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日本酒がフランスで人気を集め輸出額が5年間で3倍に増加 背景に美食を愛する立役者たちの活躍

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健康志向のフランス料理界で、今後ポテンシャルを発揮していく日本酒

飲み方に加え、フランス料理界が健康志向に変化したことも、日本酒を広める追い風になった。

「今、シェフたちは、勉強のために日本食レストランに通っています。バターやクリーム、油の代わりに、美味しさを出すために、だしや醤油、味噌などの発酵食品で補う。前菜に、このように旨味や酸味も取り入れて軽くするのが、フランス料理界の新しい傾向です」宮川氏は、こう話す。

一方で、料理が変化したことで、ソムリエたちにとって、マリアージュにぴったりのワインを見つけることが困難になった。

例えば、7つの要素「う・に・たまご・く・さい・から・よ」とのペアリングは、ワインが苦手な食材である。これは、「う(旨味)、に(苦味)、卵(魚、鶏、マヨネーズ)、く(燻製)、さい(酸味)、から(辛味)、よ(貝類、海藻類などのヨード香)」だ。しかし、日本酒とは相性がいい。

宮川氏は、こう付け加える。「油がない料理と共存してきた日本酒は、今後のフランス料理界で、ワインに代わるお酒として大きな可能性をもつ。それをソムリエに、シェフとお客様の橋渡しとして伝えて頂くことこそが重要な意味を持ちます」

獺祭に恋に落ちた故ジョエル・ロブション氏

現時点では、フランスでの日本酒の販売場所は、大多数が日本食レストランだ。しかし、前出のように日本酒を取り入れる、シックで高級な星付きフランス料理店が増えている。

なかでも、日本と縁深いフランス料理の巨匠、故ジョエル・ロブション氏は、旭酒造の代表銘柄で最高級日本酒「獺祭」を飲んだ時に、あまりの美味しさに「恋に落ちたように」感動したという。その後、2018年に「Dassaï Joël Robuchon(獺祭・ジョエル・ロブション)」をパリにオープンさせた。

2018年、パリにオープンした「獺祭・ジョエル・ロブション」=Kô Oda

1階は洋菓子やパンを販売するブティック、2階はバーとティーサロン、3階はレストランという構成だ。ブティックでは、獺祭やその酒粕を使ったケーキやマカロン、宝石のように輝くチョコレートが並ぶ。

獺祭やその酒粕を使用した洋菓子=筆者撮影

バーでは、獺祭を使用したカクテルなども提供。レストランでは、和食やフレンチと獺祭のマリアージュが楽しめる。

お肉のエノキとインゲン巻き、照り焼きソース添えと、「獺祭磨き二割三分」のマリアージュ=Yurina Niihara

ジョエル・ロブション氏に「獺祭・ジョエル・ロブション」を任されたエグゼクティブシェフ、ファビアン・フランソワ氏はこう語る。

「日本酒を初めて飲んだ瞬間、感動しました。とてもエレガントなお酒で、多くの食材と相性がいい。獺祭は、ワインよりもフランス料理とペアリングしやすいと感じています。牡蠣、フロマージュ、フォアグラなどとも相性がいいのです」

「獺祭・ジョエル・ロブション」、エグゼクティブシェフのファビアン・フランソワ氏=筆者撮影

ゲストの反応は、「美味しい」、「ワインみたい」と、それまで思い描いていた「SAKE」の味との違いや意外性に驚き、ファンになる人もいるという。

「自分のスタイル」を確立し、欧州市場に切り込む蔵元

現地で日本酒の文化と美味しさを広める仕掛け人たちの取り組みが成果を生む一方で、日本の蔵元は、どのようにフランスのアルコール飲料市場に打って出るのか。

パリで欧州最大級の日本酒の見本市「サロン・デュ・サケ」が、10月初旬に開催。2013年から開催される同見本市には、昨年度は42カ国から約4600人の日本酒愛好家やソムリエなどが来場し、約500種類以上の日本酒が出品された。

欧州最大級の日本酒見本市「サロン・デュ・サケ」=Salon du Saké

日本酒の魅力を世界へ伝える熱意をもとに、英語での日本酒メディアや酒造ツアー、海外への日本酒の販売など複数の事業を展開する会社が、「サケ・エクスペリエンス・ジャパン」だ。

日本酒の開発もしている同社は、富士山系の伏流水を用いて酒造りをする2軒の酒造と提携し、複数の日本酒をブレンドして製造した「ホクサイ・アッサンブラージュ 2019(250ユーロ=約3万円)」を出品した。

代表の井谷健氏は「フランス人はまず、値段を聞かずにコンセプトを問う。コンセプトを説明したら、値段設定にも納得してくる人が多い」と話す。パッケージに葛飾北斎の「怒涛図(男浪/女浪)」を活用し、意匠を借りた長野県小布施にある“北斎館”に対しては、文化財維持の為に販売価格の3%を支払っている。そんな「文化を尊重する姿勢」にも、来場者は感銘を受けたという。

「サケ・エクスペリエンス・ジャパン」代表の井谷氏(右)とマーケティング担当役員の加藤氏(左)=筆者撮影

信州諏訪で350年以上醸される銘酒「真澄」の蔵元、宮坂醸造の宮坂勝彦氏は、今回の見本市で「アイデンティティと、スタイルを見られていると強く感じる」と話す。同氏は、「流行りの味わいや、それを造るための製造手法を真似して追うのではなく、 自らのブランド・アイデンティティを認識し、それを表現する酒質を確立することが大切。その過程がなければ海外だけではなく日本国内でも真の意味でのブランド、そしてファンは生まれない」と語る。宮坂醸造は現在の取組のテーマを「原点回帰」とし、同社諏訪蔵で昭和21年に発見された協会七号酵母を使用した酒造りへと特化しているという。

「宮坂醸造」の宮坂勝彦氏=筆者撮影

また、フランス南東部ローヌ・アルプ地域で酒造りをするのが「昇涙酒造」だ。地元ピラ山の湧き水と、日本から輸入した酒米を使用し、酒を醸している。蔵元のグレゴワール・ブッフ氏は、「現在、30%の酒を日本に輸出、70%の酒をフランスで販売しています。私たちの酒は燗酒にも向いている。こうした日本酒の飲み方の魅力もフランスで伝えていきたい」と意気込みを語った。近年、欧州ではこのように“現地”で酒造りをする酒蔵が見られるようになった。

フランス南東部で酒造りをする「昇涙酒造」のグレゴワール・ブッフ氏=筆者撮影

各蔵元の声を聞くと、見本市では全体的にスパークリング日本酒や吟醸酒などが好評だったという。しかし、日本酒の品質と同様に、歴史や文化を尊重している点、そして「個性」を持つことが重視されていたのではないだろうか。

最後に、宮川氏はこう付け加える。

「日本酒がフランスで評価されることで、蔵元の喜びに繋がっていく。そして、日本酒を通して世界から日本を元気にすることこそが喜びであり、私のミッションなのです」

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