記事

壮絶な過去を背負った彼女たちにとって、更生施設は最後のアジールである。 - メヘルダード・オスコウイ×杉山春

1/2
イランの少女更生施設に密着取材したドキュメンタリー『少女は夜明けに夢をみる』が、11月2日(土)から岩波ホール(東京・神保町)で公開される。本作を撮ったメヘルダード・オスコウイ監督は、イランを代表するドキュメンタリスト。これまでも少年更生施設を取材したドキュメンタリー映画2作を撮り、社会の“見えない存在”に光を当ててきた。ルポライターの杉山春さんは、児童虐待や家族問題、自死などをテーマに取材をしている。二人の対話からは、イランと日本それぞれが抱える「少女の生きにくさ」の共通点、そして違いが浮かび上がってきた。(取材・文 / 越膳綾子)


なぜイランの少女は感情をまっすぐ表現できるのか

――日本の児童虐待や家族問題を取材してこられた杉山さんから見て、本作はいかがでしたか?

杉山 おかしな表現かもしれませんが、この映画に出てくる少女たちは「幸せそう」に見えました。みんな壮絶な過去を背負っているのに、自分の気持ちを歌にしたり、ノートに書いたり、それをあっけらかんとオスコウイ監督に説明したりしていて、とても自己表現ができる子たちです。日本でも、同じような状況に苦しんでいる少女たちはいますが、自分がなぜ苦しいか理解できない、あるいは言葉にできない子たちが多いように思います。

オスコウイ この更生施設にいる少女たちは、みんな一緒に何か面白いことを見つけて、笑うんです。自分たちのこれからの生き方を、施設のなかでディスカバー(発見)しているように見えました。

でも、ある少女は言いました。「撮影の人たちはお菓子を持ってきてくれるし、いろんなことを話したり聞いたりしてくれるから、それは幸せなひととき。だけど、撮影が終わって去って行くときは、もっとも悲しい時間」と。

メヘルダード・オスコウイ監督

杉山 監督は、どの少女の表情もとてもよく見て撮っていますよね。メインで映っている子も、その後ろにいる子の表情も素晴らしい。彼女たちがそれぞれ持っている課題や内面性は、撮影前にわかっていたのでしょうか?

オスコウイ いいえ、彼女たちの痛みと出来事だけは知っていましたが、それ以上のことは知りませんでした。劇映画であれば、あらかじめ役者の立ち位置を決めて撮影しますが、ドキュメンタリーはそうはいかない。ですから、私と撮影監督はよく相談してアングルを考えました。こっちにカメラを向けると後ろは壁だけど、こっちならあの少女も撮れる、といった具合に。少女たちではなく、自分の位置を変えて撮っていきました。

杉山 かなり短い期間で撮影したそうですね。

オスコウイ 3カ月の撮影期間をもらいましたが、実際にカメラを回したのは20日間でした。その前に、撮影許可が下りるまで7年間も待ったのです。イランの少女更生施設にカメラが入るのは初めてで、施設の人はどうしたらいいかわからなかったようです。

杉山 それでも、粘りに粘ったのはなぜでしょう?

オスコウイ 彼女たちを映すことが、自分のためでもあるからです。実は、私は15歳のときに自殺未遂を経験しています。父が破産して、あっという間に家族が貧困に陥り、もう生きていられないと思いました。しかし、入水自殺をしようと海に行ったとき、突然、大勢の男女が車から降りてきて、大音量の音楽をかけて踊ったり、泳いだりし始めた。それを見ているうちに「自分が死のうが生きようが、この世界は回り続けていく」と悟り、死ぬのを止めました。

私の父は反政府活動をした政治犯として、5年間、刑務所に服役していました。しかし、刑務所でどんなことをされたか、詳しく話すことはしませんでした。イスラム教では遺体を水で洗う風習がありますが、父の遺体を洗ってくれた人が言いました。「お父さんは、ものすごい拷問をされていたんだね」と。遺体にはたくさんケガのあとがあり、出所から数十年がたっても消えていなかったのです。それで、私の頭のなかにはずっと「貧困」「刑務所」というテーマがあり、本作を撮ることにつながりました。

杉山 オスコウイ監督が自殺をしようと思っていた頃(1980年代半ば)、私はイタリアにいました。当時、イラン・イラク戦争のただ中で、イタリアに逃げてきたイラン人の若者たちが大勢いました。

