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ラグビーの神・NZをイングランドが圧倒できた理由 - 大元よしき (ライター)


ディフェンスでプレッシャーをかけ続けたイングランド(写真・志賀由佳)

10月26日ラグビーW杯準決勝が行われ「ニュージーランド7-19イングランド」で2003年以来2度目の優勝を目指すイングランドが決勝戦へ駒を進めた。

 イングランドといえば前日本代表ヘッドコーチ(HC)として日本のファンにはなじみ深いエディー・ジョーンズがHCを務める世界ランク2位のチームである。しかし、4年前の前回大会では開催国でありながら予選敗退という悪夢のような屈辱を味わっている。エディー・ジョーンズがHCに就任してからは、2年連続(2016,2017)シックスネーションズで優勝を果たし、ラグビー母国としてのプライドを取り戻した。

 対するニュージーランドはラグビーW杯史上初の3連覇を懸けて本大会に臨む世界ランク1位のチーム。両チームの通算成績はニュージーランドの33勝7敗1分でイングランドを圧倒している。エディー・ジョーンズHC率いるイングランドが再び頂点に立つためには、どうしても超えなければはならない巨大な壁だった。

 闘いは試合前から始まっていた。ニュージーランドの戦いの舞「ハカ」に対してイングランドは「V字」の隊列で真っ向から対峙したのだ。「ただ立っているだけで終わらせたくなかった。敬意を表する形にしたいと思っていた」と試合後にイングランド主将のオーウェン・ファレルは語っている。また、ハードなタックルで存在感を示し続けたフランカーのサム・アンダーヒルは「我々もしっかり準備ができていることを示す意味があった」と振り返った。

 試合は入りから目まぐるしく動き出した。イングランドがショートパスで攻め続け、開始から1分40秒でセンターのマヌ・ツイランギがニュージーランドのゴールラインを陥れた。まるでビデオの早回しのような同じ時間軸とは思えないアクションに対し、ニュージーランドは後手に回った。それはあっという間の出来事で、まさに「間」は「魔」となったのだ。

 王者たるニュージーランドは、ボールを保持していない間もおおよそ自分たちのペースで、自分たちのアクションの中で試合を運んでいることが多い。しかし、イングランドのアクションの前に攻め崩された形だ。トライの瞬間、スタジアムは沸騰したかのような歓声に沸いた。

 ハカに対抗する陣形といい衝撃的な試合の入りといい、周到に準備されたもののはずだ。機先を制し王者のメンタルに強烈な一撃を加えたのである。試合後、エディー・ジョーンズHCは「彼らはラグビーの神だ。その勢いを削がなければいけない」、「ニュージーランドの弱みを突いて我々の戦い方をした」と語っている。

 ニュージーランドの焦りは序盤に留まらなかった。16分にはラインアウトをスティールされ得点チャンスを逸し、30分のスクラムではコラプシング(反則)を取られて反撃の糸口が作れない。一方イングランドはオブストラクション(反則)によってトライが認められなかったシーンも含め、目に見える形で流れを掴んでいった。そして前半終了間際にPG(ペナルティゴール)で3点を加点し「10-0」で折り返した。

 「ハーフタイムでは最後の20分をクローズする15人の役割がいかに重要であるか、という話をしました。最初の20分よりも最後の20分、特にセットプレーが重要だと伝えました」(エディー・ョーンズ)

敵陣に攻め込めなかったNZ


オールブラックスのハカに「V字」で向き合ったイングランド(クレジット筆者)

後半の主役もイングランドだ。開始から2分でPGを狙い(不成功)、5分でラインアウトモールからトライ(これはモール内でボールを落とし無効)を狙ったが、どちらも得点には繋がらなかったもののイングランド優位の印象を強くした。その後、8分にPGを決め「13-0」とイングランドの優位は強まったかに見えた。

 しかし、16分にイングランドのゴール前でのラインアウトのキャッチミスを突いてニュージーランドのアーディー・サベアがトライを返し「13-7」。ニュージーランドが逆転のきっかけを掴んだかに見えたが、そこまでだった。イングランドは21分と28分にPGを決め「19-7」と突き放し試合を決めた。

 この試合をテリトリーの面から見るとイングランド62%、ニュージーランド38%である。いかにニュージーランド陣内で試合は進められたのかわかりやすい。その点について、ニュージーランドのスクラムハーフ、アーロンスミスは「相手陣内に行くことができなかった。イングランドはディフェンスで非常によいプレッシャーをかけてきた。特にブレイクダウンで圧力を掛けられ、我々が突破しようとしていたところでターンオーバーをされた。クリティカルな場面でそういった状況がおきた」と語り、「他の試合ではスムーズにゲームプランを執行できたのに今日はイングランドのディフェンスのプランが優れていた」と語っている。

 イングランドはフィジカル面でもメンタル面でも早い段階から優位に立つ戦略を立てていた。それが前半の入りで見せた集中力であり、そこからのトライだ。あの一撃が一試合を通してニュージーランドを苦しめ続けたとみていいだろう。それ以降、高いディフェンスラインを武器に一度も流れを譲ることなくイングランドはニュージーランドの攻撃を防ぎ試合の主導権を握り続けた。ラグビーは15体15でひとつのボールを奪い合う競技だが、心と心の戦いでもある。ゆえにいかに先に相手の心を攻め崩すか。そこに勝敗のカギが隠されている。

 この日、ニュージーランドの反撃の糸口をハードなタックルで芽を摘み続けたサム・アンダーヒルは「ニュージーランドは非常に強い選手たちだから、最初から仕掛けていかなければ良い終わり方ができない。途中でスイッチオフするような瞬間があれば強烈なアタックを食うので常に我々は全開でいかなければならなかった。それが80分までできたと思っている」と勝因を挙げた。

 一方、ニュージーランドのスティーブハンセンHCは「イングランドは素晴らしいチームだった。この試合にエネルギーの全てを費やしてきた。負けを認めるのはつらいが我々は負けを認める。痛みはあるが恥ずかしさはない。全力を尽くしたが、我々よりも優れたチームに負けただけ。オールブラックスに後悔はない。今は残念だが、明日の準決勝の敗者と戦うことにエキサイトしたい」と敗戦を振り返った。

 また、キアラン・リード主将は「すべてを出し尽くしたが追いつけなかった。我々がどれだけハードワークしたか見ていただいた通り。選手は全てを出し切ろうと戦った。何が欠けているのか今はわからないがこれからも前進していきたい」と語った。

 イングランドのエディー・ジョーンズHCは、「相手には2度優勝している素晴らしいコーチがいる。巧みな試合をしてきたので全力を尽くさなければならなかった。我々は世界最高のチームになろうとプランを立てて2年半準備してきた。毎日のハードワークとこれまでの準備が習慣化して、この試合に出すことができた。選手はエネルギーを持って規律を守って最後まで戦ってくれた。歴史はまだ作られていない。来週の試合が残っている」とすでに頂点への道を見据えていた。

 可能な限りの準備を積み重ねるエディー・ジョーンズHC。W杯における勢力図を書き換える準備はすでに整えていることだろう。

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