- 2019年11月03日 11:15
マウンティング女子がマウンティングするワケ
自分のほうが相手よりも優位であることを示したい
「マウンティング」という言葉は、以前は聞かれなかったと思うけれども、最近は学生も、下手をすると小学生くらいでも、口にするのを耳にするようになった。
「自分のほうが上だ」というアピールは、公私を問わずよく見られる光景だ。(PIXTA=写真)
学歴や、地位、容姿などを理由として、自分のほうが相手よりも優位であることを示すような発言や、行動。SNSや、実世界を含めて、そのような言動が目につくようになったから、マウンティングという言葉が流行っているのだろう。
上下関係やヒエラルキーに敏感な男性だけでなく、女性の間でもその傾向はあるらしく、だからこそ「マウンティング女子」というような言葉が流行語になったりする。
マウンティングが流行る時代の状況として、人と人との関係が流動的になって、ネットワークが拡大しているということがある。
一昔前のように、人間のネットワークが固定的で、狭い世界の中での関係性しかないときには、改めてマウンティングしなくても当たり前に上下関係はわかった。敬語も自然に使われたし、誰が優先されるべきか、尊重されるべきかも合意があった。
誰が誰よりも「上」なのか「下」なのか
ところが、SNSでのつながりを含めて、多くの人が社会の中で動き回り、人をつなぐネットワークが時時刻刻と変化するようになると、誰が誰よりも「上」なのか「下」なのか、わからなくなってしまった。加えて、「エイジレス」の傾向から、年齢でどちらがどうという判断も、つきにくくなってしまった。
そのような状況の中では、本来、誰でも平等なはずなのだけれども、それでは不安なので、マウンティングすることで上下関係を決めて安心する。そんな心理的動機づけの背景があって、人々の行動が変化していくのである。
逆に言えば、マウンティングさえしなければ、今の社会は人間関係が驚くほど平等、フラットであるということになる。
本来、関係が対等であるほうがコミュニケーションはうまくいく。年齢や肩書に関係なく、それぞれの人が知っていること、興味を持っていることを熱く語り合うほうが、創造的だし、個性の組み合わせを通してチームワークもうまくいく。
マウンティングしてしまうと、人間関係が固定化されて、チームとしての機動力が失われる。情報も自由に流通しなくなり、生産性も下がる。
精神安定剤にはなるかもしれないが、発展が止まる
実際、現代において成功している人たちを観察していると、マウンティングとは無縁で、人間関係をフラットにとらえている方々が多い。年齢や肩書、組織と関係なく、その人が何を得意とするのか、どんな個性を持っているのかを受け止めて、柔軟に反応している人が結果として成功している。
とりわけ、新しいメディアや、IT関連のベンチャー、現場で輝いている人たちは、人間関係をフラットにとらえる傾向が強いように思う。たとえ客観的に見たら“すごい人”でも、それを微塵も感じさせず、誰に対しても同じように振る舞っている。
逆に、ちょっとした成功や権威、肩書でマウンティングして、周囲から尊重されることを期待する人たちは、結局あまり発展性がなくて、尻すぼみになることが多い。
現代の精神はフラットな人間関係である。マウンティングは精神安定剤にはなるかもしれないが、発展が止まる。できるだけマウンティングはしないほうがよい。
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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。近著に『いつもパフォーマンスが高い人の 脳を自在に操る習慣』(日本実業出版社)。
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(脳科学者 茂木 健一郎 写真=PIXTA)
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