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「満員電車は仕方ない」と受け容れる人の異常さ

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日本の都市部では当たり前の風景になっている「満員電車」。「仕方ないことだ」とあきらめている人も多いだろう。しかし、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「満員電車はどう考えても異常な空間。それを回避するための行動をなぜ取らないのか。思考停止ではないのか」と指摘する——。


※写真はイメージです - 写真=iStock.com/aluxum

逃げ場のない密閉空間、満員電車

季節柄、インフルエンザ関連のニュースを見聞きする機会が増えてきた。

昨今では、多くの企業において、インフルエンザに罹患(りかん)した従業員の出勤を禁止し、周囲に感染を広めないような取り組みがおこなわれている。もちろん会社にもよるだろうが、以前と比べて「インフルエンザにかかっていようとも、身体が動くかぎりは出社すべきである」と強要するような風潮は、かなり疑問視されるようになっているのではないだろうか。

ただ、企業や学校がどんなに対策を講じようが、個々人が感染予防を心がけようが、逃げ場がない空間がある。満員電車だ。さまざまな価値観を持ち、体格・体質・体調もバラバラである赤の他人が密閉空間にすし詰めとなり、拷問のような時間を過ごす。インフルエンザや風邪といった伝染性の病気にかかるリスクは格段にあがるし、心身ともに疲弊する空間だけに、ちょっとしたことで口論や暴力が発生しがちだ。

「異常な空間」と知りつつ乗っていることの異常性

大都市圏以外の人々はマイカー通勤が一般的で、満員電車に乗る機会はそれほど多くないだろう。そうした人にとってはあまりピンと来ない話かもしれないが、今回は「満員電車に乗らないことが、いかに自身の人生を幸せにするか」について考えてみたい。

このようなことを書くと、「定時出社するには、苦痛だろうとなんだろうと乗らざるを得ないんだよ!」「会社員の日常とは、そういうもの。外野から偉そうに指摘するな」といった反論が間違いなく飛んでくるのだが、「異常空間であると知りつつ乗っている状況のほうが、異常」という捉え方をしてもよいのではないだろうか。

自宅から会社まで、1時間40分の行程

私は新入社員時代、JR中央線の立川駅からJR山手線の田町駅まで通勤をしていた。自宅から立川駅までは2.5kmほどあるため、まずは最寄りのバス停まで歩くところから通勤が始まる。大動脈の立川通りは1車線のため、朝は渋滞することが多く、12分程度はバスに揺られて立川駅に到着。そこから満員の中央線に乗り、神田駅で山手線か京浜東北線に乗り換えて、ようやく田町駅にたどり着く。ドア・トゥ・ドアで片道1時間40分の行程だった。

当時、満員電車通勤のベテランである父親と、たまたま勤務先が同じ田町だった。彼は「中央線の終点である東京駅よりも、ひとつ手前の神田駅のほうが乗り換えはスムーズなんだよ」と、私に教えてくれた。「乗り換えで歩く距離は少しでも短いほうがいい。これはワシが編み出した通勤術じゃ、ガハハ」と笑っていた。実にいじましいライフハックだが、つまりは、それほどまでに満員電車通勤は苦痛なのだ。

満員電車では、入り口近くに陣取ってしまったら、他の乗降客の動線をふさがないよう、駅に止まるたびいったん外に出なくてはいけない。運よくつり革をつかめたとしても、目の前の座席で気持ちよさそうに寝る人が途中で降りてくれることはめったになく、目的の駅に着くまで、ずっと立ちっぱなしということがざらにある。

満員電車のストレスに蝕まれる人々

揺れる車内はまるで“押しくらまんじゅう”のような状態になるし、口臭や体臭の強い人、多汗の人と密着することも少なからず発生する。女性と隣り合った場合には、とにかく手が女性の尻や胸に当たらないことを最優先に考え、無理な姿勢でもひたすら我慢することになる。なにより、狭い空間に人が密集しているがゆえの「圧」がすさまじく、全方位から荷重がかかり、身体のどこかにずっと痛みをおぼえたまま過ごすのが当たり前なのだ。

鉄道各社が、通勤ピーク時の過剰な満員状態を少しでも軽減すべく、最大限の努力をしているのは重々承知している。また、東京都など行政が主導する形で、時差通勤を推進しているのも事実だ。しかし現実には、相変わらず満員電車に揺られて通勤している人が大多数であり、それが大きなストレスとなって人々を蝕(むしば)んでいるのである。

「異常な状態は変えなくてはいけない」という教え

先ほど、満員電車は「異常」と述べたが、これを初めて指摘されたのは予備校の講師からだった。私が大学受験のために通っていた予備校の最寄り駅は、小田急線の東北沢駅もしくは京王井の頭線の池ノ上駅だったが、どちらも朝は超満員状態である。

くだんの予備校講師はこう言った。もう27年も前の話だ。

「キミたちは無自覚のうちに、世の中のいろいろなことを『そういうものだ』と受け入れてしまっているだろうが、それではいけない。たとえば、満員電車。今朝もあの満員電車に乗ってここに来たと思うが、あれは異常である。異常な状態は、変えなくてはいけないのだ」

「そういうもの」と思考停止にならず、異常だと感じるものに対しては「異常だ」と声を上げ、改善するための努力をしなければならない──そう教えたかったのだろう。

東京一極集中により首都圏の人口は膨張の一途をたどり、多過ぎる人々を決まった時間に運ぶには満員電車にならざるを得ない、という概況はわかる。だが、「そういうもの」と受け入れるしかないのだろうか。私は、違うと思う。

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