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ラグビーW杯、南アが三つ巴の戦いを制した理由 - 大元よしき (ライター)

前評判を覆して3度目のワールドカップを手にした南アフリカ・スプリングボクス。1週間前に王者・オールブラックスを圧倒して勢いに乗っていたイングランドだが、決勝では戦いぶりが一変した。名将エディー・ジョーンズが挙げた敗因とは。


イングランドにトライを取らせなかった南アの鉄壁のディフェンス(写真・松本かおり)

44日間にわたるラグビーワールドカップ2019が11月2日幕を閉じた。長かった夢から目が醒めたのか、長かった旅から帰ってきたのか、そんな感覚だ。アジアで初、ティア2の国としても初開催となったラグビーW杯日本大会は真のグローバルスポーツとして新たな一歩を記した。

最後に笑ったのはW杯2大会連続優勝の王者・ニュージーランドでも、特異な存在感を放ったラグビーの母国・イングランドでもなかった。

「南アフリカは様々なバックボーンを持った選手たちが集まっているが、一つの目標を達成するために力を合わせれば素晴らしいことが起きることを示すことができた」

そう語った黒人初のシヤ・コリシキャプテンを擁した南アフリカが「32-12」でイングランドを下し、12年ぶりに世界の頂点に立った。

勝負の世界とは不思議なものである。準決勝の「イングランドvsニュージーランド」では試合の序盤からニュージーランドの強みを消し去り、自分たちのラグビーを貫いたイングランドが、決勝ではまるで別のチームになったかのような印象を受けた。そのイングランドに良さを消されたニュージーランドは、開幕2日目で南アフリカを「23-13」を下し3連覇への期待を膨らませていたのである。その試合は点差以上に力の差があったように感じられた。

本大会を見る限り、南アフリカとイングランドとニュージーランドはまるでじゃんけんのグー、チョキ、パーのように組合せによって強さと弱さを表した。もちろんイングランドの準決勝と決勝の印象の違いはピーキングの問題だろうと考えられる。エディー・ジョーンズHCが2年半前から準備してきたと語ったのは準決勝のニュージーランド戦なのだ。もちろん決勝まで視野に入れていたのは明らかだが、相手が相手だけに先週がピークだったという解釈が容易に成り立つ。

試合後、エディー・ジョーンズHCは「今日はいいチームが勝った、ただそれだけ。フィジカル面でもしっかりと準備をしてきたと思います。なぜこういうパフォーマンスになったのか説明ができない。今までもこういう経験が何度かあるが、敗因をもっと調査してブリーフィングしてもわからないかもしれない。高いレベルではこういうことが起こる。4年間頑張ってここまできたのでとても残念だ」と振り返っている。この意味は深い。

一方、イングランドのオーウェン・ファレルキャプテンは「南アフリカに勢いがあり前半から負けているという感覚はあった。後半から勢いが出たが間に合わなかった」と振り返った。

南アの早い選手交代が奏功

さて試合である。開始から3分、南アフリカの先制ペナルティゴール(PG)に始まり、22分にイングランドがPGで3点を返し、その後、25分に南アフリカがさらに3点と小刻みにスコアボードに加点されていった。

大きく動きそうな予感がしたのは29分から33分まで続いたイングランドの攻撃である。南アフリカのゴール前に迫りまさに我慢比べの様相を呈した。フィジカルの強い両チームならではの肉弾戦は見応えがあったが、イングランドはゴールラインを割ることができずPGから3点を加点するに留まった。この一連の攻防から見えたものは南アフリカのディフェンスの堅牢さである。1対1のコンタクトで勝り組織としても綻びを見せなかったことだ。

また、南アフリカは3分、23分、40分にスクラムで圧力を掛けイングランドからペナルティを得ている。スコアボードの動きは小さかったが、この圧力が後半に大きくゲームが動く兆候だった。

