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突然のバグダディ容疑者急襲、トルコとアメリカに“密約”も? 安田純平氏「潜伏は不可能ではない」


 「アメリカは世界最悪のテロリストの指導者を処罰した」。日本時間の27日夜、ISの指導者・バグダディ容疑者が死亡したことを発表したトランプ大統領。

 トランプ大統領によれば、26日夜、米軍の特殊部隊がシリア北西部イドリブ県にあったバグダディ容疑者の潜伏先を急襲、トンネル内に逃げ込んだバグダディ容疑者を軍用犬が追い詰めたのだという。一部始終をペンス副大統領らとホワイトハウスの指令室で見守っていたというトランプ大統領は「我々は8機のヘリコプターで着陸した。飛行時間は1時間10分ほどで非常に危険な飛行だった」「トンネルの行き止まりに追い詰められた。泣き叫びながら、3人の子どもを死への道連れにした」、さらに「まるで映画のようだった」「今日の出来事は我々がイスラム国の残留テロリストを最後まで追い詰めることを改めて示すものだ」とアピールした。

 この発表を受け、菅官房長官は「中東地域の平和と安定に向けた重要な一歩と考えており、国際的な過激主義対策の成果の1つとして評価したい」とコメント、一方、ロシア政府系メディア「スプートニク」は「ロシア国防省はバグダディ容疑者の死亡に関する信頼でき情報は入手していない」と報じている。実際、会見で「DNAテストをしたのか」と問われたトランプ大統領は「それがこのメンバーの天才的なところだ。DNAは確保している。我々は事実確認のため現場で検査したところ、ものの15分で死亡が確認された」と説明。しかし、映像や物証などは公開されていない。


 これまでに何度も死亡説が流れ、その度に生存が確認されてきたバグダディ容疑者。アメリカ政府、トランプ大統領の意図とは。今後、ISは弱体化するのだろうか。

 アルカイダ系のテロリストとして活動していたバグダディ容疑者は、2013年にイスラム国の前身組織を設立すると、翌年にはイラクやシリアのラッカなど一部地域を支配下に置き、国家樹立を宣言。ネットで動画を公開して兵士をリクルート、テロ活動を呼び掛けた。また、日本人を含む多くの外国人を人質にし、ときには殺害する映像を公開して世界中に衝撃を与えた。しかし2年前、アメリカが支援する「シリア民主軍」によりラッカは陥落。その後も支配地域を失っていき、バグダディ容疑者らも逃亡生活を送っていたとみられている。

 また、最近ではラッカに潜伏しているとの見方もあったが、今回の軍事作戦が行われたのはイドリブ県の中でもトルコとの国境に近い場所であったことから、トルコに逃れようとしていたのではないかとの見方もある。さらにバグダディ容疑者はIS内での階級に不満を持った親族に裏切られたという話もある。その男によれば「糖尿病などを患い、最近は殺されるかもしれないとおびえていた」「側近5人と移動。携帯電話は使わなかった」「移動時はできる限り自爆ベストを着用」と話したという。また、居場所をイラク当局に提供したと見られている。


 シリアで武装勢力に3年4カ月にわたり拘束され、昨年10月に解放されたジャーナリストの安田純平氏は「何カ月も前から追跡していたようなので、時間の問題ではあったと思う。米軍がシリアから退くということで、クルドに対するトルコの攻撃などが始まった。これと関係してISの囚人が逃げた、あるいは逃げるのではないかという情報もあったので、うまくやっていることをアピールする意味では非常にタイミングがいい。むしろ“早くやれ”と指示をした可能性もあると思う」との見方を示す。

また、中東情勢が専門の高橋和夫・放送大学名誉教授は「私もそろそろかなとは思っていた。ただ、かつてISが支配していた地域ではなくて、いわば“あさっての方向”であるイドリブだったことには驚いた。なぜここにいたのか、何がこの裏にあるのかという疑問が残る」と話す。また、アルカイダから分裂し、自身を拘束していたフッラースッディーンという組織が匿っていたという見方もあることについて、安田氏はISと組むメリットがないと否定した。


 会見でトランプ大統領は「彼はめそめそと泣き、そして泣き叫んでいた」「彼は犬のように死んだのだ。彼は臆病者らしく死んだ」とも発言している。

 高橋氏は「彼を殉教者にしたくないということだ。人を罵る時に“お前は犬の子ども”というように、イスラム的にはあまりいい動物ではない。おそらくそういうことを踏まえ、周囲が書いたのだろう。撃ち合って死んだとなれば、ますます英雄になってしまうので、“銃を取って戦おうとしなかった”とも言っている。ただ、どうやって死んだかの説明はやはり必要だ。ビン・ラディンの時もそうだったが、あまりにも遺体が無惨な状況だとアメリカが批判されてしまうので、映像などを出していない可能性がある。あるいはトランプさんのことだから、今はカードとして持っておいて必要な時に出すというメディア戦略かもしれない」とした。


 今月6日にトランプ大統領がシリア撤退を表明して以降、9日にはトルコがクルド人の支配地域に侵攻、14日にアメリカがトルコへの経済制裁を発表(23日になり早くも解除)、17日にアメリカとトルコが軍事作戦の一時停止で合意。そして、26日のバグダディ容疑者への軍事作戦と、展開が非常に慌ただしい。こうしたことから、アメリカとトルコの間に何らかの密約があったのではないかと推測する向きもある。


 高橋氏は「トルコがシリア北部に入ってくることに対してアメリカはOKを出したわけだが、普通は外交で何か一つ譲れば、代わりに何か一つ欲しくなる。そこでトルコがアメリカなどに何を約束したのかということが注目されていた。もしかしたら、そこで今回の話があったのかもしれない。ただ、そうなるとトルコがバグダディ容疑者を匿っていたのか、という話にもなる。あれだけの騒ぎになったISの陰にトルコがいたとして脚光を浴びてしまうのはまずい。一方、アメリカ軍はトルコ国境のすぐ近くに基地があるにもかかわらず、わざわざ遠くのイラクのアメリカ軍基地から出動している。ビン・ラディンを殺害した時、パキスタンは隠れていたことを知らなかったと言い続けたが、パキスタンの軍事都市の真ん中で知らないはずないだろうということになる。トルコの諜報機関が仕切っている地域で潜伏を知らなかったというのは誰も納得しない。ラッカの方から移動するときにも、誰にも気付かれないということがあるのだろうか。トランプさんは“トルコ、協力ありがとう”と言っているので、どちらかかが嘘を付いているということだ」とする。


 他方、安田氏は「外出をせず、情報が出なければ潜伏は不可能ではないと思う。IS強かった頃は原油がアサド政権や他の反政府側にも流れるなど、物資は流れていた。うまく隠して抜けてきたという可能性もなくはないと思う。イドリブの先にあるのは海くらいだし、イラクに行けばサウジアラビアなどもある。この辺りの人たちは陸路で動いているので、砂漠の広いところへ行く方が都合の良いイメージはあるが、とにかく潜伏するために隠れやすい場所に行った可能性はある」との見解を示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:「下着」でバグダディ容疑者特定 DNAが本人と一致

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