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なぜ日本は世界から指弾される象牙取引をやめられないのか

 今回はアフリカゾウの絶滅危機と日本のはんこのつながりについて。

 アフリカで象の密猟が続き、一部の地域ではアフリカゾウの個体数が激減し、絶滅が危惧される事態となっていることは、日本でもそれなりに知られているかもしれない。しかし、日本がその主たる原因となっていることを、どのくらいの日本人が知っているだろう。しかも、その主たる用途が、なんと日本の「はんこ」にあることを。

 今年8月にジュネーブでワシントン条約締約国会議(COP18)が開かれ、象牙取引を禁止していない国に対して、より厳しい説明責任を課す決議案が可決されたが、実はこの決議案は事実上、日本を念頭に置いたものだった。

 1970年代からアフリカでは象牙を目的とする象の密猟が横行し始め、1980年代に入るとアフリカゾウの個体数が激減し、いよいよ絶滅が危惧される事態となったため、1989年にワシントン条約で象牙の国際的取引が全面的に禁止された。

 1989年の象牙の国際間取引の禁止以降、世界の象牙需要を支えたのが、日本のはんこ市場だった。日本では象牙のはんこが根強い人気を持つ。象牙は一部で伝統工芸品や装飾品としても使われるほか、三味線のばちなどにも利用されるが、はんこが需要の大半を占める。

 日本に大きな象牙の需要があるため、1989年の全面禁止後も、アフリカでの象の密猟は止まらず、毎年2万~3万頭が乱獲され続け、アフリカゾウの危機的な状況は続いた。そのため2016年のワシントン条約締約国会議では、密猟の原因となっている需要国側が取引を禁止にすべきとの勧告決議が採択されるに至った。

 これを受けて、アメリカや中国、台湾、シンガポール、フランス、イギリスなどが相次いで国内市場の閉鎖や国内取引の禁止を発表している。

 実は2000年代に入り、中国でも象牙の装飾品が人気を博すようになり、一時は日本を抜いて中国が世界最大の象牙市場となっていた。そのおかげで、日本に対する風当たりも一時的に弱まっていたが、2018年に中国が国内の製造と取引を全面的に停止したことで、再び日本が世界最大の象牙市場となり、日本に対する批判が強まっている。

 しかし、いくら日本にはんこの文化があるとは言え、はんこは象牙以外でも代替が利くものだ。しかも、それほど日常的に買い換えるものでもないし、はんこ産業がそれほど強い政治力を持つとも思えない。

 その一方で、日本では今でも普通に象牙のはんこや装飾品がお店やオンラインで購入できる。楽天やアマゾン、メルカリなどに続いて、今月からヤフーがオンラインでの象牙取引の禁止措置を取ったため、ヤフオクなどで象牙製品を売買することはできなくなったが、それでも事業者が自分のサイトで象牙のはんこや象牙製品を売ることには何の規制もない。もちろん、店頭販売や通販も自由にできる。そのため、日本が世界の象牙市場の維持を可能にしていて、結果的にアフリカの密猟を引き起こしているとの批判を招くことは必至な状態にある。

 どうしても象牙のはんこを買いたい人がどのくらいいるのかは知らないが、そのために日本がアフリカゾウの絶滅を意に介さない冷酷な国の烙印を押されるのは、どうも釣り合いが取れないような気がする。世界各国が象牙の取引を禁止しているのに、なぜ日本だけが依然として象牙取引を続けようとしているのだろうか。

 政府は現在日本で流通している象牙は密猟による違法象牙ではなく、ワシントン条約で禁止される前に合法的に入ってきた象牙の在庫だとして、日本が密猟に手を貸しているという事実は一切ないとの立場をとり続けている。つまり、現在国内で流通している象牙は合法的なものなので、象牙の国内取引を禁止する必要はないとの立場だ。しかし、日本で流通している象牙が合法的なものかどうかをチェックする体制は明らかにザル同然で、誰が見てもそれが合法的な象牙であるとの裏付けにはなっていないのが実情だ。

 長年この問題に取り組んできた認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金の事務局長で弁護士の坂元雅行氏は、象牙に関しては日本政府は最初に誤った政策判断をしてしまい、その後その判断を修正できないために、誤った政策がそのまま続いていると説明する。またしても、一度走り出したら止まらない官僚の暴走列車説だが、逆の見方をすると、その暴走列車を止めようとする政治的意思がこれまで全く働かなかったということになる。

 しかし、今回はそれを止めることが政治的・経済的にもそれほど難しいとは思えない一方で、それを続けることによって、日本がアフリカゾウ絶滅の責任を問われかねないという深刻な対価が付いてくる恐れがある。

 政府は一体誰を守るために、国際的な批判をものともせずに、象牙取引を続けているのだろうか。本気でこの問題を放置したまま東京五輪に突入する気なのだろうか。象牙取引をめぐる世界の動きと、それから完全に隔離されたかのように我が道を行く日本の現状とその背景について、坂元氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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