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「二人が名もない花だったら……」貴乃花がいま明かす「宮沢りえとの破局」と「若乃花との対決」 - 貴乃花光司 石垣篤志

 昨年、衝撃的な形で相撲界を去った貴乃花。「週刊文春」誌上で反響を呼んだ連載を一冊にまとめた本書「貴乃花 我が相撲道」では、「宮沢りえとの婚約と破局」「若乃花との兄弟対決」などについて、これまで明かすことのなかった心境を語り尽くしている。一部を転載する。

◆◆◆

「自分の愛情がなくなりました」

【第4章 宮沢りえとの婚約と破局 「破局の真相」より】

 しかし、二人を待ち受けていたのは、思いも寄らない離愁だった。

1992年暮れ頃から、貴乃花と宮沢の破局情報が燻り始める。それが現実のものとなったのは、婚約会見から61日後。1993年初場所を終えた直後の1月27日、両者の話し合いをもって、婚約解消が決定したのだ。

 同日、午後6時から単独記者会見を行った宮沢は、「強い横綱になってください」と最後の言葉を交わし、貴乃花に婚約指輪を返却したと明かした。

 一方の貴乃花も、同日午後11時、藤島部屋で報道陣に囲まれていた。

「自分の愛情がなくなりました」

 貴乃花の率直過ぎる発言を受け、集結していた記者の中から「横綱を狙う者の品格としていかがなものか」と容赦のない問いかけも飛ぶ。貴乃花は「無責任ですね。これから身につけたいと思います」と話すのみ。首尾一貫、破局に至った原因を「自分の力のなさ」と強調した。


貴乃花と宮沢りえの婚約会見 ©AFLO

 盛大な祝砲から一転、スピード破談の事実は、世紀の婚約と同等以上の衝撃をもって世を駆け巡った。一国の宰相である宮澤喜一首相までが記者団からコメントを求められ、「そうですか。残念ですな」と、感想を述べている。貴乃花が全てを飲み込み、自分が悪者になることを覚悟の上で発したであろう「愛情がなくなった」の言葉も、方々で物議を醸した。今までになかったバッシング報道が追い討ちをかける。

「あの時はそう(発言)するしかありませんでした。お互いが自分の進むべき道にレールを戻すためには。テレビや新聞、雑誌は一切見ませんでしたし、周囲の騒ぎをよそに、自分の本分を取り戻さなければ、と思っていました」

 貴乃花は2005年、師匠であり父の満氏が逝去した際、「週刊文春」に寄せた独占告白の中で次のように証言していた。

〈マスコミは折に触れて私とりえさんのことを掘り返しますが、私はともかく、彼女に対してあまりにも失礼だと思います。お互い、幼き時代に踏ん切りをつけて別れ、いまはそれぞれの人生を歩んでいるわけですから。彼女は女優という立派な道を歩んでいます。あの件はお互いの胸にしまってあるもの。他人に触れられたくありません〉(2005年6月16日号)

「二人が名もない花だったら……」

 破局に至る背景には、様々な要因が折り重なっていたことだろう。ひとつ言えるとすれば、純粋に惹かれ合った若い二人は、結婚というステップを前に、初めてそれぞれが背負っている宿命の大きさを突きつけられたのだ。

 宮沢にとって封建的な力士の世界に嫁ぐことは、ただちに将来のおかみ修業を意味した。ゆえに芸能界引退は規定路線だった。ましてや、相手の貴花田は相撲界の未来を担う宝だ。宮沢もその覚悟を決めているはずだった。しかし、その頃の宮沢は、仕事が途切れることのない人気真っ盛りの時期。宮沢の活動方針を巡る両家の認識の差が、ボタンの掛け違いを生じさせ、やがて親同士の間に溝を作っていく。

 貴乃花にとって両親とは、親以上に絶対的な存在の師匠とおかみ。一方の宮沢にしても、女手一つで育ててくれた「りえママ」こと母親の光子さん(故人)は、個人事務所代表でもある。宮沢をスターダムに押し上げたのは、“一卵性母子”とさえ呼ばれた、この母娘の強固な絆あってこそだった。当事者と両家の話し合いが煮詰まっていないまま婚約がスクープされ、世の祝福ムードがエスカレートしていく裏で、若い二人の恋は、大人の事情に翻弄されながら磨耗していったのだ。その果て、残されたのは無情な選択肢だけだった。

 宮沢が再婚して幸せに暮らしている事実を知り、長年連れ添った景子元夫人とも離婚してそれぞれの人生を歩み始めた今─。貴乃花は言葉を選びながら、宮沢との過去をこう吐露する。

