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参議院選挙後の情勢と課題(その1)

〔以下の論攷は、東京土建が発行する『建設労働のひろば』No.112、2019年10月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 「参院選でいただいた国民の力強い支援・支持に応え、約束した政策を一つ一つ実行していく」
 これは9月2日に開かれた政府与党連絡会議での安倍首相の言葉です。マスメディアによる一般的な評価も、自公の勝利というものでした。しかし、この参院選の結果は、安倍首相にとって満足のいくものだったのでしょうか。

 参院選前の通常国会で3カ月間も予算委員会を開かず、野党の追及を避け続けた安倍首相です。参院選後も臨時国会の召集を遅らせ、野党による閉会中審査開催の要求にも渋っていました。

 選挙活動期間も含めて、際立ったのは論戦から逃げ続けている安倍首相の姿です。なぜ、それほど論戦を避けたのでしょうか。その最大の理由は、内外共に難問が山積し、対応が難しくなっているからです。

 「改元フィーバー」や天皇の代替わり、トランプ米大統領への「おもてなし外交」など、表面的な奉祝ムードやお祭り騒ぎの背後には、日本の将来を左右する重大な選択が横たわっていました。安倍首相はできるだけ問題の表面化を避け、野党の追及を受けることなく参院選を無難に乗り切ろうとしたのです。

 さし当り、この作戦は成功したように見えます。しかし、選挙の争点になることを避け国民の目から隠し続けてきた数多くの難問は、解消しなかったばかりかさらに大きくなっています。また、改憲勢力の議席が3分の2を下回ったために、悲願の改憲戦略には新たな困難が生じました。

 参院選の実像を検証したうえで、安倍政権の前途を展望することが必要です。そのような作業を通じて、政治転換の必要性と可能性、市民と野党が取り組むべき課題を明らかにしなければなりません。2年後には衆院議員の任期が切れます。それ以前には必ず解散・総選挙があるに違いないのですから。

1、参院選の結果をどう見るか

 与党にとって有利な状況の下での選挙

 世界も日本も、危機の時代になってきています。そのような時代を生み出した元凶は、世界の超大国のトップリーダーであるトランプ米大統領であり、その「盟友」ともいえる安倍首相です。

 国家と社会の分断と対立、嘘と偽り(フェイク)の横行、他民族を蔑視し排除するヘイトと憎悪の噴出が時代の特徴となりました。表現の自由や政治的民主主義の破壊も国際社会と日本国内で目立つようになってきています。世の中の右傾化は否定しがたい形で進行してきました。

 参院選は、このような中で闘われました。安倍首相と政権与党にとっては有利な政治的風潮と社会的な雰囲気の下での選挙だったと言えるでしょう。しかも、選挙前からマスメディアの報道は少なく、公示日から7月15日まで「ニュース/報道」番組は約3割減で民放は約4割減だという調査があったくらいです。

 このような「選挙隠し」だけでなく「争点隠し」も顕著でした。前述のように、安倍首相は野党の要求する予算委員会の開催を拒否し、街頭演説も開催場所や開催時間を隠す「ステルス演説」となり、立憲民主党を「民主党」と呼んで揶揄したり論点をすり替えたりして野党攻撃に終始しました。選挙を振り返って、マスメディアは論戦が低調で選挙への関心が盛り上がらなかったと総括しましたが、それなら争点を明らかにして関心を高める報道に努めるべきだったでしょう。

 この結果、参院選の投票率は48.8%にとどまり、戦後2番目の低さになりました。投票所は最多時より6400ヵ所も減り、投票時間の繰り上げなどもあって投票しにくくなったことも投票率の低下に関係したかもしれません。

 それでも選挙結果が安倍首相の思い通りにならなかったのは、年金問題などが争点として急浮上し、10%への消費税引き上げの是非も争点になったからです。それだけでなく、1人区での野党共闘が自民党を追い詰め打ち勝つという大きな成果を上げたからでした。

