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『なぜ倒産、平成倒産史編』転ばぬ先の杖

「敗軍の将、兵を語る」は日経ビジネスの人気の連載だ。Googleで「敗軍の」とうつと、「敗軍の将は兵を語らず」よりも上位に「敗軍の将は兵を語る」という言葉が候補としてでてくることからもその人気ぶりがうかがえよう。倒産に追い込まれた経営者たちが、外部環境の荒波にもまれた不遇、本人としてはあと一息のところで資金がつきた無念、己の力不足への悔恨の念、などを赤裸々に語る様は、勉強になるというよりも、濃厚な短編ノンフィクションとして、読み応えに溢れ、ついつい引き込まれてしまう。

「敗軍の将、兵を語る」が倒産に対してミクロの視点で切り込むのに対して、東京商工リサーチの全国企業倒産状況というページはマクロの視点で倒産についてのデータと分析が惜し気もなく提供されており、こちらも大変興味深い。

2018年の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は8,235件、負債総額が1兆4,854億6,900万円だった。

倒産件数は、前年比2.0%減(170件減)。2009年から10年連続で前年を下回り、過去30年では1990年(6,468件)、1989年(7,234件)に次いで3番目に少ない水準だった。

平成は2008年のリーマンショックをピークに倒産件数と負債総額が減少傾向にあるものの、昨年の倒産件数は8,235件と決して少ない数ではない。

業種別にみると、建設業や製造業が減少傾向にある中、サービス業の倒産件数が横這い傾向にある。産業のパラダイムシフトが同時進行で進んでいることが見て取れて興味深い。

さて、前置きが長くなったが『なぜ倒産、平成倒産史編』を今回は紹介したい。

なぜ倒産 平成倒産史編
作者: 日経トップリーダー,帝国データバンク,東京商工リサーチ
出版社/メーカー: 日経BP
発売日: 2019/08/08
メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 本書は平成に発生した24の倒産の事例を紹介し、何がその倒産のトリガーとなったのかを編集者が考察するという形をとっており、上述の2つの丁度間の立ち位置をとっている。具体的な事例を後から振り返って客観的に分析しているので、ポイントが大変わかりやすい。

本書で紹介されるよう倒産の原因は凡そ下記の5つに集約される。

・新商品が不発で、過当な価格競争に巻き込まれた
・特定の取引先への過度の依存し、そこから脱却できなかった
・環境変化への対応並びに経営改革が推進できなかった
・逆風の中、経営幹部、もしくは現場をまとめることができなかった
・過剰投資により財務体質が大幅に悪化してしまった

成功事例は再現性が低いが、失敗事例は再現性が高い。言い換えれば「成功はアート、失敗はサイエンス」

というのが本書の持論であり、過去に学べば倒産を回避する可能性は高まるという。しかし、本書で紹介される企業が倒産していく様をみていくと、私には「失敗はサイエンス」という言葉が強すぎるように思う。「失敗は成功よりも科学的であるがアートであることに変わりなし」という方が私にはしっくりくる。

倒産した会社を倒産すべくした倒産したと断じるのは簡単だ。だが、環境変化に対応するために積極果敢に投資をした結果「過剰投資による財務投資の悪化」となるケースもあれば、堅実な事業運営をしつつも積極策が打ち出せずに「環境変化への対応が遅延してしまう」ということもあり、「こうすれば失敗しない」という黄金律は経営にはない、という思いが本書を読んで強まった。環境変化が起きたタイミングというのも、インテルのアンディ・グローブは「変化のおきた正確な瞬間は終わったあとでもわからない」と下記のように語っている。

インテル戦略転換
作者: アンドリュー・S.グローブ,Andrew S. Grove,佐々木かをり
出版社/メーカー: 七賢出版
発売日: 1997/11
メディア: 単行本
購入: 6人 クリック: 78回
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振り返ってみても、コンピューター業界にいつ戦略転換点が訪れたのか明確にわからない。<中略>

私の頭の中にはコンピューター上で人の顔を別の顔に変えていく「モーフィング」のイメージが浮かんでくる。一つの顔がいつ消えて、それに代わる顔がいつ表れたのか、正確な瞬間を示すことはできない。ただわかるのは、初めに一つの顔があって、最後には別の顔があるということだけだ。どのあたりでどちらの顔により近かったかはわからないし、終わってから考えてみても、やはりわからない。

『インテル戦略転換』  〜第三章 P.53〜

 とは言っても、本書はわかりやるい答えを与えてくれるわけではないが、特に中小企業の経営者にどこに落とし穴がありそうなのかについては教えてくれる非常に有用な書だ。また、私的整理、民事再生法、破産などの業績不振に陥った際の手段がまとめられている第8章「倒産というカード」の切り方は全ての中小企業経営者が把握しておく内容だと思う。転ばぬことまでは保証はしないが、転んだ場合の転び方まで指南してくれる本書は中小企業経営者にとっての転ばぬ先の杖と言えるだろう。

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