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「今なら書けそう」という感覚になったときの作品が『チーム・バチスタの栄光』だった - 「賢人論。」第102回海堂尊氏(中編)

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累計1,000万部を超えるベストセラーとなった「チーム・バチスタ」シリーズは、海堂尊氏が自ら提唱した死亡時画像診断、すなわちオートプシー・イメージング(Ai)を世に知らしめた。だが、そのことは小説を書いた直接の動機ではないと海堂氏は言う。そこで中編では、小説家デビューのいきさつを聞くとともに、Aiの社会導入がどのように進んでいったかについてもお話しいただこう。

取材・文/ボブ内藤 撮影/丸山剛史

本が出版されたら、作家業はすぐに引退するつもりだった

みんなの介護 前編ではオートプシー・イメージング(以下、Ai)について伺いました。海堂さんが小説を書いた目的が、Aiの有用性を市民にアピールするためではないとすると、どんな動機があったんですか?

海堂 「どんな人でも一生に1冊は本を書ける」という言葉がありますけど、僕は子どもの頃からこの言葉を信じていまして。「作家になりたい」というのではなくて、「書店に並んだ自分の本を見てみたい」とずっと願い続けていたんです。

実際、大学生時代には「今なら書けそう」と思い立って5~6枚くらい書いてみるんだけど、その先が続かずに諦めるということを何度か繰り返していました。書けないことを「今じゃないんだな」と思うことにして、挫折感を棚上げにしてきたわけですね。病理の大学院にいた頃には、10枚くらい書いたこともあります。

それからしばらくたって、再び「今なら書けそう」という感覚になったのが43歳のとき。Ai学会を立ち上げて、Aiの社会導入を行政や各種学会に進言しても、けんもほろろの対応で閉塞状態に陥っていた頃です。

ふとトリックを思いついて書き始めたら、200枚くらいスラスラ書けたんです。それが『チーム・バチスタの栄光』という作品になり、第4回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しました。

みんなの介護 海堂さんのデビュー作は「チーム・バチスタ」シリーズとなり、『ブラックペアン1988』(講談社文庫)から始まるバブル三部作、『ジーン・ワルツ』(新潮文庫)から始まる海堂シリーズ現代篇など、さまざまなシリーズものを並行して執筆し、一躍人気作家となります。かなりの多忙だったはずですが、病理医の仕事と兼業だったのはなぜですか?

海堂 書くことは僕にとって趣味であり、本業は医者だからです。そもそもの夢は「本を1冊書く」ことでしたから、処女作を書いたとき3部作構想ができていたので、その3作を書き上げたら作家業は引退しようと思っていました。

でも、「このミステリーがすごい!」大賞を運営する宝島社の編集局長さんにこう言われたんです。「新人作家は1年に3冊、新刊を出さないとすぐに忘れられてしまいます。すぐに次作に取りかかってください」と。 さすがに今は「年に3冊」どころか「年に1~2冊」も出せれば良い方ですが、当時は出版界もまだ景気がよかったんですね。

ともあれ、そういった事情で作家引退の目論見は先延ばしになり、その後、別の出版社から「ウチにも書いてください」という依頼が次々と来て、引退するきっかけそのものを見失ってしまったわけです(笑)。

自分が書いたものでも、小説は100%自分のものではない

みんなの介護 ところで、自分が書いた本が書店に並んでいるのを見たときは、どんな気分でしたか?

海堂 小説を書いているときは、「自分の書いているものは本当に面白いんだろうか。実は面白いと思っているのは自分だけなのではないか」という疑念がつねに浮かんでくるんです。

それでも、「自分が面白いと思っているんだから、読者のみなさんも面白いと言ってくれるはずだ」と信じて最後まで書いていきます。その段階で自分の作品は、「100%自分のもの」という感じがあるんですが、書店に並んだ本を見たときは、それとはまったく違う感覚です。

執筆したのは自分だけれど、すでに編集者や印刷所、取り次ぎなどの流通ルートを経て、多くの人がその本作りに携わっていますから、「自分のもの」という実感はかなり薄くなっているんです。

この感覚は、デビュー作から今に至るまで、まったく変わりません。

みんなの介護 なるほど。例えて言うなら、お米農家の人がレストランに行って、自分の米を使ったリゾット料理を食べるようなものですか?米を作ったのは自分だけど、リゾットを調理したのはその店の料理人である、と。

海堂 それとかなり近いですね。でも、食材ほど遠くには離れていないかな。せめて、コース料理の中の一品くらいは自分が作ったと主張したい(笑)。

時間管理は、兼業作家を続けるための必須のスキル

みんなの介護 海堂さんは編集者の間で、かなりの速筆作家として有名ですが、これは兼業作家には必須のスキルと言えそうですね。

海堂 それにはある種のコツがあって、忙しさに応じて1日をいくつかに分割して仕事量を調整するんです。

例えば、1日24時間を2つに分けて、最初の12時間で原稿を書き、あとの12時間は医師としての仕事をするという具合。3時間を睡眠にあてて、残りの9時間でどう仕事をこなしていくかを考える。

実はこのやり方は、外科医のときに身につけたものです。手術は6時間とか9時間もかかる長丁場ですから、手術があるときとないときの仕事量を調整して、遊ぶ時間を確保するために(笑)。

ときには、1日の2分割ではなく4分割、つまり、「2時間寝て4時間働く」というペースになったこともありましたね。

小説は、途中で作業を止めてしまうと、次に続きを書くときに「あれ、どうなるんだったっけ?」と話の流れを忘れてしまうものなので、頭に浮かんだ物語をキリのいいところまで集中して書く必要があるんです。

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