- 2019年10月30日 18:36
日本の税制は「公平・中立・簡素」という3つの原則の上に成り立っている - 第101回土居丈朗氏(前編)
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「適切な再分配」とは何か。国や政治家任せではなく、国民全体で議論していかなければならない
みんなの介護 さて、消費税は現在、国の税収の約30%を占め、所得税(約30%)、法人税(約20%)と並んで「税収の3本柱」のひとつになりました。
土居 そうですね。税率が10%に上がれば、消費税は国の税収の最大の柱になるでしょう。これまでずっとナンバーワンの座に君臨してきた所得税の座を、消費税が圧倒するわけです。
みんなの介護 冒頭で説明していただいた直接税と間接税の話に戻れば、消費税は富める人にも貧しい人にも一律に税金を徴収する間接税です。税収の中で、そのような間接税の割合が高くなるのは、避けようのないことなのでしょうか?
土居 ええ、私はそう考えています。
というのも、直接税を中心とした税制は、高度経済成長期だからこそ成り立っていたからです。当時は人口構成がピラミッド型で、団塊の世代の方たちが日本の生産力の主力を占めていました。そうした世の中では、現役のうちにたくさんの税金を納め、リタイア後はそれほど多くの税金を納めず、悠々自適の老後を過ごすというライフスタイルが実現可能だったのです。
ところが団塊の世代の方々のほとんどが現役を退いた今、同じようなやり方ではやっていけません。
みんなの介護 消費増税は、超高齢社会になった現代の税制として、妥当なものである…ということですか?
土居 そうです。そもそも戦後日本の税制は、「公平・中立・簡素」という3つの原則によって成り立っています。
「公平」とは、「租税の負担能力が同レベルな人は、同じ額を支払うべきである(水平的公平)」ということと、「課税後の所得や資産について、個人間の格差をできるだけ小さくするように徴収すべきである(垂直的公平)」ということ。
2つめの「中立」とは、「租税は、民間の経済活動をできるだけ阻害しないようにするべきである」ということ。税金をとりすぎて、国民の生産力や消費、貯蓄を下げてしまうような租税は望ましくないというわけです。
3つめの「簡素」は、「租税制度は納税者にとって簡素でわかりやすいものにすべきである」ということ。
みんなの介護 なるほど。
土居 ここで大事なポイントは、「公平・中立・簡素」という3つの原則は、常にすべてを成り立たせるのが難しいということです。特に、(垂直的)公平と中立については、「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」という関係にあって、その時代の状況に応じてバランスを変化させなくてはなりません。
したがって、今現在の日本の状況では、“間接税である消費税の割合を上げるけれども、そのかわりに社会保障を充実させ、適切な給付によって再分配していく”ということが望ましいでしょう。
みんなの介護 「適切な再分配」ですか、難しそうですね…。
土居 すべての国民が政治家任せ、官僚まかせという姿勢では、むずかしいかもしれませんね。
例えば、現役世代の人口がどんどん減って、高齢者の人口がそれに反比例して多くなっていくのが今の日本の社会です。現役世代の負担が大きくなっていけば、日本の活力は失われていきますから、経済的に余裕のある高齢者には応分の負担をしていただかなければなりません。
そのような課題を解決するためには、「公平・中立・簡素」という3つの原則を念頭に置きながら、国民全体が議論していかなければなりませんよね。
消費税10%で介護スタッフの賃金アップは実現するか?
みんなの介護 介護業界では人手不足に加えて、現場で働く人の低賃金も問題になっています。これから増える消費税収入が福祉財源に回されることによって、スタッフの賃金が改善されることはあるでしょうか?
土居 介護報酬は3年ごとに改定されますが、次の改訂は2021年度ですから、すぐに賃金が上がるというのは考えにくいですね。
ただ、消費税の増収分を活用して各都道府県に設置した「地域医療介護総合確保基金」の拠出は10%への増税前より増えるでしょう。これは、消費税の増収分を活用して地域包括ケアシステムや効率的で質の高い医療体制を構築するために設置された基金なのですが、それによって医療と介護の連携がさらに進み、介護業界の事業者が新たな取り組みをしやすいようになることは確かだと思います。
基金が対象となる事業に「介護施設等の整備に関する事業」や「介護従事者の確保に関する事業」も含まれているため、その事業の一貫として間接的に現場の人への処遇改善がなされる可能性はありますし、個人的にもそうあって欲しいですね。
もちろん、その取り組みは事業者だけでなく、各都道府県にゆだねられているわけで、さまざまなレベ ルで介護業界を活性化していこうとする努力が必要なわけですが…。



