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福島県いわき市の乳がん診療

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乳がん・ピンクリボンイメージ 出典:Pixabay; Gordon Johnson

尾崎章彦

(南相馬市立総合病院地域医療研究センター客員研究員、

ときわ会常磐病院乳腺外科)

【まとめ】

・いわき市の医師数は相対的に低下。

・いわき市の乳がん発症数のうち約20%が市外で治療。

・治療数を増やし、経験が蓄積することで乳がん治療の選択肢を増やしたい。

私は卒後10年目の乳腺外科医です。2018年7月より、常勤として、福島県いわき市のときわ会常磐病院において乳腺診療に従事しています。福島県いわき市は福島県沿岸部の南側1232km2を占め、香川県(1,877 km²)の3分の2ほどに相当します。一般には、2006年に映画「フラガール」の舞台となったことで馴染み深いかもしれません。ただ、実は、いわき市が、福島県で最も多くの人口を抱える自治体であることをご存知の方は少ないのではないでしょうか(2019年6月時点で34万人)。これは、東北全体でも宮城県仙台市に次いで第2の数です。

このように、いわき市は人口・面積ともに福島県の自治体で屈指の規模を誇り、医療に関しては、単独で福島県7医療圏(県北、県中、県南、会津、南会津、相双、いわき)の1つを構成しています。ただ、いわき市の医療は歴史的に医師不足に悩まされてきました。例えば、東日本大震災前の2010年、人口10万人あたりの医師数は160であり、全国平均の219人、また、福島県平均の182人と比較して少ない水準でした。その背景には、東京都や福島市、仙台市をはじめとする医科大学や総合大学の医学部を抱える都市圏から距離があったことや新幹線が福島県中通りに建設されたことが影響していると思われます。

そして、東日本大震災と福島第一原発事故後の2016年、人口10万人あたりの医師数は160人と震災前と同等の水準にあります。この数値をどのように判断すれば良いでしょうか。震災前と変化がないことをもって、いわき市の医師不足が震災前と比較して悪化していないと考える向きもあるでしょう。一方で、特筆に値するのは、この期間に日本においては、一貫して医師の増加政策が実施されたことです。その結果、2010年に約29万5000人だった医師数は、2016年には31万9000人まで増加しています。

そのような背景のもと、同年、人口10万人あたりの医師数の全国平均は240人、福島県でも196人まで増加しています。これらいわき市外部における医師数をめぐる変化を考慮すると、いわき市の人口当たりの医師数は2016年までの期間に相対的に低下したと言えるでしょう。なお、福島県の7つの医療圏における医師数の変化を見ると、医師数が増加していない医療圏はいわき市のみであり、いわき市が周囲から取り残される形になっていることがより鮮明になります。

▲写真 松ヶ岡公園から見たいわき市中心部 出典:フォト蔵Daa

なぜこのような事態に陥ったのでしょうか。その理由を明らかにする上で、同じ福島県浜通り地方に存在する相双医療圏との比較は何らかのヒントを与えてくれるかもしれません。前述の通り、相双医療圏においては、2011年から2016年にかけて、医師数が増加していました120.4→145.3人)。同地域に福島第一原発が存在することを考えると、意外に思われる方もいると思います。筆者は、相双医療圏において医師数が維持された理由として、震災後に、仙台市からのアクセスが維持されたことが大きいと考えています。一方で、震災後、いわき市においては福島市や郡山市を経由しなくては仙台市に移動することが不可能になったのです。

いわき市で働き出して驚いたのは、この地域に長く住んでいた住民の中に、「いわきで大きな病気(がんや心血管疾患)になったら諦めるしかない。」といったことをおっしゃる方がいたことです。福島で働いて8年になりますが、医療者の数が少ないとされている相双地区で働いていた時でさえ同様の言葉は聞いたことがありませんでした。もちろん、現在のいわき市の医療水準を考えた時にこのような言葉が必ずしも真実とは考えません。ただ、歴史的に医師数が少なかったことや、周囲の都市部への移動も容易ではなかったこともあり、長い時間の中でこのような意識が住民の中に醸成されてきたのかもしれません。

では、いわき市において乳がんになった方々はどのような経験をしてこられたのでしょうか。この点について考える時に個人的に思い出されるのが、私が赴任する以前に、「いわき市内で乳がんの診断を受けた後に市外で治療を受けている方々が大勢いる」という話を耳にしたことです。いわき市の乳腺診療について検討するために、今回、この風評についてまず検証してみたいと思います。まず、いわき市において年間にどの程度の方々が乳がんになるかを推測します。

国立がん研究センターによると、2014年に乳がんと診断された女性は日本全体で78,529人いたと報告されています。これは現在手に入る中で最新のデータです。年齢構成の違いなどを考慮せずに単純化して、同じ発症率でもっていわき市の女性が乳がんを発症したとすると、2017年(人口34.6万人)には220人ほどが乳がんと診断された計算になります。手術の対象となることが少ないステージ4は約4%と報告されていますので、1 ステージ3以下で発見される乳がん患者はおよそ210人ほどになりそうです。

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