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【読書感想】覚悟の競馬論

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覚悟の競馬論 (講談社現代新書)
作者: 国枝栄
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2019/10/16
メディア: 新書
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Kindle版もあります。


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内容(「BOOK」データベースより)
このままでは日本の競馬はダメになる―現役最強牝馬アーモンドアイをつくった調教師による“覚悟の提言”。C.ルメール騎手特別インタビュー収録。

 先日行われた、令和元年の秋の天皇賞で、4歳牝馬のアーモンドアイが2着に3馬身差をつけて圧勝しました。
 強いとは思っていたけれど、G1馬が10頭も揃ったこのレースで、ここまで力の違いを見せつけられて、僕もゴール前、「強い!」と声が出てしまったのです。
 そのアーモンドアイが所属しているのが、国枝厩舎なのです。

 国枝栄調教師が日本を代表する調教師のひとりで、とくに牝馬では、アパパネ、そしてアーモンドアイという2頭の三冠牝馬を出した実績を持っていることは知っていたのですが、この名調教師が、1990年に厩舎を開業してから、初めて重賞を勝つまでに8年もかかった、というのはこの本を読んではじめて知りました。

 国枝先生(競馬関係者は、調教師のことを「先生」と呼ぶことが多いのです)は、自分の性格について、馬主さんにお願いして強い馬を買ってもらうとか、馬の産地を歩きまわって、良い馬を探し、馬主さんに紹介する、というような「調教師の営業」に積極的ではなく、「勝つこと、稼ぐことへの貪欲さ」に乏しかった、と仰っています。
 もちろん、今は自分から「営業」しなくても、才能がある馬を預かってほしい、という馬主さんが大勢いるのでしょうけど。

 国枝先生は、大きなレースに勝てるようになったきっかけについて、こんな話をされています。

 そんな私に突然、転機が訪れる。
 1995年、”調教師の営業”として、アメリカ・ケンタッキー州のキーンランドを訪れていた私は、同地のセリでブラックホークを購入した吉田勝己さんと、宿泊先のヒルトンホテルのトイレで偶然居合せた。そこで私が「調教師は決まっていますか」と尋ねると、決まっていないとのことだったので、「じゃあ、やらせてください」と頼んでみたところ、オッケーが出た。

 しかもその後、吉田さんから「実はある人と半分ずつ、共有になっている」と教えられ、はじめて金子真人さんの存在を知ることに、この時の縁がきっかけで、私の調教師としての道は拓けていくのだ。

 1998年、ブラックホークはダービー卿チャレンジトロフィー(岡部幸雄騎手)で初重賞制覇をもたらすと、翌99年にはスプリンターズステークス(横山典弘騎手)を制し、思いもかけずG1初勝利までプレゼントしてくれた。同馬は2001年の安田記念にも優勝している。

 そうそう、2001年の安田記念でブラックホークが人気薄で優勝したときは、「なんで?マイルは距離が長いんじゃないの?」と馬券を外してしょんぼりした記憶があります。
 
 外国に行って買った馬を、トイレでの世間話の流れで、国枝先生に預けることを決めた吉田勝己さんも太っ腹ですよね。何か「縁」みたいなものを感じたのか、それとも、8年間重賞を勝てていなかったとしても、国枝先生に何か光るものがある、と応援してみる気になったのか。

 ちなみに、国枝先生は、自らの管理馬の騎手選びについて、なるべく乗り替わりを避けるようにしているそうです。

 騎手のタイプとしては、私は無謀な乗り方をあまり好まない。
 強引な結果でハナ(先頭)を主張したりする、明らかに”一発勝負”的な乗り方には疑問を抱いている。そういうことをしていると、極端な馬になってしまう懸念があるからだ。特に新馬戦や、まだ若馬の場合は、レースを怖がり、嫌いになってしまうのが調教師としては最も困る。

 この本には、アーモンドアイの主な騎手であるクリストフ・ルメール騎手のインタビューも収録されています。
 そのなかで、ルメール騎手は、国枝先生について、こう語っています。

 競馬のことで僕ら二人は難しいことは話さない。国枝調教師も「じゃ、よろしく」ってニコニコしている。競馬が終わって、もし負けても何も言わない。馬の状態とか敗因について聞かれることはあるけれど、それは彼の仕事だから。でも負けたことについて文句を言われたことはない。

 そのかわり、国枝調教師は強引な走りを嫌っている。特に新馬戦は、競争馬のレースキャリアの始まりなので、すごく大切になる。もしバッドレースだったら馬がレースを嫌いになってしまって、次のレースであまり走りたがらなかったり、エキサイトし過ぎたりしてしまうことがあるからだ。

 だから、負けても国枝調教師は「オーケー、ノープロブレム。いい練習でした。次のレースはもっと活躍するかもしれない。問題ないです。次のレース勝ちましょう」と言ってくれる。

 ヨーロッパには”ホースファースト”の調教師が多いけれど、彼も同じタイプで、ヨーロピアン・トレーナーによく似ている。調教でも馬をあまりプッシュしない。本番のレースで馬のポテンシャルをいかに引き出すかを意識している。そこは藤沢和雄調教師とも共通している。

 あくまでも噂や伝聞レベルでの話なのですが、調教師のなかには、負けると騎手を怒鳴りつけたり、怒りをあらわにする人もいるそうです。 
 何千万、場合によっては1億円をこえるお金がかかっている勝負の世界ですから、そのくらい荒っぽいというか、感情をむき出しにする人がいても、全然おかしくないですよね。

 今年(2019年の安田記念、アーモンドアイは断然人気を背負いながら、スタート直後に他の馬に前をカットされる致命的な不利を受け、最後に猛然と追い込んできたものの、届かず、3着に敗れました。
 今回の秋の天皇賞の圧勝劇をみて、あらためて、「これほど強い馬でも、安田記念のような展開になれば、負けることもあるのだ」と思ったのです。

 競馬に絶対はない。
 だからこそ、ひとつひとつのレースを大事にするのと同時に、その競争馬のキャリア全体のことを考えなければならないのです。

 国枝先生は、この本のなかで、厩舎の成績の「東西格差」や以前と全体のレース数は変わらないのに、中央競馬の登録馬数が増えていることによる「除外の多さ」について問題提起をしています。
 関西の厩舎が有利な理由や、明らかに力が足りない馬でも抽選で出走できることにより、実力がある馬が機会損失をしていることに対して、「質の高いレースをファンに見てもらうためには、競馬界の人たちが激しい競争にさらされることになっても、改革をすすめていかなければ未来はない」と仰っています。

 僕としては、ひとりの競馬ファンとして、そうはいっても、最近の重賞競走、とくに3歳戦では、あまりにも頭数が少ないレースが多いし、G1級の馬たちが、馬主の意向や騎手の都合で「使い分け」されているのはつまらない、とも思っているのです。

 今年の秋の天皇賞も、レイデオロが出走していれば、さらに盛り上がったのではなかろうか(ただ、アーモンドアイの走りを見た後だと、「対戦を避けたくなる気持ち」もわかったけれど)。

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