記事

アルバイトがアルバイトを管理する、アマゾン流通センターの陰鬱なヒエラルキー 『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)より - 横田 増生

1/3

〈いつのころからか、家の中が《Amazon.co.jp》のロゴが入った箱であふれるようになった。書籍や雑誌を買うのはもちろん、バックパックやワイン、洗剤や乾電池まで、アマゾンで買うようになった〉

 ジャーナリスト・横田増生氏の新著『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)は、このような書き出しから始まる。かつて「ネット書店」だったアマゾンも、今ではムービーや音楽などのコンテンツ、AIアシスタント「アレクサ」、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などに事業の幅を広げ、以前とは比べものにならない規模にまで成長した。

 アマゾンは生活習慣の一部となりつつある。

 2005年に出版された『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(文藝春秋)を執筆した横田氏は、JR京葉線沿いの市川塩浜にあったアマゾンの物流センターに潜入している。そして、『潜入ルポ アマゾン帝国』では、アマゾンのなかでも国内最大規模といわれる小田原物流センターで働いた。ここでは、同書の第1章「15年ぶり2度目の巨大倉庫潜入」から一部を抜粋する。

◆ ◆ ◆

アルバイトがアルバイトを管理する

 送迎バスに乗って、初日の午前8時半すぎに物流センターに到着すると、2階の休憩室でエヌエス・ジャパンの女性担当者が、私の顔を見つけて声をかけてくる。

「おはようございます。今日からよろしくお願いします」

 彼女の態度に威圧感はない。言葉も丁寧である。こちらも同じようにあいさつを返す。

 私がカットソーの上にセーターを着ているのに気づくと、彼女は「それじゃ作業をはじめるとすぐに暑くなりますよ」とアドバイスしてくれた。純粋な親切心から出た言葉であることは、その表情からわかった。

 しかし、以前に潜入したときは冷暖房完備という触れ込みであったにもかかわらず、冬はまったく暖房が効かず、下着を重ね着しても、凍えながら作業をした記憶が鮮明に残っていたので、彼女の言葉を無視してセーターを着たまま作業現場に入った。

 しかし、結果は、ピッキング作業を30分もしていると、セーターを脱ぎ、カットソーの袖をまくらなければならないほど暑くなった。長期で働いているアルバイトによると、「冬に汗ばむのはどうにかなるのだが、夏になると救急車で搬送される人が出るほど暑くなる」という。

 そういえば、米ペンシルベニア州の地方紙が、地元にあるアマゾンの物流センター内の気温が、夏には華氏100度(摂氏38度)を超え、一夏の間に15人以上が熱中症で倒れて、救急車がセンター付近に待機しているという記事を書いていたことを思い出した。以前は寒さとの戦いであったが、今は暑さとの戦いに変わってきているのだろうか。

 作業現場に行くと、青のビブス(ゼッケン)に《リーダー》と書かれた40代のおかっぱ頭でメガネをかけた女性が、作業初日のアルバイト約10人を集めてこう言い放った。

「PTGで85%以上は必達の目標値です。皆さんは作業開始の10日後にはこの数値が75%に達するよう努力して下さい。目標値を超えられない場合、われわれリーダーと、どうすれば生産性が向上するのかという話し合いを持たせていただきます」

 この人は、陰気で、かつ権柄尽くな態度である。

 偉そうに語るこのリーダーとは何者なのか。

 アマゾンの作業現場には、「ワーカーさん」と呼ばれる私のような一番下っ端のアルバイトがいて、その上が《トレーナー》、さらにその上に《リーダー》がいる。一番上となるのは《スーパーバイザー》である。全員で400人いるピッキングのアルバイトのうち、トレーナーが20人、リーダーが10人、スーパーバイザーが5人といった感じか。

 いずれも時給で働くアルバイトに過ぎない。

 時給は「ワーカーさん」が1000円とすると、トレーナーは1050円、リーダーは1100円、スーパーバイザーは1200円──という程度だ。いずれも派遣会社と半年契約を結ぶアルバイトであり、アマゾンとの直接の雇用関係はない。要は、同じアルバイト同士である。そのアルバイトに序列をつけ、アルバイトがアルバイトを管理するようになっている。

作業は常に見張られ、目標に達しなければ叱責される

 小田原に100人ほどいるというアマゾンの社員の多くは4階の作業現場の外にあるアマゾン専用オフィスに詰めており、そのうち何人かが現場に出てきているらしい。

 おかっぱ頭のリーダーが語るPTGとは《パーセンテージ・ツゥー・ゴール》の略語である。

 ピッキング作業にはモトローラ製のハンディー端末を使うのだが、ピッキングのたびに、「次のピッキングまであと何秒」という表示が出る。たとえば、100回のピッキングで、100回ともハンディー端末が指示する時間通りにピッキングできれば、PTG100となる。その時間を、5回上回ればPTG105となり、5回下回ればPTG95となる。

 ここでは毎日、アルバイト全員の名前と順位、PTGの数字が一覧表となって張り出される。私は何度も、自分の名前を見つけようとしたが、出勤日数が少なかったからなのか、自分の名前をランキングに見つけることは1度もできなかった。ただ、アルバイトの作業が常に見張られており、作業が目標に達しないと叱責されるという点は、以前と変わらないんだなぁ、と思った。

 リーダーの簡単な説明の後、アルバイトは各自、ハンディー端末を使ってピッキング作業をはじめた。ハンディー端末の上半分には画面がついており、その下半分には、1から10までの数字と、アルファベットなどのボタンがついていた。前回の潜入時には、100件ほどの注文が紙に印刷された《ピッキング・スリップ》と呼ばれる用紙を手に持って、そこに印刷してある商品を探してきた。手作業だったのである。

あわせて読みたい

「Amazon」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    行き詰まる韓国 中国に寝返るか

    ヒロ

  2. 2

    ブラタモリへのツッコミこそ誤り

    新井克弥

  3. 3

    山中教授が「被害者」になる日本

    やまもといちろう

  4. 4

    廃棄HDD漏洩 開いたパンドラの箱

    山口利昭

  5. 5

    加藤浩次 堀江氏無視してTV一本

    AbemaTIMES

  6. 6

    糖質制限を覆す研究 Nスぺに驚き

    NEWSポストセブン

  7. 7

    N国丸山氏を糾弾する危険な正義

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  8. 8

    氷川きよし新路線に事務所難色か

    文春オンライン

  9. 9

    山本太郎氏 米軍から自主独立を

    鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

  10. 10

    フィンランドで34歳女性が首相に

    BLOGOS しらべる部

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。