南アフリカが「12-6」とリードして折り返し、後半が始まった。開始から4分。南アフリカがプロップ(スクラムの前列)を入れ替え、直後のスクラムを押し込みイングランドのペナルティを誘った。PGを決めて「15-6」でリードを広げる南アフリカ。だた、これは単なる3点には留まらない意味を持つ。なぜならばメンバーを入れ替えた直後のスクラムからのPGだからだ。

時間的には早めの交代かもしれないが試合の主導権を握り続けるためのアクションなのだ。一方のイングランドはボールを保持している時間は長いものの南アフリカのアクションに対してのリアクションに終始しているようにも見えた。

続く7分のスクラムでもペナルティを奪い後半の入りを制した形だ。交代で入ったプロップのスティーブン・キフホフは「スタメンのメンバーは相手にしっかりプレッシャー与えることができていた。後半からフィールド入りした我々の役目はその勢いを続けることだった」と語っている。

一方のエディー・ジョーンズHCも、「PGで3点を取り合うすごくタイトな試合だったが、こういう試合でスクラムでアドバンテージを取られたのが痛かった。いいスクラムが組めていたら試合の流れは変わったでしょう」と振り返っている。スクラムを制するもの勝敗を制す、とまでは言い切れないまでも攻撃の起点の崩れは精神的な崩れに繋がっていくものだ。

そして後半25分、南アフリカはショートサイドに4人が走り込み、パスとパントキックを駆使してトライを奪い、33分には小さな巨人、ウイングのチェスリン・コルビがイングランドディフェンス4人の間隙を突くトライをあげて「32-12」と突き放した。最後の最後にイングランドは崩れた形だ。こうして南アフリカは3大会ぶり3度目の優勝を果たし、最多記録を保持するニュージーランドと並んだ。


シャンパンファイトで喜びを爆発させる南アフリカ「スプリングボクス」(写真・筆者)

選手を等しく出場させた南ア

試合後の会見で優勝した南アフリカのラジー・エラスムスHCは、「このカップを取ると決めて自分たちを犠牲にしてきた。南アフリカのためにも持って帰らなければならなかった。ギブアップせずにやってきたことを誇りに思う」と語り、「スクラムがうまくいったのは今まで5試合でFW6人、BK2人の控えを作り、全員が同じような分数で試合に出た。プレーヤーの疲れの管理が重要だった。私たちの方が元気な選手が多かったのではないか」と勝因を挙げた。

また、シヤ・コリシキャプテンは「気持ちを正直説明できない。チームメイトの喜んでいる顔を見れたことがベスト。多くの南アフリカ国民が優勝するとは思っていなかったと思うのでとっても素晴らしい日になった」と試合後に語り、HCについての質問には「選手に対して素直に具体的に言ってくれる人です。選手たちがSNSなど個人のことに夢中になっているとラグビーの方が重要だと諭された。観客は給料からチケットを買って観に来てくれているのだからと指導を受けた。私たちの考え方を変えてくれました」と答えている。

この大会を通し攻守に要となったスクラムハーフのファフ・デクラークは、「コーチが決勝戦で勝つためのプランを立て、選手全員がプラン通りにできたということが勝利に繋がりました。南アフリカにとってポジティブなことが達成できて非常に良かったと思います。このポジティブな波をこれからも続けていきたいと思います」と勝因を語った。


悔しさを滲ませるイングランド・エディーHC(写真・筆者)

戦略家エディー・ジョーンズHCの「なぜこういうパフォーマンスになったのか説明ができない。今までもこういう経験が何度かあるが、敗因がわからない」という言葉が印象的だったが、「世界で一番素晴らしいチームが優勝し、我々は世界で2位のチームになった。世界には私たちのことを認めてほしい。タックルあり、情熱あり、良いプレーもあったが残念ながら負けてしまった。それでも過去1番のW杯だったと感じている。日本にとってもよいW杯だったと思う」という言葉も加えておきたい。

名将にも見えない勝負の深い世界。この競技の魅力を大勢の人たちが体感した今回のラグビーW杯。この夢の続きはどんな形となって人々を魅了してくれるのだろう。

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