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千葉”大停電”で顕在化、高度情報化社会の災害リスク 情報空白地帯と化した南房総 -吉田哲、川崎隆司 (Wedge編集部員)

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「4日振りに停電が復旧してテレビをつけたら、自分たちの地域のニュースが全く流れていなかった。こんな大変な思いをしているのに、世間には知られていないのかと落胆しました」

9月9日の未明に千葉県の房総半島南端から東京湾沿岸を北上した台風15号は甚大な被害を及ぼした。しかし、発災当初、房総エリアの深刻な状況が伝わっておらず、”情報空白地帯”と化していた。南房総市に住む青木多恵子さん(48歳)は当時を冒頭のように振り返った。


広い範囲で台風被害があった千葉房総半島。破損した家屋の屋根にはブルーシートが広がる(Wedge)

台風の影響で送電線をつなぐ鉄塔や電柱が倒れ、大規模で長期的な停電が発生し、それに伴い通信障害も拡大していった。自治体は被害状況の把握に手こずり、県との情報共有や災害対応が遅れていった。また、この背景には自治体合併といった行政の広域化による課題も浮き彫りにした。

高度に情報化された社会で情報通信インフラが寸断された場合、住民の安否や被害状況を把握するために、行政や地域はどう備え、行動すべきか。房総エリアの当時の状況や自治体の対応をたどりながら検証した。

停電で長期の通信断絶 高度情報化社会の脆さが露わに


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房総半島で台風がまさに猛威を振るっていた9日未明、鋸南(きょなん)町役場はすでに停電していた。自家発電で最低限の電源を確保したものの、雨漏りによる故障で固定電話が使えない。携帯電話も通じなくなっていた。衛星電話は屋外に出なければ使えないが、暴風雨の吹き荒れる外に出ることは考えられない。「外との連絡が全く取れない状況だった」と町職員は振り返る。その夜は、在庁する職員で避難所の設置など住民の安全確保に努めた。

朝になり、台風が過ぎ去っても、停電は続いた。庁舎も強風で窓が割れ、壁の一部がはがれ落ちた。携帯電話の電波は心もとないままで、職員間で満足に連絡が取れない。避難所に集まってきた住民の対応もあり、町内全ての状況把握に職員を当てることができなかった。

そこで町は、各地区の住民代表である区長26人に情報収集と提供を呼びかける”人海戦術”を選ぶ。ただ、電話がつながらず、各区長の自宅を訪ねたため「依頼するだけでも丸一日かかった」(町職員)。区長は町内約3700世帯をまわり、人的被害や住宅の損壊状況を確認。民生委員をはじめとする住民からの情報も合わせて、状況を把握した。すべての被災情報を町が把握するまでに5日間を要した。

平成の大合併で7町村が合併した南房総市では、さらに情報の把握に時間を要した。被災当初は、予備電源や自家発電により固定電話や携帯電話などで職員が連絡を取り合っていたが、10日頃から徐々に通信が途絶え始める。

固定電話はNTTの光通信、携帯電話は通信各社の基地局の電源が尽きたためだった。携帯大手3社は被災直後から移動電源車や可搬型基地局を派遣するなどして対応した。船舶型基地局を出し、海からの電波復旧という試みも見られた。しかし、「大規模で広範囲な停電のため、対応しきれなかった」と各社は声をそろえる。

災害に強いとされる防災行政無線は、中継局のブレーカーが故障しており、市内には本庁舎と六つの支所があるが、およそ半分のエリアでつながらなかった。職員は満足に連絡を取り合うことができず、「本庁舎の職員を各支所へ伝令のような形で向かわせるしかなかった」と市の担当者は話す。市内の消防団にも依頼し、団員928人が約1万7200世帯をまわり、住民の安否確認や家屋調査をしたが、状況把握できたのは被災から8日たった時だった。

災害時の情報伝達に詳しい東洋大学社会学部の中村功教授は、「インターネットや携帯電話が使えなくなることも想定し、情報伝達手段を多重化し、被災状況に応じて柔軟に切り替えていくことが必要。数キロしかカバーできない簡易無線もラストワンマイルを埋める情報伝達には有効だ」と話す。


(出所)各種資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

総務省によると、全国では、災害時に職員同士が連絡を取る防災行政無線(移動系)を整備しない自治体が増えている。中継局の整備や維持にコストがかかるためで、携帯電話の回線を使ったIP無線へシフトする傾向にあるとされ、ここ5年で200以上の自治体がやめている。財政状況を考慮しながら、通信の多重化をどう図るかが自治体共通の課題となっている。

「なんでも上げろ」では必要な情報は集まらない

では、千葉県による被災自治体の状況把握はいかなるものだったのか。県は台風上陸の9日未明から昼にかけて、市町村の避難勧告の有無や避難所の開設状況を中心に情報を収集。大規模な停電が起きていたことから、発電機や給水の手配を優先していた。

千葉県では、県と自治体、消防本部、県出先機関など関係機関をオンラインで結んだ「千葉県防災情報システム」が構築されている。気象や地震といった防災に関する情報をはじめ、けが人や家屋、道路などの被害状況も共有できる。

しかし、9日未明からの停電でネットがつながらなかった鋸南町は、一切の報告を県に上げることができなかった。また、南房総市では、9日はシステムにアクセスできたが、午前7時に避難所の開設状況を、午後0時40分に土砂災害警戒地域の解除の報告を上げるにとどまった。「毎日2回は情報システムに入れることになっていたが、報告事項がなく、県からの催促もなかった」と市職員は状況を説明する。なお、システムによらない9日の県への報告は、鋸南町が避難所開設のための発電機を近隣の県出先機関に要請し、南房総市もブルーシート4000枚を依頼していた。

「自治体には、わかる範囲であらゆる情報を入手した段階で報告してもらうことになっている」と県危機管理課担当者は話すが、あくまでも、被害状況は現場である市町村が県へ報告するのが前提であるとのことだ。

これに対し、防災プロセス工学を専門とする東京大学生産技術研究所の沼田宗純准教授は「『なんでも良いから情報を上げろ』と言われても、集めるべき情報がわからないと自治体は上げられない。被災している中、報告のための報告などしない。

あらかじめ集めるべき情報を県と自治体との間で『共通言語』として明確に定めておくことで、情報収集や報告はスムーズになり、その後の復旧や支援も先取りして決めていける」と日ごろからの認識合わせの意義を強調する。もっとも「全体の状況を把握することが目的ではなく、災害対応をするための情報収集と伝達でなければ意味がない」と「共通言語」の中身が重要だとも指摘する。

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