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日本人が目を向けない「消えた留学生」の深層 外国人留学生の闇(1) - 出井康博 (ジャーナリスト)

(B_Lucava/gettyimages)

今年3月、東京福祉大学で過去1年間に約700人もの留学生が所在不明となっていることが発覚し、テレビや新聞で大きく報じられた。同大には出稼ぎ目的の留学生が多数入学していた。そんな留学生が学校から相次いで姿をくらました。学費の支払いを逃れて不法就労するためである。

同大の問題は国会でも取り上げられ、政府は対応を迫られた。そして留学生の受け入れ先となっている学校に対し、監督を強化する方針が打ち出された。

まず、法務省出入国在留管理庁が6月、文科省と共同で『留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応指針』を発表した。除籍や退学となる留学生を多く出し続けた大学や専門学校には、留学生の受け入れを停止するのだという。

8月には、日本語学校の運営も厳しく監視されることが決まった。日本語学校は留学生の日本での入り口だ。各学校には今後、留学生の授業への出席率やアルバイトの時間など、これまで以上に管理することが求められる。

こうした方針に関し、大手メディアは「日本語学校を厳格化 9月から新基準 悪質校を排除」(2019年8月1日『日本経済新聞』電子版)といった具合に報じている。だが、新たな政策によって、本当に「悪質校」は排除されるのだろうか。

留学生の数は2018年末時点で33万7000人に達し、12年末からの6年間で16万人近く増えた。安倍政権が「成長戦略」に掲げる「留学生30万人計画」も、2020年の目標を待たずに達成された。

その過程で急増したのが、アジア新興国出身の留学生だった。ベトナムからの留学生は12年から約9倍に増え、8万人を超えるまでになった。また、ネパール人留学生も約6倍の2.9万人程度まで増えている。こうした新興国出身者には、勉強よりも出稼ぎが目的の“偽装留学生”が数多く含まれる。

“偽装留学生”は日本語学校に支払う初年度の学費など、留学費用を借金に頼っている。こうした留学費用を自腹でまかなえない外国人に対し、政府は本来、留学ビザの発給を認めていない。しかし、原則を守っていれば、「留学生30万人計画」は達成できなかった。だからルールを無視して、経済力のない外国人にまでビザを発給し続けてきた。

不法残留者は5年連続で増加中

“偽装留学生”は、日本にとっては都合のよい存在だ。学費を支払ってくれるばかりか、安価な労働力としても利用できる。留学生には「週28時間以内」のアルバイトが認められるからだ。

日本語が不自由な留学生でも、アルバイトを見つけるのは難しくない。ただし、日本人に嫌がられ、働き手が不足する低賃金の重労働ばかりである。企業にとって留学生は実にありがたい。そのため「30万人計画」は、底辺労働者を日本に呼び込むためのツールとなっている。

そんな同計画の歪みが露呈したのが、東京福祉大の「消えた留学生」問題だった。

独立行政法人「日本学生支援機構」によれば、東京福祉大は早稲田大に次ぎ、全国2位の5133人(2018年5月1日現在)の留学生を受け入れている。うち約2700人が、「学部研究生」と呼ばれる非正規の1年コースに在籍する。同大で所在不明となった留学生も、約7割は学部研究生だった。

学部研究生コースは、大学などへ進学するための準備期間という建前だ。日本語能力を実質問われず入学でき、学費も年62万8000円と、一般の大学や専門学校と比べて数十万円は安い。そして大学側は、自らの裁量で定員を設けず留学生を受け入れられる。そのため日本語学校を卒業した“偽装留学生”が続々と押し寄せていた。

留学生が学校を除籍もしくは退学になった後も、アルバイトを続けていれば違法とみなされる。また、留学ビザの在留期限が切れて日本に留まっていれば、不法残留にも問われる。

不法残留者の数は今年1月1日時点で7万4167人に上り、5年連続で増加中だ。留学生から不法残留となった外国人も4708人と、過去1年間で約15パーセント増加した。不法残留者の増加は、法務省が最も気にかける問題の1つである。東京福祉大の問題は、同省といても見過ぎせない。

“特殊な”学校で起きた不祥事なのか?

とはいえ、学校側に「管理の徹底」を求めるだけで、問題は解決するのだろうか。過去5年間、留学生に関する取材を続けている筆者にはそうは思えない。学校への監視の強化は、あくまで対処療法に過ぎない。根本的な解決には、“偽装留学生”の受け入れ自体を止めることが重要だ。しかし、そこには手がつけられていない。

「消えた留学生」問題はメディアで大きく取り上げられたが、しばらく経つと関連の報道は止んだ。世の中には、東京福祉大という“特殊な”学校で起きた不祥事との印象が残った。だが実際には、同大の問題は、氷山のごく一角が露呈したに過ぎない。

留学生の受け入れ現場では、貧しい国からやってきた外国人が「留学生ビジネス」の餌食になり続けている。その実態は、政府が「消えた留学生」問題への対策を打ち出した以降、むしろ悪化すらしている。象徴的な例が、「幸せの国」と呼ばれるブータンから来日した留学生たちの苦境である。

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