- 2019年11月04日 16:51
中国共産党が時代錯誤の軍事パレードにこだわる理由 - 加茂具樹(慶應義塾大学総合政策学部教授)
10月1日に北京で開催された中国の建国70年を記念する式典では、史上最大規模と言われる軍事パレードが行われた。そこに見えたのは、グローバルガバナンスの発展と改善に貢献する意欲を示す大国が、力による統治を信奉する姿であった。

今日の中国政治と外交のキーワードは「強国」である。公式文書によれば、共産党は「中国が今世紀半ばに富強、民主、文明、調和のとれた、美しい社会主義現代化強国」となることを目指し、国家建設に取り組んでいる。
中国の目指す「強国」とは何か
この「強国」とは何か。北京の政策決定サークルに近いと目される学者に質問すると「国際社会に侮られない国家」だという。言い方を変えれば「尊厳のある国家」である。
中国の公式の歴史観によれば、1840年のアヘン戦争以来「東アジアの病人」と侮られていた中国は、共産党が指導する革命を経て1949年に中華人民共和国を建国し、立ち上がり、豊かになり、強くなる道を歩んで、尊厳を回復してきた。
建国70年の祝賀大会とレセプションの場で習近平国家主席は、70年の歴史を次のように語っていた。
「70年は人類の歴史の長い川の流れの中では指をはじくほどの瞬く間にすぎないが、中国人民と中華民族にとっては、大きく移り変わり、社会が変わった70年だった。中華民族は立ち上がり、豊かになることで強くなる偉大な飛躍を迎え、偉大な復興を実現する輝かしい前途を迎えている。これについて中華の子女は誰もがこのうえなく誇りを感じている」
加えて習近平は、「この70年、全国の各民族人民は一致協力、刻苦奮闘によって、世界が目を見張る偉大な成果を収めた。今日、社会主義中国は世界の東方にそびえており、われわれの偉大な祖国の地位を揺るがすことのできるいかなる勢力もなく、中国人民と中華民族の前進の歩みを妨げることのできるいかなる勢力もない」と自負してみせた。
中国のメディアは、「国際社会に侮られない国家」にむかう道、「尊厳のある国家」を取り戻す道を先導する指導者という姿で習近平を描いている。
国家とは、力(軍事力)と利益(経済力)と価値(文化力)の体系によって形づくられているといわれる。国家間の関係、すなわち国際政治とは力と利益、そして価値の体系が複雑に絡み合いながら形づくられている。中国はいずれの体系においても近年、存在感を強め、「強国」としての姿をより一層鮮明に示している。
力の体系に注目すれば、中国は海洋への軍事的な影響力の拡大を進め、渤海や黄海、東シナ海そして南シナ海といった近海だけでなく、西太平洋からインド洋へと広く展開するようになっている。もはや中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)を構築する空間は、第一列島線、第二列島線を越えて、南太平洋へと広がっている。
利益の体系に注目すれば、中国は世界第二位の経済大国となり、国際的なプレゼンスが飛躍的に高まっている。例えば、中国の政府系金融機関による融資残高は世界銀行グループのそれを上回る。中国は、かつて「世界の工場」と言われてきたが、すでに「世界の投資者」としての存在を確かなものにしている。
力と利益の体系において存在感を強めた結果、共産党による一党支配体制は発展途上国が追求すべき統治のモデルとして関心を集めるようになった。これは価値の体系における存在感の強まりといってよい。世界の6割を超える国家は権威主義的な政治体制であり、そうした体制の下で生活している人々も世界の人口の6割を超えている。権威主義国家の政治指導者や社会の中国の統治モデルに対するまなざしは、日本をはじめとする自由で民主的な社会からのそれとは異なる。
35年前から変わらぬ重要な演出「閲兵」
今回の建国記念日の大規模な軍事パレードは、前述の三つの体系のうち、共産党指導部が「強国」の「力」を内外に披露するための重要な機会であった。
パレードの中で中国は、米国本土を射程に入れる最新鋭の多弾頭型大陸間弾道ミサイルを初めて公開するなど新型兵器を並べ、その軍事力を内外に示した。またパレードは、似たような体形の勇壮で華麗な装いの男女の軍人が、この式典のために編曲された「鋼鉄の潮」と題する行進曲を人民解放軍の軍楽隊が演奏するのにあわせて、堂々と整然と行進した。
この軍事パレードにおいて最も重要な演出の一つが、習近平による閲兵である。中山服を着込んだ習近平は、天安門の楼上で建国70年を祝う演説を終えた後、黒塗りの車に乗り込んで閲兵した。車上から、共産党中央軍事委員会主席であり国家中央軍事委員会主席である習近平は、「同志諸君、ご苦労」と整列する兵士に声をかけ、兵士たちは「主席こんにちは」、「人民のために服務を!」と声を発していた。
こうした演出は、1984年の中国建国35周年以来の暦年の軍事パレードでのそれを踏襲したものであった。グローバルガバナンスの改善と発展に貢献することを公言するのであれば、こうした手段をつうじて「強国」を誇示することはふさわしくない。いかにも古めかしく、35年前から時間が止まったような発想だ。
この軍事パレードには、共産党指導部の統治観が反映されている。共産党指導部はやはり力を信奉しているのである。習近平も前述の祝賀大会で、「団結は鉄、団結は鋼であり、団結こそ力である。団結は中国人民と中華民族が前進途上のあらゆるリスク、挑戦に打ち勝ち、勝利から新たな勝利へと絶えず進むための重要な保証である」と語った。
現在の共産党指導部の国内外の情勢認識は厳しい。習近平は今年1月に中央と地方の主要指導者を召集した大規模の会議において「リスクに備える必要性」を訴えた(詳細は本連載8月号)。そして9月には中青年幹部の研修会において、社会の発展過程で避けることのできないリスクとチャレンジに向き合うためには、「闘争精神」の発揚が必要だとも語っていた。こうした発言は、リスクに直面した共産党指導部が表した危機意識を示したものであると同時に、「強国」となった自国に対する自信の表れと理解すべきだろう。
共産党指導部は、香港において激化している政府に対する抗議活動の要因を、どうやら見誤っている。香港社会の要求は自由と民主を追求しているが、共産党指導部は深刻な経済格差に対する不満や外国勢力によるが原因と理解しているようだ。こうした誤認こそ、この過剰な「自信」によって生まれたものといってよい。
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