- 2019年10月28日 09:06
トランプ大統領とシリアにとっての「IS指導者の殺害」の意味
2/2「バグダディ殺害」で消えない傷
とはいえ、「バグダディ殺害」が確かなら、ISが勢力を落とすことは間違いないとしても、それでISがなくなるわけでもない。
シリアやイラクでの旗色が悪くなるにつれ、すでにISは世界各地に飛散している。
そうしたグループの中には、本部からの資金援助や人員補充が難しいため、「真面目に」テロ活動をするより、身代金目当ての外国人誘拐や資源などの違法採掘など強盗と変わらない活動を増やすものも少なくない。フィリピンのアブサヤフ、ナイジェリアのボコ・ハラムなどは、その典型だ。
指導者と組織的バックアップを失い、それでも娑婆に帰れない戦闘員たちは、今後さらに強盗まがいの活動に向かう公算は高い。
実際、トランプ大統領も声明の中で「対テロ戦争が終わった」とは言わず、「世界はより平和になった」と述べるにとどめている。
焦点としてのISの反応
その一方で、(事実にかかわらず)仮にISがトランプ氏の発表を否定するなら、やや事情は変わってくる。
まず、ISの求心力が大きく損なわれることは期待できない。
そればかりか、「トランプ氏のトロフィ」への疑問が浮上する。
その場合、トランプ大統領は間違いなくISの発表を「フェイク」と切り捨てるだろう。しかし、言い分が食い違ったとき、どちらが真実かは容易に判断できない。
「フセイン政権が大量破壊兵器を持っている」と主張してイラク侵攻に踏み切ったように、トランプ政権以前からアメリカ政府がしばしばフェイクの出元になってきたことは、多くの人が知っている。また、トランプ大統領に物事を誇張するクセがあることも有名だ。
これまでISは「バグダディ殺害」の噂が立つと、あまり日をおかずに否定してきたことからすると、今後ISの反応が一つの焦点になる。
花と実
ただし、ISがどんな反応をするにせよ、対テロ戦争がすぐに終わることがないだけでなく、シリア情勢も基本的に変化しない。
ISの反応にかかわらず、アメリカ軍は「トロフィ」を強調しながらシリアから撤退する公算が高い。その場合、アメリカはすでに大半をロシアが押さえたシリアからの「栄光ある撤退」という花を手に入れ、シリアではロシアが影響力を握り続けるという実を手にするとみられる。トランプ氏が声明の中で、「ロシアなどの協力」に謝意を表明したことは示唆的だ。
つまり、ISだけでなくシリア政府とも対立するアメリカ軍が撤退することで、シリア政府を支援し続けたロシアの主導によるシリア内戦終結が実質的にほぼ完成することになる。
だとすると、その真偽にかかわらず、「バグダディ殺害」は行き詰ったシリア政策をアメリカ政府が転換させることの煙幕になるとみられる。それは中東でロシアが今後、これまで以上に大きな存在感をもつ前兆といえるのである。
※Yahoo!ニュースからの転載
- 六辻彰二/MUTSUJI Shoji
- 国際政治学者



