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なぜ「世界に冠たる企業」は日本から消滅したか

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■大波が見えてから変わっても逃げ遅れる


それ以前の環境変化は、野球でいえば新しい戦術が開発されたとか、ルールが改定されたとか、その程度でした。ところが、90年代に始まったのはサッカーですから、野球チームのまま戦っても勝ち目はありません。

日本企業のなかにも、2つの大波を察知して警告を発した人はいたはずです。たとえば、グローバル市場で戦っていた人たちには予兆が見えたでしょう。しかし社内で「従来のビジネスモデルが通用しなくなる」と訴えても、実際に大波を見ないうちは誰も信じません。連続性、同質性が変革を妨げたのです。

30年前に必要だったのは、経営トップが「これからはサッカーだ」と即断し、自社をサッカーチームに切り替えることでした。ビジネスモデルを転換する。工場を手放してファブレス化する。過去の収益事業を売却する。そのうえで社外からサッカー選手を集めて、社内構造を一気に変革することでした。

連続性、同質性の組織では、そんな織田信長タイプの経営者はなかなか育ちません。よっぽど切れ者でも、異端児扱いされて常務どまりです。

この傾向は、現在もほとんど変化していません。先見性や実行力よりも、「あの人がトップなら会社全体の収まりがいい」という尺度でトップ人事が決まりがちです。しかも、穏健タイプの経営者ほど、もっと穏健な人を次期社長に指名します。負けつづけても、この連鎖は断ち切れないのです。

■経営危機が連続性、同質性を断ち切る

もちろん、すべての企業が連続性、同質性に陥っているわけではありません。本物の経営危機に直面した企業が抜け出す過程で改革が進んだことがあります。

たとえば、坂根正弘さんが社長を務めた頃のコマツがそうです。2001年の社長就任時、同社の赤字は過去最大の800億円に達していました。それが坂根さんの大胆な構造改革によって、2年後に約330億円の営業黒字が出るまで回復します。

坂根さんは米「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌のCEOランキングで、日本人でトップの17位に選出されたこともあります。最大の特徴は、人並み外れた割り切りのよさです。たとえば会計、調達、製造などを管理するERP(基幹システム)を導入する際、安価なパッケージを選び、まったく改変しないで社内の業務をERPに合わせました。社内システムにコストをかけても、建設機械を買ってくれるお客さんが増えるわけではないからです。

その一方で、競争領域では積極的に投資しました。建設機械にGPSを搭載した「KOMTRAX(コムトラックス)」です。建機の場所、稼働状況、燃料残量などがわかるという他社との差別化では、デジタル革命の波に乗ったのです。

坂根さんは平成を代表する名経営者のひとりですが、その坂根さんをトップに選んだ先代、先々代の経営陣も先見性に優れていたといえるでしょう。

コマツはかつて経営危機に陥ったことがあります。戦後に外資規制が緩和された最初の業界が建設機械で、1960年代に米キャタピラーの製品が入ってきて大打撃を受けました。このときに「政府は守ってくれない。自力で生き残っていかなくてはいけない」という企業風土ができたそうです。経営危機を乗り越え進化した企業は連続性、同質性にとらわれないという好例です。

■大企業の社長がダメな理由

大企業の連続性、同質性を断ち切るにはガバナンス改革が必須です。なかでもトップ人事の見直しは避けて通れません。

中西宏明、冨山和彦(著)『社長の条件』(文藝春秋)

大企業の社長といえば、新卒一括採用で就職し、そのまま終身雇用、年功序列のなかで育った60歳以上の男性が典型です。社内外に敵をつくらない調整タイプが多数を占めてきました。

トップ候補にそういう典型タイプがいるのは構いません。問題は、ほかのタイプが選択肢にないことです。

女性、40代以下、外国人が大企業の社長になることはほとんどありません。転職してきた人、海外経験が豊富な人も、社内政治に弱いので少数派です。

本来は、破壊的イノベーションが起きた30年前から社長候補のダイバーシティに取り組むべきでした。現場の業務は連続性、同質性が高いほうが効率的な場合も少なくありません。しかしマネジメント層は、新しい大波がいつ襲ってきても対応できるように、幅広い多様な選択肢を準備しておくことが必要です。

■闘争心を絶やさず、乱世を駆け抜けろ

経団連といえば、先ほど挙げた社長の典型モデルが集まっている組織です。その経団連が、いまやガバナンス改革に取り組み、30年の後れを取り戻そうとしています。

この改革に強い意欲を示している中西宏明会長は、日立製作所が7873億円もの赤字を計上した2009年に子会社から呼び戻されて社長に就任しました。そこからV字回復を達成したのは、コマツの坂根さんに通じます。

中西会長は2019年5月にリンパ腫で病気療養に入り、経団連の仕事をいったん離れたものの、会長代理を置かないまま3カ月半で復帰しました。中西会長のような経営者は、おそらくピンチに陥るとアドレナリンが出るのでしょう。「絶対に病気を治す」という闘争心は凄まじいものがありました。

グローバル市場が30年前の状況に戻ることはまずありません。令和のリーダー像は、乱世を好むタイプが有力であり、ほかにも多様なタイプを選択肢として準備しておくことが重要なのです。


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冨山 和彦(とやま・かずひこ)
経営共創基盤CEO
1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。07年に経営共創基盤を設立し現職。パナソニック社外取締役、東京電力ホールディングス社外取締役。
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(経営共創基盤CEO 冨山 和彦 構成=Top Communication)

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