「お互い、子供ながらに、大人の世界の会話をしなければならなかったのは、一つの苦しみを覚える経験でした。それぞれ進むべき道が違い過ぎたわけですが、背負っているものはとても似ていました。ともに一家の柱になるべくして生まれてきて、10代からひたすらにその道を歩んできた。お互いがその喜びも孤独も理解できますし、似たような境遇に共鳴、共感したところがありました。でも、もし(宮沢が芸能界を引退して)職を捨てることになれば、その生き方ができなくなるわけです。ともに親から生まれてきた身です。二人が名もない花だったら、それぞれの本意を大切にして、花を咲かせることができたのかもしれませんけどね……」

 長い年月を経たからこそ口にできる、精一杯の告白だった。

兄との対決に抱いた複雑な思い

【第7章 若乃花との兄弟対決「運命の兄弟対決」より】

 そして、この1995年を締め括る11月場所。貴乃花と優勝を争ったのが、兄の大関・若乃花である。西横綱の曙は9日目に左太ももを痛め、翌日から休場。迎えた千秋楽、賜杯の行方は12勝2敗で並ぶ若貴兄弟のどちらかに絞られていた。貴乃花の4連覇か、若乃花の16場所ぶり2度目の優勝か─。

 結び前の一番で、若乃花が関脇・武双山に寄り切られると、会場の福岡国際センター内にはあからさまに落胆の溜め息が漏れ響いた。夢の兄弟対決はなくなったかと思いきや、結びの一番で貴乃花が大関・武蔵丸に引き落としで敗れると、今度は大興奮の歓呼がこだまする。二人がともに本割を落とした結果、角界史上初の、兄弟による優勝決定戦が実現したのである。

 相撲ファンは大喜びしたものの、その時の胸中を貴乃花は、こう打ち明ける。

「同じ部屋ですから、通常なら兄と本場所で対戦することはありません。でも、他の部屋の力士と違い、毎日、部屋の稽古場で切磋琢磨してきた関係です。そうした日々や、敵わないと思っていた小さい頃の記憶が脳裏を過りました」

 同部屋かつ兄弟が雌雄を決する運命の一番。立ち合いから若乃花が低い姿勢で頭をつけ、土俵際まで貴乃花を押し込む。貴乃花が体勢を立て直すも、若乃花は左上手を取り、再び寄って仕掛けた。貴乃花は膝から崩れ落ちるようにして土俵に屈する。決まり手は下手投げ。瞬間最高視聴率が58.2%に達した兄弟対決は、兄の若乃花に軍配が上がったのだった。

 決定戦を終えて、二度目の優勝を手にした若乃花は、「複雑。(気持ちは)言葉では言い表せない」と語り、貴乃花も「普通にやろうと思った。でも、やりにくかった。もう(やらなくて)いいです」と、率直な言葉を残している。「(優勝がどちらかに絞られて)前夜は眠れなかった」と明かした父の二子山親方は、「最後の最後で若乃花が勝ったが、どっちでもよかった。二人に『よくがんばった』と言いたい」と労うのが精一杯だった。

「弟が兄に花を持たせたのではないか」という憶測

 歴史に残るこの大一番を、弟が兄に花を持たせたのではないかとする憶測は、今なお静かに燻っている。だが、当の貴乃花は「あり得ません」と改めてそれを一蹴し、こう続ける。

「やりにくさを感じた自分の未熟さが、そのまま結果に出たということです。兄の勝敗がどうあれ、本割に勝って優勝を決められなかったことも含めて、まだまだ精神をコントロールできていないと思い知らされました」

 本書を通じて、貴乃花は「土俵では無心でなければ勝てない」と繰り返してきた。雑念は相撲に狂いを生じさせる。裏を返せば、実力者同士の勝負とは、それほど繊細かつ紙一重なもの。兄との対決は、貴乃花にそれを再認識させた。

貴乃花光司(たかのはな こうじ)
1972年8月12日東京都生まれ。88年藤島部屋に入門。92年幕内優勝を果たす。その後、兄の若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年に第65代横綱に昇進。2003年に現役引退。幕内優勝22回、殊勲賞4回、敢闘賞2回、技能賞3回など数々の記録を残す。04年に「貴乃花部屋」の親方に。10年に日本相撲協会理事に就任。18年に同協会を退職。
石垣篤志(いしがき あつし)
1974年石川県生まれ。大学卒業後、テレビ番組制作会社、フリーライター、「週刊実話」記者を経て、2001年から「週刊文春」記者。

(貴乃花 光司,石垣 篤志)

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