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是枝監督「映画祭の死」 慰安婦題材映画の上映中止騒動で 「表現への“直接攻撃“が起きる日本」の異常

 「すごく悔しかったんです、私たちとしては上映が中止になったことは」

 10月30日、涙ながらにこう訴えたのは映画配給会社「東風」の木下繁貴代表。東風が配給する1本の映画が映画祭で上映見送りとなったことで、いま物議を醸している。

 27日から川崎市で開かれている「KAWASAKI しんゆり映画祭」。川崎市が共催し、NPO法人を中心とした市民ボランティアが多く携わる映画祭だ。

 この映画祭で上映中止となったのが、慰安婦問題を扱った映画『主戦場』。日系アメリカ人のミキ・デザキ監督が、慰安婦問題に関する識者の主張をインタビュー取材。その検証や分析を行うというドキュメンタリー作品となっている。しかし、インタビューに応えた出演者から損害賠償や上映中止を求め提訴されており、この点に川崎市が懸念を示したという。

 また、主催者の頭をよぎったのが、あいちトリエンナーレの一連の騒動だ。運営を行うのは学生や主婦、会社員などのボランティアスタッフ。上映に向けた準備をする中、『主戦場』と同様に慰安婦をテーマにした作品を展示した「表現の不自由展」に対する脅迫などの報道を目にし、危機感を感じていたという。

 「『爆弾を仕掛けた』と言われたら、近くに住んでいる人と遠くに住んでいる人の反応は違いますよね。我々にとっては当事者の問題として、嫌がらせとか脅迫に対してどうやって抵抗するか、その手段がない。そういった中での恐れが一番です」(しんゆり映画祭 中山周治代表)

 一方で、この上映見送りに反発したのが映画関係者だ。別の映画製作会社が、予定されていた2本の映画の上映を取りやめることを決めた。そのうちの1本、『止められるか、俺たちを』の白石和彌監督は、映画の作り手として今回の対応に感じた思いを次のように語る。

 「上映するにあたって外部からの暴力的な圧力があるのであれば、それは共催である川崎市も一緒になってそういう懸念を取り除くのが責任だと思う。しんゆり映画祭も考えを改めていただいて、僕らがボイコットした枠が空いているはずなので、そこで『主戦場』を今からでも上映してくれれば、僕たちは映画祭を無償でもなんでも応援する気持ちはある」

 上映を中止した2本の映画については、改めて別の会場で無料上映会を行うことが決まっている。さらに、映画祭での作品上映に伴い登壇した是枝裕和監督と俳優の井浦新が、主催者の決断を批判。是枝監督は「映画祭を主催する立場の人としてはあってはならないあるまじき判断です。これは作り手に対する敬意を欠いている」と指摘した。

 是枝監督らと今回の件について話したという『主戦場』のデザキ監督は、「私たちは『表現の自由』を守るために協力しなければならない。みんなで戦っていくことが必要です。今の逃れをそのままにしておくと、日本における『表現の自由』は死んでしまうだろう」と訴えている。

 あいちトリエンナーレの騒動などから波及した、表現の自由をめぐる今回の騒動。東京工業大学准教授の西田亮介氏は「25年続く歴史ある映画祭だが、ボランティアが中心になってきたということで、恐らくこれまでは表現の自由よりかは、もっぱら純粋に映画を楽しみ、映画とまちの盛り上がりを重視してきたのではないか。

しかしこの間、京都アニメーションの事件やあいちトリエンナーレの騒動など、表現に直接暴力が向けられたり強いプレッシャーがかけられたりすることが相次いだ。議論の激しい映画を取り上げることに対して、安全の相場観が自明ではなくなり、開催にすら配慮せざるをえない状況が生じてきた」との見方を示す。

 一方で、責任の所在は主催者や川崎市にはないとし、「問題は、表現活動に対してすでに暴力や大量のクレーム、攻撃の予告などの強い圧力が向けられ、各地の芸術活動や展示、文化活動で安全を理由にした自粛が連鎖的に生じていること。表現の萎縮はかなり深刻な状況に思える」と指摘した。

 上映中止を批判した是枝監督は「作品を取り下げるというのは『映画祭の死』を意味する」とかなり強い言葉も使っている。西田氏は「イベントを安全に運営したい主催者、表現の自由が萎縮するという作り手双方の真っ当な主張が対立している。表現の自由は法律で書けば済むというものではなく、不断の努力によって守っていかなければならない極めてセンシティブなもの。こういう問題が起きているということを知ることが最初の一歩ではないか」と訴えた。

(AbemaTV/『けやきヒルズ』より

映像:映画配給会社が涙の訴え「すごく悔しい」

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