生々しい印象を与えるため、急に口をつぐまれる可能性があります。話の「段取り」は作っても、それ以降は「受け身」に徹することが、親からお金の話を上手に聞き出す秘訣です。

お金の話を切り出すタイミングを間違えない

「患者さんからナースコールが入ったんです。私が駆けつけると、親族らしい人たちが『家の権利書はどこにあるの?』『株式はどこの証券会社に預けているの?』などと問いつめていたんです。患者さんはとてもつらそうで、ついカッとして『容態が急変したようですので、出て行ってください!』と言ってしまいました。みなが渋々出て行った後で、患者さんに『ありがとう。助かったよ』って言われましたけど、ちょっとやり過ぎたかもしれません」

保坂 隆『精神科医が教える 親のトリセツ』(中公新書ラクレ)

看護師から、こんな話を聞いたことがあります。看護師はどんな場面でも感情的にならないようにトレーニングを受けていますから「カッとした」というのはよほどのことだったと思います。でも、患者さんに感謝されたのですから、行儀の悪い親族を追い出したのは賢明な判断だったと思います。

これは極端な例でしょうが、お金や資産の話を切り出すならば、話し方だけではなくタイミングも重要です。何より、親が精神的にも身体的にも安定している状態のときに切り出すのがベストといえます。

体調がすぐれないときは、誰でも悲観的・反抗的になるものです。前出の看護師が目の当たりにしたように、入院してベッドに横たわっている状態でお金のことをあれこれ聞かれると、「私がもう長くないから、聞き出そうとしているのだろう」と落ち込ませるだけではなく、「なんて薄情な人間なんだ。親族とはいえ、こんなヤツらに絶対に教えたくない!」という反発心が芽生えたりします。

体調の悪いときは快復に専念してもらうのがいちばんですし、親族としても十分な配慮が必要です。

兄弟姉妹がそろったところで話す

また、日頃からコミュニケーションをしっかり取っていなかった親子の場合も、お金の話を切り出すタイミングが難しくなります。かれこれ十数年も顔を見せていなかったのに、久しぶりに帰って来た途端に「貯金はどれくらいあるの?」などと聞けば「親のことよりもお金の心配か!」と、不愉快になるのは当然です。

ですから、親の老いが気になってきたら、今まで以上にコミュニケーションを密にとることが大切です。といっても、毎週足を運ぶ必要はなく、普段は電話やメールでやりとりし、お盆やお正月に帰省するという一般的な対応で十分でしょう。

「一般的」と言いましたが、とくに息子の場合は、よほど親と仲がいい人以外は「話題がないから、電話をするのもしんどい。メールなんて絶対に無理」「せっかくの休日は家族で過ごしたいから、わざわざ実家に帰るのは……」などという理由で、コミュニケーションをとっていないことが多いようです。

でも、親としては、「たとえ話がなくても、電話で声を聞いたり、『元気?』とメールをくれるだけでもうれしい」もの。こんな何気ないやりとりでも、親への感謝や気遣いが通じるのが親子なのではないでしょうか。

そして、このような「下地」をしっかり作っておけば、お金の話を持ち出しても誤解されたり感情的な反発を受けずにすむようになります。

兄弟姉妹がいる場合は、もうひとつ注意が必要です。それは、親にお金や財産の話を聞くときは、必ず子ども全員が揃った場で聞くということ。誰かが単独で親とお金の話をしたことが他の兄弟姉妹に知れると、「アイツは父さん(母さん)にうまいことを言って、財産を独り占めしようとしているのではないか」などと勘ぐられる可能性があります。

そんなつもりはなくても、こうした親とのやりとりがきっかけで兄弟関係がぎくしゃくしてしまうと、親に介護が必要になった時などに協力し合えなかったり、まだ存命の親を前にして相続で揉めるなど、大きな禍根と恥を残すことになりかねません。

お金というのは決して不浄なものではありません。しかし、デリケートな問題であるのはたしかです。だからこそ、慎重な根回しが必要なのです。

----------
保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1977年、慶應義塾大学医学部卒業。東海大学医学部精神科学教授、聖路加国際病院リエゾンセンター長を経て、2017年から保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。聖路加国際病院診療教育アドバイザーも兼務。『空海に出会った精神科医』など著書多数。近著に『図解 50歳からの人生が楽しくなる生き方』がある。
----------

(精神科医 保坂 隆 写真=iStock.com)

あわせて読みたい

「資産運用」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    Uberで性暴行 約半数は客の犯行?

    島田範正

  2. 2

    森ゆうこ氏への請願黙殺する自民

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  3. 3

    志村どうぶつ園出演の家族に疑惑

    文春オンライン

  4. 4

    高圧的な立民 野党合流は困難か

    早川忠孝

  5. 5

    中村哲医師はなぜ銃撃されたのか

    NEWSポストセブン

  6. 6

    ジャパンライフと政治家の蜜月期

    文春オンライン

  7. 7

    中村医師巡る首相対応に「失格」

    天木直人

  8. 8

    自営業者にも厚生年金を適用せよ

    PRESIDENT Online

  9. 9

    安倍首相の虚偽答弁 新たに判明

    田中龍作

  10. 10

    「サイゼ料理をアレンジ」は面倒

    fujipon

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。