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一億総ポイント社会 - 中村十念

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はじめに

消費増税不況回避策として、ポイント還元策に多額の国費が使われている。

それを機に、一億総活躍社会構想は、一億総ポイント社会構想に変わってしまったかに見える。この問題を概観してみたい。

1.キャッシュレス・ポイント・ビジネスのスキーム

(1)政府が乗ったのは、キャッシュレス・ポイント・ビジネスである。そのスキームは次のようなものある。

①まずキャッシュレス・ポイント運営会社(以下、運営会社)は、キャッシュレス・サービスを利用する加盟店を募集し、決済額に応じて支払う決済手数料率等を契約する。(手数料率は運営会社によって違うが概ね2~3%)

②加盟店はレジ等の投資を行い、実行環境を整える。

③キャッシュレス・ユーザー(以下、ユーザー)は、スマホやカードを通じて申込手続きを行い、購入金額を運営会社にキャッシュレス払いする。

④滞留日数をおいて、運営会社は加盟店に決済手数料を差し引いた購入金額を振り込む。

⑤運営会社は決済手数料の中からポイント還元を行う(還元条件は運営会社による。通常シーリング [上限] がある)。

⑥ユーザーは、後日買物を行う際ポイントを使うことが出来る。

(2)上記ビジネス・スキームの特徴は次の通りである。

①加盟店の決裁手数料がなければ成り立たないビジネスである。決済手数料は店からすれば値引きと同じ。値引き率としてはチラシやD.M.などのマーケティングコストと比較しても決して小さくない。現金取引ではないので、加盟店のキャッシュフローは悪くなる。

②加盟店は実行環境を整えるのに、レジ投資等が必要となる。(扱う運営会社が増えるに従い、レジ投資等は数万円単位で増える。)メインテナンス料などもバカにならず、固定費は上昇する。

③ユーザーにつくポイントの原資は自分のお金である。誰かが払ってくれている訳ではない。

④ユーザーが使えるポイントは、シーリングがあるので店頭での宣伝ほど実際は大きくない。ポイントで金持ちになった人はいない。

⑤ユーザーは、知らず知らずのうちに、自分の買い物情報を収集されている。

⑥追記:政府が行うポイント還元についての留意点は、次の通り。

政府がユーザーにポイント還元するのではない。ただし運営会社は、2019年10月から2020年6月まで、自社分とは別に政府仕様のポイント制度を特別に設けることになる。政府は特別制度で発生する上記(1)-⑥で述べた後刻のポイント買物に使われる運営会社の支出を補填しているだけ。つまり運営会社への補助金である。(特別制度のポイントは全て使い切られる前提。未消化ポイントが発生すれば、その分運営会社は濡れ手で粟となる。)

2.ビジネススキームの市場性

次にキャッシュレス・ポイント・ビジネスの市場性を検討してみる。

(1)市場収益性の前提となるのは市場の成長である。スマホ決済市場は2019年の0.6兆円から2025年度には8兆円になると日本能率協会が予測した。その論拠の拠りどころは、我が国のキャッシュレス比率の急上昇予測である。現状の約20%が数年後には40%になるという。この予測を宛にして20社を超えるキャッシュレス運営会社が参入している。

(2)決済手数料の平均を2%と考えて、予測が全て当たるとしても数年後の業界全体の売上は1,600億円である。

(3)決済にかかる費用をザッと見てみる。システム構築にかかる減価償却費が相当大きい。控えめに見ても1社当たり年に100億円はかかるだろう。費用やセキュリティコスト・保険料や人件費などの固定費が減価償却費と同程度は必要かもしれない。

(4)それに加盟店囲い込みの費用が相当かかっている。加盟店手数料や銀行振り込みを0にするなどの過当競争が代理店を巻き込んで繰り広げられている。ポイント還元の費用もかかってくる。変動費が売上の3~4割はかかるのではなかろうか。

そうなると、1,600億円の市場規模で生き残れる会社は極わずか。多くの会社が潰れることになる。

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