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「女の子は50kg以下がいい」という先入観の正体

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■生まれた時から細くなりたい人はいない

女性116名へのアンケートで、「生まれたときからやせたいと思っていた」と回答した人はひとりもいません。この結果から明らかなのは、「やせたい気持ち」が成長の過程で現れ、しかもその多くが他人と自分を見比べたときに現れているということです。

でも、なぜ比較をし、その上で体型を変えようと思うのでしょう? 隣の子のボールペンが、自分のボールペンより細かったとしても、もっと細いボールペンを買おうとは思いません。私は左利きですが、周りが右利きだからといって変えようと思ったことはありません。違いに気づくだけでは、変化のモチベーションは高まらないのです。

人が比較の上で何かを変えようと思った時、その背後には何らかの価値観があります。この場合のそれは、やせている人の方が素敵であるという、社会に共有された価値観です。私たちは成長の過程でこれを学び、その学びが「もっとやせなよ」といったアドバイス、「デブ」という罵(ののし)り、あるいは「やせたい」という気持ちにつながります。

■「気持ち」は自分の外からやってくる

このような考えを目新しいと思う方もいるかもしれませんが、私たちのふるまいや、考え、嗜好、さらには感覚や感情までも学習によって生まれてくると考える文化人類学において、これはごく一般的な人間の理解の方法です。

たとえば伝統的なポリネシアの社会では、女性がおっぱいを人前でさらすことはわいせつでもなんでもない一方、太ももを人前にさらすことは大変に恥ずかしいう考えがかつては存在しました。そればかりでなく、おっぱいに性的な魅力を感じるのは子どもだけで、大人になったらそんなところに魅力は感じないという見方もあったとか。

恥じらいとか、性的な興奮は、自分の意志とは関係なく生まれてくるどうにもあらがえないもののように思えます。ですが、そんな気持ちの中にすら、それぞれの文化が持つ価値観が滑り込むのです。

■「やせたい」と思わせる環境から逃げればいい

とはいえ、「その気持ちは、ほんとうは外から来たものなんです、なんて言われてもどうしようもない。私のやせたい気持ちは変わらない」という人もいると思います。誤解しないでほしいのですが、私はみなさんのそのような気持ちを否定したいわけではありません。また「やせたい」と思うことがよくないというつもりもありません。


磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマー新書)

ただ私たちは、「朝から晩まで体重のことしか考えられない」、「太ることが怖くて、楽しく食事もできない」といったように、「やせたい」という気持ちにしばしばがんじがらめになることがあります。私はこのような人たちに、《「やせたい」と思わせる環境から逃げればいい》というメッセージを送りたいのですが、気持ちを自分だけのものだと思いすぎると、私たちをとりまく世界が、私たちの気持ちを作っているという現実に気づきにくくなり、逃げるという選択肢がみえにくくなります。

ですから私は、そのような状態を解きほぐすための1つの方策として、「やせたい」という気持ちの構造を、私たちと世界との関わりという点から見ていきたいのです。

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磯野 真穂(いその・まほ)

国際医療福祉大学大学院 准教授

1999年、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒。オレゴン州立大学応用人類学修士課程修了後、早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文化人類学、医療人類学。著書に『なぜふつうに食べられないのか 拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界 「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)がある。

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(国際医療福祉大学大学院 准教授 磯野 真穂)

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