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日本国民の対中認識が改善しない中、世界やアジアの将来を見据えた日中協力の具体的な姿について議論を開始する必要がある ―「第15回日中共同世論調査」結果を受け専門家3氏が一致

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北東アジアの平和に向けた日中関係安定化の必要性を理解している両国民

 続いて安全保障について工藤は、基本的な緊張感は日本で変わっていないが、中国で軍事的な脅威を感じる人が少なくなっていること、その反面、昨年から両国で運用が始まった「海空連絡メカニズム」だけでは日中の偶発的な軍事衝突を避けるには不十分だ、と考える人が両国で3割を超え、さらに北東アジアの平和を実現するための多国間対話の枠組みが「必要だ」とする人が日本で5割、中国で6割に達したことを説明し、この意識をどう読むかと、問いました。

 これに対し加茂氏は、「足元で米中対立が価値観を巡る争いに発展し、北東アジアがかつてない転換点に立っていることを、両国民は的確に認識している表れであり、それがゆえにこの地域に平和秩序が必要さ、という回答が多くなったのではないか」と述べました。

 坂東氏は、多国間枠組みの参加国として、日本人では「中国」を挙げる人が9割になっているのに対し、「米国」を挙げる人が減ったことについて、「日本人は日米同盟の維持を望みながらも、中国との関係を安定化させるシステムとして多国間枠組みが必要だと思っている。だから、日中が主要なプレイヤーとして参加することを期待している」との理解を示しました。

 また、朝鮮半島の非核化に向けた現状の外交努力について、日本人は「十分でない」が過半数、中国人は「十分だ」が7割超という逆の結果になったことについて、坂東氏は「日本人と中国人が考える朝鮮半島安定化の姿には相当な乖離がある」とし、中国人にとっての外交は中国と北朝鮮との外交であって、「習近平氏は、金正恩委員長と最も合っている首脳であり、中国と北朝鮮との関係が安定していることに満足してだけではないか」と語りました。

「自由で開かれた経済」を強く支持する中国人

 次に、工藤は、ルールに基づく自由貿易や開かれた経済秩序、多国間主義が重要だと考える人は日本人で7割、中国人で8割。またWTO改革への支持も日本人で5割、中国人で8割」と調査結果を紹介し、中国人の中に、ルールベースでの自由貿易に強い支持があるが、、中国の構造改革への支持にそれが繋がっているのか、と問いました。

 加茂氏は、自由で開かれた経済に対する中国人の支持が高い理由を、「中国の調査は都市部で行われて入り、まさに中国自身がこうした経済環境の中で発展し、生活水準を高めてきたであり、それ以外で自分の生活が高まることはあり得ない、と認識しているからではない」と分析。園田氏は、自身が中国で行った調査での経験を元に、中国人には、そもそも今の中国政府に対して、「これはおかしいのではないか」「違う見方もある」とは調査であっても言えない状況だと、言います。

 さらに「自由経済では勝者も敗者もいるが、敗者の声を代弁する政治勢力もいない。失敗は自分の問題であり、政府が提起する自由貿易とは関われない、それが支持になっているのではとの見方を示しました。

 坂東氏は、習近平主席が世界の自由秩序や多国間主義をリードすることに意欲を示している背景として、「中国国内にも、外圧を利用し構造改革を進めたい勢力が存在する」ことを指摘。ただ、そうした声が今回の調査結果にどこまで反映されているかはまだ分析が必要だ、としました。

中国人の自国メディアへの圧倒的信頼に潜む、日中関係の不安定性

 次に、工藤は、自国のメディアを客観的で公平だと考える人が、日本の1割に対し、中国では8割に上ることに注目。この違いを、どう考えるか、と問ました。

 これに対し加茂氏は「中国人の自国メディアへの高い信頼は、むしろ日中関係の不安定性を示唆している」と回答。日中関係には、政府間関係の悪化が経済面にも波及する構造があるとし、「共産党が望む日中関係の姿が世論に投影されているとすれば、政府間で何か問題が起きたとき、それが社会全体に悪影響を与えてしまう」と、一党支配のもと政府と世論が一体化していることの負の側面を語りました。

 坂東氏は、中国政府の宣伝担当者と対話した経験から、「中国のメディアは、自分たちは日中友好に貢献しているが、日本のメディアは貢献していないと思っている」と発言。「この20~30年、日本では『中国崩壊論』があふれていたが、実際の中国経済は強大化している」と述べ、日本の対中報道にバイアスがないか、メディア自身としても点検していきたいという意向を語りました。

世界やアジアを見据え、日中は共通の課題で共通の利益を見出せるか

 最後に工藤は、日中両国民の間で、今回の調査でもアジアが目指すべき理念や目標について、「平和」と「協力発展」が両国で多数となったこと、を紹介。このようにアジアや世界を見据えた日中協力を、今後進める上でのポイントを3氏に尋ねました。

 坂東氏は、「懸念している世界の課題」で日中の回答に地球環境など、共通項が多い結果に触れ、こうした共通の課題で共通の利益を見出せるかが、政府間外交でも重要になると述べました。

 これに関連し加茂氏は、今回の中国側の調査対象が、生活水準の高い都市部だったことに触れ、「中国の経済成長は日本との価値観の距離を縮めていく可能性が高い」と発言。この点からも、中国の発展を日本が支えていく意義があるとしました。

 園田氏も、日中の大学生同士の交流に携わった立場から、国民間の価値観が近いことに言及。「実際にどういう形で、どちらがイニシアティブをとって、どういうアジェンダ設定をするかで問題が出てくる」と述べ、日中が相対的な国力のベクトルの違いを乗り越えながら協力できるかがポイントだ、と語りました。

 最後に工藤は、「今までになくレベルが高く、日中関係に様々な見方を提供する議論になった」と総括。「世界が大きく変化し、その中で強大化した中国の隣に日本がある。この不安定な世界で日本がどのような立ち位置を取るか、決定的に重要な局面になっている」とし、「今回の調査結果と、今日の議論の内容を合わせて、日本の目指すべき方向を考えてほしい」と呼びかけ、1時間を超える議論を締めくくりました。

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