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【読書感想】世襲の日本史: 「階級社会」はいかに生まれたか

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 それでも、なんらかの形で血縁がある人を優先してきたのは確かではあると思います。

 ただ、「血縁よりも、家の後継者として認められること」のほうが優先されてはきたのでしょう。

 あらためて考えてみると、今の日本では、江戸時代以前よりも「血のつながり」が重視されていて、その一方で、一夫一婦制を厳守しなければならないのですから、天皇家が血縁での代替わりを維持していくのは大変ですよね……

 そのうえ、「男系」の縛りもあるのだから。

 この本では、「なぜ、北条氏は、鎌倉幕府の実権を握りながら、将軍にならなかったのか」というような、日本史を学んだ人なら一度は疑問に思うはずのことについても、著者なりの答えが示されています。

 序章で見たように、鎌倉幕府を開いた源頼朝も征夷大将軍という「地位」にはこだわっていませんでした。実際、将軍になって二年後にその「地位」を返上しているからです。

 しかし、北条家の場合はこだわっていないというより、むしろ避けているような印象さえあります。というのも、北条家は位階でいうと、三位以上には決してなりませんでした。三位以上を公卿と言います。一流の貴族の証しです。つまり、北条家は公卿には決してなろうとしなかったということです。中央貴族にならず、中央貴族の下の四位の位階までしか持とうとしなかったということです。明らかに自覚的にそうしたのだと思います。

 たとえば源実朝が死んだあとに連れてきた将軍は摂関家からでした。朝廷の家来の中でも一番上の摂関家から連れてきた四代目将軍の息子が五代目将軍です。さらに六代目となると、それ以上、つまり皇族から将軍を連れてきました。

 そして将軍がある程度の年齢になって、「俺は将軍なのだから、いろいろやりたい」と言って権力に目覚めると、すかさず京都に送り返し、あくまでも将軍という形だけの「地位」に押しとどめたのです。そして自分たちが実権を握るのですが、北条家は絶対に三位以上を望まない、公卿にはならないということを徹底しました。ここには中身が空っぽの「地位」より「家」の繁栄という実を重視する、北条家のしたたかな戦略が見え隠れしています。

 こうした姿勢に対して、『神皇正統記』を書いた北畠親房は北条家を非常に高く評価します。「彼らは分際をわきまえている」と言うわけです。武士の分際をわきまえて、四位以上になろうとしなかった。だから彼らは優れていると言います。

 北条家のトップが地位を積極的に望めば、当時の力関係から、朝廷も、少なくとも三位以上には任じたはずです。

 でも、北条家は、ずっとそうしなかった。

 「分際をわきまえていた」と北畠親房は評価していますが、著者は「空っぽの地位でも、それをめぐって争いになることは少なくないから、そういうリスクを避けたのではないか」と述べています。

 実権はこちらにあるのだから、あえて「名」を追って反感を買う必要はない、ということだったのかもしれません。

 とはいえ、人は「名」を求めてしまいがちなものですから、北条家は、よくその自制心を受け継いでいったものですね。

 著者は、日本の歴史のなかで「世襲」という観点から見ると、明治維新はきわめて大きな変化だった、と指摘しています。

 このとき、いわゆる明治の元勲たちは、自分の地位を子孫に世襲することはほぼ行いませんでした。個人の財産は別ですが、地位はほとんど世襲していません。つまり能力主義が徹底されたのです。そもそも彼ら自身が才能を頼りに、下級武士から昇り詰めたような人たちでした。西郷隆盛は、「子孫に美田を残さず」と言いましたが、まさにその通りのことをしたのです。

 この時代の政治は、薩摩藩や長州藩出身の人間が要職を独占する「藩閥政治」であると、批判もされることがありますが、実際にはオープンでした。革命政府だったので、スタートこそ薩長で占められたものの、次の世代からは、旧幕臣、旧佐幕派出身の優秀な人材がどんどん採用されていき、実際の政治を動かしていました。この辺りのことは、人事を見ていけば明らかです。

 したがって、このように「地位より家」ではない社会が一時的に存在したのです。とにかく「家より才能」であり、その才能と努力で獲得した「地位」には非常に価値があるとされました。このとき、合い言葉になったのが「立身出世」です。立身出世をかけ声に全国の才能を東京に集めて、それで国を豊かにするのだという発想が共有されました。

 明治維新、明治政府というのは日本にとって例外的な存在であって、だからこそ、いまでも「明治日本」を称賛する人が絶えないのでしょう。

 逆にいえば、日本では「非常事態」でないかぎり、「実力主義」よりも「世襲」のほうが色濃くて、現在も、まだ「平穏な時代」なのかもしれません。

 なんのかんの言っても、みんな「政界のサラブレッド」みたいな人に反発と同時に憧れを抱き、選挙でも投票しがち、ではありますし。

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