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中小企業の現場で働き方改革の実現を阻むものは何か - 玉木潤一郎(経営者)

働き方改革関連法案が施行され始めて、ようやく半年。

民間企業における取り組みも様々な形で行われており、筆者の経営するような零細な会社であっても、時短勤務や男性産休に取り組むなど日々奮闘している。

改革の旗を振る厚生労働省のホームページには働き方改革の実現に向けて数多くの情報が掲載されているが、それらは実際に私たち民間企業の取り組みに寄与しているのだろうか。

■働き方改革を邪魔している政府

私たちが会社経営の現場で労働時間の短縮を阻害する要因のひとつに、他でもない政府行政が挙げられる。中央と地方の連携のまずさ、それに縦割り行政の弊害がそれだ。

例えば労働環境の改善が求められている職種のひとつに筆者も経営する介護施設の職員がいる。彼らの労働時間も縦割り行政に圧迫されている。

介護報酬は公費である。その給付に際して書類整備を求めたり、不正に対して厳正に対処したりすることは正しい。また、過去に高齢者への虐待などの事件もあったことから、施設へ立ち入り実地調査を厳しく行うことも重要だ。

しかし地方自治体が行うそれらの業務や調査とはまったく別に、厚労省からの調査書類が大量に届く。内容は地方自治体と連携すれば全てわかることなので、事業者としては調査への回答は完全な二度手間だ。事業者にその二度手間をかけさせるために、厚労省もわざわざ手間をかけて調査書類を作成したうえに、記入方法が複雑で解りにくいため回答の手引き書まで同封されている。

記入後に郵便で返送せよという趣旨の依頼文が厚労省政策統括官名で同封されているが、実際に返送先となっているのは業務を丸投げされた民間のリサーチ会社であり、ここにも無駄なコストがかかっている。

■何重にも無駄な調査

前記のような無駄な調査書類は、介護事業所に限ったことではない。経済センサスをはじめとする様々な調査票が、中央省庁や地方行政から中小企業あてに続々と送られてくることで、それらが私たち民間企業の業務を圧迫していることは疑いない。

ほとんどの調査は、税務署と法務局と労働基準監督署が連携すればわかることであり、さらに外注されている調査会社は回答にどのようなウソを書かれていてもその真偽を確認する気がない。実際に筆者は、調査会社からの提出催促があまりにも居丈高だった際に口論になり「回答の真偽は問わないから適当に記載して早く出してくれ」と言われたことがある。

調査票への記入内容がウソであっても調査会社ではそれを見分けることをしていない。というよりも調査会社には確認のしようがない。もし真偽の確認ができるのであれば、最初からそれを集計すればいいのだから調査の必要はない。統計のための情報としては信ぴょう性の点で極めて脆弱で、そこに公費を投入することは税金をどぶに捨てているようなものだ。

前述の介護事業所の場合であれば、報告書類と実地調査で県や市は介護事業所を詳細に把握している。厚労省がリサーチ会社を使って再調査させる必要性は皆無で、地方と中央が連携すれば済むことである。

その他にも様々な政策が私たち民間企業の労務を増大させている。消費税増税にあたり現場の処理を複雑化している軽減税率などもそうだろう。

そもそも働き方改革の趣旨のひとつには、生産年齢人口が減少しているので個々の生産性を上げましょう、という点にある。

しかし中央省庁も地方行政も、相変わらず民間企業の生産性を上げる方向に向かう気配はない。ひと昔前のように窓口をたらい回しにされることは減ったが、筆者の経験でも複数の部署で結論を押し付け合ったり、担当者が異動になったとたんに処理が変わったりすることは日常茶飯事だ。

■働き方改革の実現性

ある若い経営者と話していて、なるほどと思ったことがある。

曰く「中小企業の働き方改革はもともとトップダウンよりもボトムアップの方がスムースだ。」という意見である。これは筆者も日々の会社経営のなかで痛感している。トップダウンの福利厚生は社員にとって過不足があり、本当に必要な配慮が不足していたりする。

もちろん全ての労務条件を社員から提案するのは不可能だが、例えば出退勤時間の自由度を定めたり、産休や育休の取得を促進したりといった社内の決めごとは実際に仕事をしている現場から提案された方が実現しやすい。

筆者の経験上ではボトムアップで検討したことが実現すれば、例えば部署によっては出勤時間を自主的に早めるケースがあったり、男性が育児休暇を取得する際に子育てを終えた女性が業務を支援したりしてくれる。

中小企業の働き方改革は、トップダウンよりもボトムアップの方が様々な面でスムースなのだ。現場の感覚を失った社長が良かれと思ってトップダウンしたことが、かえって現場の足を引っ張るような無駄を回避できる。

社長の指示ですらトンチンカンになるのであれば、中小零細企業の現場から遠く離れた霞が関や永田町から発信された働き方改革は、残念ながら現場では機能しづらい。

経営者としては、社員のワークライフバランスに寄与するためにも働き方改革は是非実現したい。とはいえ法制度をつくるのは政治家だ。官僚や政治家が用意した働き方改革を実現させるためには、まずは民間企業の手間を減らすことから始めるべきだろう。

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