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特集
ネットメディアの現在地
2009年10月にスタートしたBLOGOSは、今月10周年を迎えました。そこで今回の特集は「ネットメディアの現在地」と題して、業界のキーマンたちの声を集めました。みなさんが普段触れているネットメディアやプラットフォームがいまどのような課題を抱え、未来を描いているのか。ぜひ覗いてみてください。

コストのかかる調査報道をどう維持する? 瀬尾傑氏に聞く「オープンジャーナリズム」の可能性

  • 2019年10月28日 11:58
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政治家の汚職を暴くなど、ときに社会に大きなインパクトを与える「調査報道」。まさにジャーナリズムの王道だが、近年はマスメディアでも簡単にはおこなえない手法のひとつになってきている。そんななか、ニュースアプリ「SmartNews」を運営するスマートニュース社は調査報道を支援する子会社「スローニュース」を設立、すでに複数の団体をサポートしているという。代表の瀬尾傑氏に、調査報道に注力する理由を聞いた。

必要性はあっても、「調査報道」が難しい理由

——最初に、スローニュースの活動について教えてください

スローニュースはスマートニュースの子会社として今年2月に設立しました。ジャーナリズムの中でももっとも重要とされている調査報道を支援し、次々に調査報道記事が生まれる環境づくりに寄与することが目的です。現在、6月に支援プロジェクトを開始して、表に出ているのものでは2つの団体を支援しています。

ひとつはフロントラインプレスというジャーナリストの独立ベンチャー。ここは元北海道新聞の高田昌幸さんという新聞協会賞も受賞したことのある記者が始めたグループで、フリーランスのジャーナリストなどが集まって調査報道をおこなっています。もうひとつはメディカルジャーナリズム勉強会という、NHKディレクターの市川衛さんを中心に運営されている、もっとも信頼性が重要視される医療に関する報道について考えるグループです。

スローニュース株式会社代表取締役の瀬尾傑氏

このうちフロントラインプレスに関しては、東洋経済オンラインで、選挙資金に関する問題点を指摘する記事「国会議員268人の選挙『余剰金が行方不明』の謎」をはじめとする7本の記事を掲載しています。

——調査報道の必要性は、メディアでもたびたび議論になります

調査報道は社会的インパクトは大きいですが、取材そのものは難しく、時間も費用もかかるので、簡単にはできないという問題がありますね。これはネットだけではなく、新聞や雑誌でも同じです。

日本の調査報道には2つの流れがあって、ひとつはかつてのリクルート事件などに代表される、新聞社やテレビ局が手がけていたようなもの。もうひとつは、古くは立花隆さんの「田中角栄研究」のような、フリーランスがおこない、出版社が資金面と発表の場を提供して支えていたものです。

このうち後者については、雑誌やノンフィクションの書籍が売れない時代になって、ビジネスとして成立しづらくなってきました。私はかつて講談社で「現代ビジネス」というネットメディアを立ち上げましたが、その少し前には、講談社の月刊現代や、朝日の論座など、月刊誌が廃刊になっていきました。このような流れのなかで、フリーランスが活躍する場として、ネットを雑誌の次にしたいと思っていたんです。

高度な取材をおこなうスキルを持った人材の確保が課題に

——数年前には「ネットメディアも調査報道を」という声はありましたが、徐々に小さくなってしまいました

調査報道をしようと思うと、取材する側にスキルが必要です。専門的な取材をしなければならないので、新聞記者でもその能力を持つ人は多くありません。ネットメディアに多い、取材経験の浅い人がにわかに取り組んでもなかなか形にはなりにくいですよね。

——いまのところ、本格的な取材経験者については、ネットで育てるというよりも、マスメディアから獲得してくるという形になっています

現状、そうならざるを得ないと思います。また、調査報道は1人で完結するものではなく、複数の人間を同時に動かす必要があります。そうしたチームを作るための余裕も、ネットメディアにはまだないように思います。

人手と時間をかけたチームで取材することで、より正確で深い取材ができる。つまり、体制が記事の品質にも直結してくるわけです。このようなチームでの取材経験を積むことで人材が育っていくのですが、ネットではそれもなかなか難しい。

——とはいえ、世の中の流れ的には、新聞社でおこなうようなハードな人材育成はしづらくなってきている側面もありますね

新聞的徒弟制みたいなものが時代に合わなくなっているというのも事実だと思います。これは日本のジャーナリズムの問題点のひとつでもあるのですが、新聞社も出版社も、人材育成は社内のOJTがメインです。しかし、その閉鎖的な教育システムが時代の変化に対応できなくなってきている面がある。今後は個別の企業に任せるのではなく、大学や、メディア企業が共通で人材を育てていく枠組みを作る必要があります。

アメリカだと、有名なコロンビア大学のジャーナリズムスクールをはじめ、各大学に取材の方法論を教えるスクールがあります。日本にはそのような共通インフラとしての教育機関がありません。