 与党は「勝った」が自民党は負けた

 参院選の結果を見れば、自民・公明の与党は確かに「勝った」かもしれませんが、自民党は負けました。与党の敗北にならなかったのは、公明党に助けられたからです。

 自民・公明の両党は合計で71議席を獲得し、改選過半数を確保しただけでなく、非改選議席との合計でも参院の過半数議席を維持しました。その意味では「勝利した」ということができます。

 しかし、自民党は敗北しました。9議席減となって参院での単独過半数を割ったからです。これまでは単独で法案を成立させることができましたが、これからは公明党が「ウン」と言わなければ成立させることができなくなりました。これまでならできたことがこれからはできなくなったのですから、敗北と言う以外にありません。

 さらに、自民党は比例代表の得票を240万票も減らしています。有権者全体に占める得票割合(絶対得票率)も18.9%となって、初めて2割を切りました。これまで衆院選や参院選で有権者のほぼ4分の1(25%)の支持を得てきた自民党にとって深刻な後退です。

 これに対して、公明党は3議席増で過去最多の14議席を当選させました。非改選議席との合計でも過去最多の28議席となっています。このために与党が過半数を維持できたわけです。

 しかし、その公明党にしても比例代表での得票数は654万票で、104万票も減らしました。2年前の衆院選で公明党は初めて700万票を下回り大きなショックを受けましたが、今回はそれよりもさらに多くの票を失ったことになります。その背景には支持団体である創価学会員の高齢化があります。また、安倍軍拡路線への追随によって「平和の党」の看板が揺らいでいると見られたことも大きいでしょう。

 野党の状況をどう見るか

 参院選で野党は負けたと言われています。確かに、比例代表での議席は与党26対野党24で野党の方が2議席少なくなっています。しかし、得票率では与党が48.42%で野党は50.12%となり、野党の方が1.7ポイント多くなりました。負けたわけではないのです。

 このような結果になったのは、主に1人区での与野党対決となった東北地方で野党共闘が勝利したからです。3年前と同様の「地殻変動」が生じ、一定の「表層雪崩」が起きました。しかし、それは「表層」にとどまり、最終的な決着は衆院選へと先延ばしされています。

 参院選での野党各党の結果は、立憲民主党17、維新の会10、共産党7、国民民主党6、れいわ新選組(れいわ)2、社民党1、NHKから国民を守る党(N国党)1、無所属9となりました。れいわとN国党という新しい政党が議席を得たのが注目されます。

 立憲民主党は改選9から17へほぼ倍増して野党第一党を維持しましたが、17年衆院選より300万票も減らしました。国民民主党は改選8から6へ2議席減となっています。労働組合の連合は立憲から旧総評系の5人が立候補して全員当選しましたが、国民民主党から出た旧同盟系の5候補のうち東芝出身の電機連合とJAM(金属機械)出身の2候補は落選しました。

 共産党は改選8から1減となり、比例代表の得票数は154万票減となりました。しかし、17年総選挙より8万票ふやし、投票率も1.05ポイント増加しています。また、3年前の参院選よりも1増となっていますから、2~3年前よりは党勢が回復傾向にあると言えます。

 社民党は改選1を維持し、得票率も2%を超えて政党要件を確保することができました。前回議席を失った吉田忠知元党首も国会に復帰しています。

 れいわは特定枠で2議席を獲得しましたが、山本太郎代表は議席を得ることができませんでした。無党派層での得票率ではれいわが9.9%で、立憲が20.6%と2.6ポイントの減、共産が11.0%で3.7ポイントの減となりました。この3党は政策が似かより支持層が重なっているために競合し、立憲や共産かられいわへと無党派層の票が動いたことがうかがわれます。

 今回の選挙では、特に維新、れいわ、N国党が支持を拡大したことが注目されました。これは国民の間に政治の現状への不満が鬱積していること、既存政党がその受け皿になれず一定の不信感を抱かれていること、たとえ幻想であったとしても「改革」への期待や欲求があることなどが示されているように思われます。これらの点を反省し、既存の野党でも不満や期待の「受け皿」になることができれば、大きく支持を延ばせることが示されているのではないでしょうか。

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