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福島県いわき市の乳がん診療

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次に、現在、いわき市において乳がんの手術や抗がん剤治療などを実施している有床医療機関について考えます。筆者が理解する限り、現在このような施設は主に4つ存在します。(旧いわき市立総合磐城共立病院)(許可病床数 700床)、福島労災病院(許可病床数406床)、ときわ会常磐病院(許可病床数240床)、呉羽総合病院(許可病床数199床)です。

2017年ではありますが、いわき市医療センター、福島労災病院の年間の乳がん治療数は、それぞれのホームページにおいて、62例(手術症例のみ)、50例(手術症例以外も含む)と報告されていました。なお、同年のときわ会常磐病院の乳がん手術症例数は26例でした。呉羽総合病院の手術症例数は公開されていませんでしたが、ときわ会常磐病院と病床規模が同程度であり、およそ同数の乳がん患者の治療が実施されていたと仮定すると、ときわ会常磐病院と呉羽総合病院において、50〜60例の乳がん手術が実施されていた推計になります。

以上を合わせると、2017年に4つの医療機関で手術を受けた乳がん患者数は160170例ほどになりそうです。かなり粗い計算にはなりますが、いわき市の乳がんの年間の発症数によって4050例ほど(約20%)が市外で治療を受けているという計算になりました。どの地域においても地域外で治療を受けることを希望される方は一定数いらっしゃいますので、この割合が大きいか少ないかを議論することは簡単ではありません。ただ、私が以前相双地区において最大の自治体である南相馬市の医療機関のデータを分析した際には、地域外の医療機関で治療を受けた乳がん患者の割合はおよそ10%ほどでした。2 そのため、いわき市は南相馬市よりは高い水準であったとは言えるのかもしれません。

私には個別の患者さんがどのような経緯や理由をもって、市外で治療を受けるようになったかはわかりません。ある人は東京のがん専門病院や大学病院、その他の大病院で治療を受けることに価値を見出したのかもしれませんし、別の人は遠くに住む子どもが自分たちの近くで治療を受けることを勧めたのかもしれません。また、医師も患者も人間ですから、単純に主治医との相性の問題だったということもあります。少なくとも、私がいわき市に赴任してからも市外の医療機関での治療を希望される方々はいらっしゃいますので、乳がんの治療に関しての物理的なアクセスのみが理由というわけではないと考えています。

▲写真 呉羽総合病院 出典:Wikimedia Commons; Altomarina

ただ、乳がんは、当然例外はありますが、心血管疾患や他の消化器がんと比較すると、比較的進行が緩やかな疾患であることが知られています。そのため、日から週の単位で治療が遅れたからと言って治療成績が悪化するということは一般的ではありません。実際、医学誌ランセットに1999年に発表された研究によると、症状の自覚から3ヶ月の治療の遅れが予後悪化の1つの目安として用いられています。

ですから、いわき市外の医療機関を受診し治療を受けたからと言って、スムーズに治療が実施されれば、その後の生存に大きな影響を及ぼすことはあまりないだろうと思われます。ですから、筆者は、市外で治療を受けるという選択は決して悪いことではないと考えます。一般的に、紹介先としては、福島県内であれば郡山市にある星総合病院や福島市にある福島県立医科大学病院、福島県外であれば都内のがん専門病院を選択される方々が多くいらっしゃる印象です。

もちろん、乳がん診療は現在かなりの部分で標準化されており、いわき市で提供されている診療が都市部と比較して劣っているとは思いません。とはいえ、いわき市には乳がんの専門医の資格を持った常勤医は現在1人(いわき市医療センター)のみであり、ほぼ同じ人口規模の郡山市や福島市と比較すると、とても少ない水準です。このようないわき市の現状を考えた際、乳腺外科医として勤務することは、乳がん患者さんの治療選択肢増加につながる重要な取り組みと考えています。

名誉院長の江尻友三医師を引き継ぎながら診療体制をさらに充実させ、現在、当院においては、放射線治療や乳房再建を除いては、原則として標準的な検査や治療を提供する体制が整えられています。幸い、少しずつではありますが当院の乳がんの治療数は増加しています。2017年の乳がん手術数は26件でしたが、2018年には56件、2019年は1月から9月までの手術数は50であり、2018年よりもう幾ばくか増加しそうです。

もちろん手術数や患者さんの数が単純に増えることが最終目的ではありません。しかし、患者さんの治療数が増えることで、経験が蓄積され、診療の質の向上や標準化に繋がることも事実です。今後も、地域に暮らす患者さんに乳がん治療の選択肢を増やすことを目標に診療を続けていきたいと思っています。このような理念に賛同して私と一緒に、ときわ会常磐病院の乳腺診療に従事していただける方がいれば、ぜひお声がけくださいますと幸いです。

参考文献

  1. Higashi et al. The National Database of Hospital-based Cancer Registries: A Nationwide Infrastructure to Support Evidence-based Cancer Care and Cancer Control Policy in Japan. Japanese Journal of Clinical Oncology.
  2. Ozaki et al. Breast cancer provider interval length in Fukushima, Japan, following the 2011 triple disaster: a long-term retrospective study. Clinical Breast Cancer.

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