スローニュースが推し進める「オープンジャーナリズム」の可能性

——体制面でも人材面でも、なかなかいまの日本のネット専業メディアが調査報道をおこなうのは難しいということでしょうか

残念ながら、今のままでは厳しいのかなと思っています。ただ展望はある。私は、ネットメディアには単に発表の場が変わったというだけでなく、これまでの新聞や雑誌とは別の記事の作り方ができると思っています。雑誌は部数を売らなければいけませんが、ネットメディアにはページビューとは別のエンゲージメントを示せる可能性があります。


スローニュースが関わったコンテンツでは、すでにそういうチャレンジを始めています。前述の選挙資金に関する記事は、もしこれを従来メディアでやるとなると、部数に直結する「政治家の首を取る」ことを目標に、個人のスキャンダルを取り上げた記事になってしまう。しかし、私たちが考えるジャーナリズムの目的は個人を指弾することではなく、社会制度を変えることです。そのため、なるべくセンセーショナルな作りは避け、制度の問題を指摘するようにしています。

また、先日セミナーでフロントラインプレスが、さきほどの選挙資金報道の記事をどう作ったかを公開しました。従来のジャーナリズムでは、取材の方法論についてはクローズにすることが一般的でしたが、オープンにして、たとえば地方の首長や議員についても各地のジャーナリストに調査してもらえればと思っています。このような、オープンジャーナリズムという手法を進めることで、社会を変えるような、より大きな力を育てられると考えています。

——取材手法の公開は珍しい取り組みですね

はい。私たちは「協力」ということを重要視しているんです。そのため、スローニュースでは記事の独占性にこだわることのないよう編集部機能は持たず、自分たちは記事を作らないというスタンスを取っています。今後も、新しいメディアと新聞社や出版社が協力できるような体制づくりを支援していくつもりです。

——逆にいうと、これまではあまりジャーナリストやメディア企業間でつながりがなかったということでしょうか

個人のジャーナリスト同士でのつながりはありましたが、会社としてのつながりはあまり例がなかった。そうしたこれまでの慣習を超えて、リアルなネットワークを構築していく。ネットはそれを実現するためのツールのひとつとして、リーチ力やオープン性を活用していきます。

問題は、こうした仕組みを、今後どうエコシステムにしていくかです。たとえばエンジニアやデータサイエンティストとも協力しながら環境作りをしていくとか、そうしたことが課題になってくると思います。

海外では当局による規制も ネットメディアは新たな指標を模索すべき

——従来のマスメディアが厳しくなっていくなかで、ネットメディアは社会的責任をどう果たしていくのかという声もあります。これについてどう考えていますか

まず前提として、新聞やテレビが今の形でそのまますべて残るとは思いませんが、ちゃんとした取り組みをしているところは残ると思います。そういうところをどう支えていくかというのは、メディア業界全体の重要な課題です。

その上で、今後ネットメディアは、取材に時間をかけた、社会的役割を果たしているような記事が高く評価される仕組みを作るべきだと思います。やはり、ページビューやインプレッションだけでなく、「信頼」というものをどう評価していくかというのは大きな課題ですよね。


先月、アメリカのニューオーリンズで開催されたオンラインニュースのイベント、ONA(Online News Association)に行ったんですが、そこでも「Trust」ということが大きなテーマになっていました。去年は「トランプとどう戦うか」というような話が多かったので、これは大きな変化だといえます。その中では、どうやって自分たちは読者から信頼される報道をおこなうのかという議論がされていて、「選挙報道は今のようなやり方でいいのか、もっと冷静に報じたほうがいいのではないか」ということが、事例を用いて話されていました。

このことからわかるのは、メディアの信頼性をどう高めていくかというのは、日本だけではなく世界全体で共通の課題だということです。

そこをないがしろにしていると、大きなしっぺ返しを食うことだってあり得る。多くのネットメディアを支えている広告ビジネスにしても、信頼の上に成り立っています。しかし、アドフラウドや信頼できない広告が増えることで、ユーザーにはアドブロックが導入され、海外では個人情報を保護するためのGDPR(General Data Protection Regulation)も含めた当局による規制が出はじめています。読者を傷付けているとか、社会制度を毀損していると思われると、そういう動きは避けられません。

こうした大きな流れのなかで、ネットメディアも、どうやって読者に信頼できる情報を届けていくのか、そのことによってどのような価値を生み出すのか、ということに、真剣に、かつ早急に取り組まなければいけないと思います。

プロフィール
瀬尾 傑(せお・まさる):1965年、兵庫県生まれ。同志社大学卒業。88年 日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 経営企画室、『日経ビジネス』編集部など を経て退職。 93年 講談社入社。 『月刊現代』、『FRIDAY』、『週刊現代』各編集部、ジャーナルラボなどを経て、『現代ビジネス』創刊編集長、第一事業戦略部部長などを歴任。2018年8月にスマートニュースに入社、同年8月に設立した『スマートニュース メディア研究所』の 所長に就任し、ジャーナリズムの発展や調査報道の支援に従事。19年2月にスローニュース株式会社代表取締役を兼職。19年4月より、インターネットメディア協会代表理事を務める。

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