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日本でもベストセラーの“フェミニスト”本が映画化 男性韓国人記者の感想は? 『82年生まれ、キム・ジヨン』 - 菅野 朋子

 邦訳版もベストセラーとなり話題を呼んだ韓国小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が韓国で映画化され、23日、公開された。

【動画】主婦生活の息苦しさを描く『キム・ジヨン』予告編

 原作は韓国でも120万部を売るロングセラーで今でもベストセラーの常連作だが、一方、“フェミニスト本”といった批判も多く、同書を取り上げたスターのSNSが炎上するなど韓国では多くの物議を醸してきた。

 映画も然り。

 製作段階から”フェミニスト映画”と騒ぎ立てられ、主演俳優にはネットで誹謗中傷が飛びかった。公開直前にはレビューでわざと評点を低くする「評点テロ」騒動も起きたが、どうなることかとフタを開けてみれば、公開9日間の観客動員数は165万人を突破。大ヒットの兆しとなっている。

娘に勧められて見たという50代韓国人男性は……

「この映画は韓国社会の縮図、韓国社会で起きていることが全部入っている」

 30代の知り合いはこう言って、映画を見ながら、母を思い、自分自身を振り返り、幼い娘のことを考え、胸が締めつけられた、と何度も映画のシーンを反芻していた。

 また、50代後半の知り合いの男性会社員はこんなことを言っていた。

「娘(20代後半)に勧められて見ました。映画を見ながら、妻、母親、職場の後輩を思い出して、自分の半生も振り返りました。私は結婚したばかりの頃、妻が働きたいというのを止めたんですね。育児に専念してくれと。今でもその時の恨み辛みは妻から出ますが、あの時、妻はこんな思いしていたのかと今になってよくわかりました。


©iStock.com

 母親は母親で姑の祖母と暮らしていましたから大変だったろうなあとか、後輩の女性たちはこんな怒りを持っていたのかとか、娘が勧めた理由についても今さらですがいろいろ考えさせられた」 

 原作『82年生まれ、キム・ジヨン』は、1982年に生まれたキム・ジヨンという女性の半生を描いた作品だ。結婚し、育児のために仕事を辞めて専業主婦となった、あなた自身か、あなたの周りにもいるような女性が生まれてから成長していく過程で遭遇し、経験した日常が精神科医師のカルテに沿って語られていく。思っていることを口にせず呑み込んでしまいがちな彼女は自分の気持ちを実母や同僚などに憑依する形で口にするようになり、病院を訪ねていた。

原作と違うのは「家族が描かれている」こと

 映画もそんな30代のキム・ジヨンを中心に展開していくが、原作と異なるのは、彼女を取り巻く家族とのやりとりや風景が丹念に描かれていること。そうすることで女性としての生きづらさが際立っていて、さらにその次をも模索しているところは原作とは違う物語になっている。

 韓国紙記者(男性)は言う。

「原作はとても無機質で、登場する主人公ジヨンの夫や父親、職場の同僚など男性はすべて平面的に書かれていて正直、男性を一方的に責めるような作品でまったく感情移入ができませんでしたが、映画は主人公に起きていることは同じでも、男女を対立させるようなものではなく、どう共に生きていくかという家族の話になっていた。誰もがどこかで見たような、経験したような話がちりばめられていた。

 男性の鑑賞率はまだ低いですが(女性70%、男性30%)男性が見ても自分の妻や母親、娘を思い出す。そんなところが観客動員につながっているようで、これからまだまだ観客動員数は伸びるといわれています」

 キム・ドヨン監督は、映画化にあたって、「他人の声を借りて話していた女性が自分の声を探す叙事詩的なものに(物語を)再構成した」(韓国日報10月28日)と語っている。

劇中のシーンは日本でも目にしたことがあるものばかり

 映画のシーンは日本でもどこかで目にしたり、聞いたことがあるようなものばかり。

 ジヨンが子供を乳母車に乗せて、公園のベンチでコーヒーを飲んでいれば、見ず知らずの男性会社員に「俺もだんなのカネでコーヒー飲みたいなあ」と言われ、「ママ虫」と揶揄される。「ママ虫」とは夫の稼いだカネで自由に遊びまわる母親を揶揄する韓国のネットスラングだ。

 再就職のチャンスが巡ってきても、ベビーシッターが見つからず、夫は育児休暇をとると言ってくれるが、姑からは「どれだけ稼げるのか」と反対され、夢を諦めてしまう。

 子供がいる職場の女性上司は「母親が育てない子供はどこかで道を踏み違える」などとなじられても懸命に働くが昇進の壁は厚い。

 教師になるのが夢だった母親は兄弟たちの進学資金を稼ぐため夢をあきらめ、家事の一切を切り盛りしているが、そんな家では常に男性が優先され、温かい食事の順番も父、祖母、弟と決まっていた。

 高校生のときに知らない男性に跡をつけられそうになり泣きじゃくる彼女を迎えに来た父親からは、スカートの丈を咎められ、「誰に対してもいい顔をするな」と逆に責められてしまう。

主人公の生きづらさの背景は韓国社会に残る儒教の影響か

 主人公の生きづらさの背景には、儒教の影響を強く受けた韓国社会のシステムが浮かび上がる。

 主人公が再就職の夢を断念したのも、いまだ企業によって残る男女の賃金格差を想起させ、また、最近では大きく変わりつつあるといわれるが、韓国での姑と嫁の葛藤も思い起こさせる。韓国では嫁はあくまでもよそ者扱いされ、家に入れないという意味合いから別姓でもあるし、自分の息子、子孫を支える存在としての役割が求められる傾向も完全に薄れてはいない。

 昔は女児が生まれると里子に出した家もあったといわれ、子孫を継ぐ男児を産むことが女性の絶対条件という感覚もまだ密かに残る。長男と結婚し二人の娘を持つ30代の知り合いは70代の舅から、「跡継ぎを生むように再三言われて、今の時代にそんなことを言う? とあきれるんだけど、舅は真剣。「高学歴の人だからもっと開かれた考えの持ち主だと思っていたんだけど、言い返しても無駄だから、仕事が忙しいと避けている」とこぼすのを聞いて、驚いた。

日韓の反応の違い、なぜ?

『82年生まれ、キム・ジヨン』の原作を読んだ韓国女性は「怒った」と言い、日本女性は「泣いた」と聞く。

 同じように広く読まれていても、こんな反応の違いはどこから来るのだろう。

 映画では主人公は自分の声を取り戻す。

 さて、後日談。

 映画について話を聞いた前出50代後半の男性は娘にこう伝えたという。

「誰にも負けないくらい勉強もしたのだから、やりたいこと、好きなことを思う存分やって、結婚はそれからでもいい」

 実は韓国ではこんな親世代(50~60代)も増えているのだそうだ。

(菅野 朋子)

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