オスコウイ そう、あの頃は革命があって、イランの若者たちは生き延びるために海外に行ってしまいました。

杉山 彼らはいわゆる反体制の立場で、母国にとどまりにくかった。それを聞いて、個人の人生や生活は国や社会の変化と密接に関係していると思いました。国や社会が大きく変わるとき、若者は大きな苦労を強いられる、と。

日本は、社会が落ちこんで、みんなが自信を失う時代です。しかし、正面からそれを言えない風潮があります。マスメディアの報道は「日本はすごい」という論調が多く、社会全体が現実と向き合えていないように感じます。そうした社会のしわ寄せを食らいやすいのが少女たちではないかと思うのです。

杉山春氏

オスコウイ 日本は自殺率が高いことがよく知られています。イランはまだそれほど自殺率が上がっていませんが、薬物使用や売春など、自らを壊すという意味では自殺に近いことをする少女は大勢います。

最近、編集を終えた次のドキュメンタリー作品では、麻薬中毒の少女を取材しています。彼女は刑務所にいるときはクリーンな状態でしたが、出所して1週間でまた刑務所に戻ってきました。もう絶望していると言っていました。しかし、彼女は自ら命を絶つことはしません。刑務所というコロニーの中では、誰かが落ちこんだら仲間が引っ張り出して励まし、踊らせたり歌わせたりします。自分の内面に閉じこもっていた気持ちを、外に戻してくれるのです。刑務所にいる彼女たちは非常にサポーティブで、お互いを大切に守っています。

杉山 それは今回の作品からもとてもよく伝わってきて、羨ましいと感じたくらいです。日本は格差が拡大していき、競争社会でもあり、少女たちをはじめ、若い人たちは自分が他人よりどれくらい価値があるかをすごく気にしています。イランの少女たちのように助け合ったり、ちょっとしたことに笑いを見つけたりして周囲と心をつなぐことが難しいように見えるのです。

私は92年頃に、雑誌の取材でイランを訪れました。先ほど監督が、自殺を図ろうとしたときに大勢の男女が海で遊んでいたと話しましたが、私もイランに滞在中、公園で夜のピクニックを見ました。どこからともなく大勢の人たちが車に乗り込んで、夜中の公園に遊びに来るのです。

また、イランは宗教的な理由で、若い男女関係が非常に厳しいと聞いていましたが、休みの日に近くの山まで遊びに行き、カップルでロープウェイに乗り楽しく過ごしているのも見ました。いろいろな制約があっても、みんな貪欲に人生を楽しんでいて、それがすごく面白かった。

オスコウイ イラン人の性格かもしれませんね。苦しい状況にあっても、小さな穴を見つけて出ようとします。みんなで集まって一緒にご飯を食べたり、小さな旅をしたりしてハピネスを探しているような人はとても多いんです。この作品に登場する少女たちも、一人ひとりは辛く苦しい経験をしてきたのに、みんなで一緒に笑ったり、食事をしたりすることを楽しんでいます。

彼女たちは、窃盗やスリなどの罪を犯しているので、施設の職員から「あなたもあっという間にものを盗まれるよ。だから、撮影するときは財布を持ち込まないように」と言われました。しかし、施設内に3カ月滞在しましたが、一度も盗られませんでした。逆に、食事のときは必ずシェアしてくれるし、外部からフルーツをもらえば教えてくれるような子たちです。彼女たちが罪を犯したのは空腹だったからであり、十分に食べられる環境であればそんな悪いことはしない。素晴らしい人たちでした。

あわせて読みたい

「イラン」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    国内外で「ナカムラ」の死悼む声

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    野村克也氏「イチローは超一流」

    幻冬舎plus

  3. 3

    年収10倍のマイホーム購入は危険

    内藤忍

  4. 4

    韓国で成功諦める低所得層の実態

    ロイター

  5. 5

    韓国より低成長 認めぬ安倍首相

    PRESIDENT Online

  6. 6

    口座手数料より銀行がすべきこと

    内藤忍

  7. 7

    次期首相候補 石破氏支持が躍進

    ロイター

  8. 8

    馬毛島の買収は高評価されて当然

    原田義昭

  9. 9

    よしのり氏 中村医師の死は残念

    小林よしのり

  10. 10

    森ゆうこ氏の情報漏洩は人権侵害

    塩崎恭久

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。