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【読書感想】狂気の科学者たち

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 ソ連では、サルとヒトとの交配実験も行われていたそうです。

 全宗教を弾圧するほど反宗教的だったソ連政府は、もしヒトとサルの交配に成功すれば非常に大きな象徴的意味があると考え、イワノフに研究資金を提供した。これはアメリカのキリスト教原理主義者が、人類とサルの進化上の関係を示唆するものに敵意をむきだしにした「スコープス裁判(サル裁判)」(1925年、公立高校で進化論を教えることを禁止したテネシー州の法律に違反した教師、ジョン・スコープスに対して行われた宗教と科学を巡る裁判)が起きてから、まだ2年もたっていないころのことだった。ダーウィンの進化論を支持するマルクス主義者だったソ連の指導者たちは、アメリカのキリスト教原理主義者たちに”サル人間”を見せつけるというアイデアに飛びついた。

 冷戦時代は、ソ連もアメリカも、相手を出し抜くためならなんでもやろうとしていたのです。

 この「サル人間計画」はさまざまなトラブルがあって、結局成功はしていないのですが、著者は、成功の可能性があったかどうかについては、考えを保留しています。

 アメリカ陸軍は、1960年代前半に、「平均的な兵士が自分は死ぬと思った時点で、どれだけ行動に悪影響が及ぶか、また恐怖心をかき立てられるような状況下でも、効率よく行動するための技術を兵士が習得できるか」を知るために、心理学者のミッチェル・バークンらに依頼して、こんな実験をしています。

 研究者たちが考案した最初の恐怖喚起状況は、世にも恐ろしい空飛ぶ実験室だった。兵士の一行を乗せた小型プロペラ機が巡航高度に達すると、突然機体が傾き、プロペラが失速する。ヘッドホンからは、管制塔と通信するパイロットの声が聞こえる。「何かおかしい。緊急着陸が必要だ」。飛行機は空港に引き返すため旋回する。地上で待ちかまえる救急車と消防車が兵士の目に入る。この時点で、恐怖心の塊が兵士たちののど元まで込み上げてきているはずだ。だが、ここから事態はさらに悪化する。着陸装置が作動しないため、海上に不時着水させるとパイロットが告げるのだ。

 恐怖を喚起する状況を作り上げたところで、次に研究者たちはその状況下での兵士たちの能力を測定するタスクを導入する。やや場違いだが、これは保険の申込書に必要事項を記入するというタスクだった。スチュワードが用紙を配りながら、軍の手続き上、全員がこの申込書に記入する必要があると説明した。全員が亡くなった場合に備えて、軍としては確実に損害を補填できるようにしておきたいというのだ。申込書は小型の缶に入れて、胴体着陸する前に投下するという。

 言われたとおり、兵士たちは座席で前屈みになりながら、鉛筆を片手に難しい法律用語の解読に取りかかる。「この申込書の文章を理解するのはかなり難しい」と思ったに違いない。彼らは死が差し迫っていて集中できないため、難解に感じるのだろうと思ったかもしれないが、実は、この用紙はわざとわかりにくく書かれていた。研究者たちに言わせれば、これは「人間工学を無視した意図的悪文」だった。

 兵士たちが申込書を書き終えると、パイロットはプロペラ機の向きを変え、「こちら機長。今の緊急事態は冗談だ」と言って、無事に着陸した。

 冗談じゃないよ!

 ほとんどの兵士たちは、この実験に利用されたことに、憤りを感じたのではないかと思われます。

 なかには、次の実験台になる兵士たちあてに、機内にメッセージを残した者もいて、実験はうまくいかなくなったのだとか。

 これ、科学実験というより、『お笑いウルトラクイズ』だよねえ、当事者は芸人じゃないし、笑えないだろうけど……

 スタンフォード監獄実験や吊り橋効果など、よく知られた実験も含まれ、多種多彩の「普通じゃない科学実験」が紹介されていて、人間の好奇心の凄さと罪深さについて、考え込まずにはいられません。

 それでも、「答え」を知りたいのが、科学者であり、人間である、ということなのでしょう。
 自分が実験台にさえ、ならなければ。

 ……と思ったら、中には、自分自身で病人の吐瀉物を飲んで、病気が感染しないか確かめた、なんて人もいるんですよ。

 人間の「知りたい」という欲は、底知れないものですね。


fujipon.hatenadiary.com

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