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なぜ孫正義はWeWorkの投資失敗を認めないのか

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狂気の投資を支えてきた孫氏の「眼力」

孫正義氏率いるソフトバンクグループ(SBG)の先行きに不透明感が強まっている。海外では米シェアオフィス「WeWork(ウィーワーク)」を運営するウィーカンパニーに約1兆円の追加支援を余儀なくされ、国内では子会社のヤフーがショッピング・サイト「LOHACO(ロハコ)」を運営するアスクルの社長と社外取締役を解任、ほぼ同時に前澤友作氏の持ち株を買い取ってファッション・サイトのZOZO(ゾゾ)を傘下に収めた。

写真=時事通信フォト
2019年4~6月期決算を発表するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2019年8月7日、東京都千代田区


ここ半年の出来事は一言で説明できる。「成長神話の限界」だ。

SBGの成長神話の源泉は、何と言っても孫正義氏の「眼力」である。1994年にソフトバンクの株式上場でキャピタル・ゲインを得た孫氏は、その金で米国のコンピューター展示会会社、コムデックスとコンピューター雑誌を得意とする出版社のジフデービスを買収する。2社の買収総額は3100億円で当時のソフトバンクの株式時価総額2700億円を超えていた。

金額的に狂気の投資であり、そもそもなぜ展示会会社と出版社なのか。インタビューで尋ねると、孫氏は不敵に笑ってこう言った。

「コムデックスとジフデービスはアメリカにおける僕の目であり耳なんですよ」

私がこの言葉の意味を理解したのは10年近く後だった。

社員5、6人の会社にポンっと100億円を出資

孫氏はスタンフォード大学の学生だったジェリー・ヤン氏とデビッド・ファイロ氏が設立した米Yahoo!が上場した1996年、社員5、6人のこの会社にポンっと100億円を出資している。ヤン氏は「今資金は潤沢だから金はいらない」と孫氏の出資を断ったが「あって困るものではない」と金を置いて帰ったという。

2000年には中国の名も無い英語教師が立ち上げた会社に20億円を出資した。その会社「アリババ」は中国のインターネット・ショッピング市場を席巻し、SBGは8兆円の含み益を手に入れた。

孫氏は業界通の間に情報網を持つコムデックスとジフデービスを通じて「掘り出し物」のベンチャーを見つけていた。それらの会社が大化けすることで、SBGは10兆円を超える含み益を手に入れ、その信用力で米携帯大手のスプリントや英半導体のARMを買収した。

投資家の脳裏には今もこの神話が焼き付いている。この1年半のSBGの株価を見れば、投資家の迷いがよく分かる。

SBGが2018年3月期決算を発表した同年5月から9月にかけて、同社の株価は3800円から5700円に上昇した。だがその後、同社が計上した巨額利益の多くが、国際会計基準に基づく未公開企業の評価益であることが嫌気され、再び3500円まで下降する。

UberやWeWorkが「大化け」することはなさそう

ところが投資先の配車アプリ大手、ウーバー・テクノロジーズがニューヨーク証券取引所の上場が目前に迫り、ウィーワークの上場日程も決まった2018年12月から19年4月にかけて再び6000円まで上昇する。ウーバーやウィーが第2、第3のYahoo!、アリババになる可能性が出てきたからだ。

しかし公開価格が45ドルだったウーバー株は20ドル台まで下落、ウィーは自分が所有する不動産をウィーにリースしていた自己取引などの疑惑で創業者のアダム・ニューマン氏が辞任。2019年9月としていた新規株式公開(IPO)も延期となり、その後IPOの目論見書に誤りや抜けがあったことも明らかになった。ウーバーとウィーの変調でSBG株は10月末時点で4000円近辺まで落ち込んでいる。

分かってきたのは、ウーバーやウィーが「Yahoo!やアリババのように大化けすることはなさそうだ」ということだ。

ウーバーの創業者、トラヴィス・カラニック氏は2017年、社内でのパワハラ、セクハラや会社がグーグルの自動運転技術を盗用していた問題など、さまざまなトラブルを起こして辞任した。ウィーのニューマン氏は自己取引のほか、自社株の売却や自社株を担保にした借入で7億ドルを調達し、その金でプライベート・ジェットを乗り回していたことなどが投資家の不興を買った。

両者とも器の小ささを感じさせ、ジェリー・ヤン氏やアリババ創業者のジャック・マー氏とは比べるべくもない。会社や経営者の可能性を見抜くことでは定評のあった孫氏の千里眼に衰えが見える。

損切りはできない、ならば立て直すしかない

これらの投資は「失敗」と言わざるを得ないが、SBGは見捨てない。10月、SBGはウィー株の追加取得や融資などで最大95億ドル(約1兆円)の支援を実施すると発表した。これにより発行済み株式の過半は取得するが、議決権ベースでは過半数はあえて握らず、連結子会社にはしない。

ウィーは、直近の2019年1月の資金調達ラウンドで470億ドルだった自社の評価額を、IPOにあたって100億ドルまで切り下げた。通常のベンチャー・キャピタルならこの手の失敗案件はサンクコストと割り切って株を売却する局面だ。しかしすでにウィーに72億ドル(7720億円)を出資してしまっているSBGがウィーを損切りすれば、巨額損失の計上を迫られる。

損切りはできないなら、立て直すしかない。ならば出資に見合った議決権を握って経営に介入すべきだが、ウィーは今の所、赤字会社であり、子会社化して連結対象になれば、その赤字がSBGの決算に反映される。それも困るから、今回のような「出資額は巨額なのに経営権は握らない」という中途半端な支援になったのではないだろうか。

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